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第11回 もう一つの刑事司法改革〜検察審査会法の改正について〜

H21.11.02 福元 隆久
  • はじめに
    今年になって,2001年7月21日に発生した明石歩道橋事故に関し検察審査会が元県警明石署副署長に対して,2005年4月25日に発生したJR福知山線脱線事故に関し旧経営陣に対して「起訴相当」の議決をしたとの報道が相次いでなされました。
    検察審査会自体は以前から存在する制度で,刑事事件についての起訴権限を独占する検察官の起訴不起訴の判断に民意を反映させることを制度の目的として,検察官が不起訴とした事件について,事件被害者等の不服申立に基づき,任意に国民の中から選ばれた11人の検察審査員がその不起訴処分が相当か否かを判断することを業務としていますが,これまで新聞等で報道されたことはあまりありません。
    それでは,今年になって何故このような報道がなされるようになったのでしょうか。
    今年は,裁判所での刑事事件の審理について裁判員制度が開始され,裁判所での刑事事件というと裁判員裁判に関する報道が目につきます。
    裁判員制度は,これまでの刑事裁判手続を大きく変えるもので刑事裁判にかかわる我々弁護士にとっても対応に頭を悩ませる制度なのですが,実は,裁判員制度が始まった本年5月21日に,新たに改正された検察審査会法も施行されているのです。
    そこで,検察審査会法の改正によって,何がどのように変わったのかを弁護士の関わりという視点から簡単に説明したいと思います。
  • 起訴議決判断に対する拘束
    (1) 検察審査会の業務は,検察官が不起訴として事件について,事件被害者等の不服申立に基づき,再度起訴すべきか判断するというものです。しかし,改正前は,検察審査会の判断は,検察官の判断を法的に拘束しないものと定められていました。したがって,検察審査会が検察官の行った不起訴処分が不当で起訴が相当であると判断したとしても,検察官は,検察審査会の意見を尊重しても,独自の判断により再度不起訴とすることができました。
    (2) ところが,改正検察審査会法では,検察審査会が第1段階の審査において起訴相当の議決をしたのに,検察官が再度不起訴処分をしたときや一定期間内(原則として3か月ですが最長6か月まで延長できるものとされています)に公訴を提起しなかった場合には,検察審査会は第2段階の審査を開始し,その審査で11名中8名以上の多数により改めて起訴相当の決議がなされれば,強制的に起訴がなされるものとされました。
    したがって,以前は,拘束力のなかった検察審査会の判断に対し,一定の場合ですが,拘束力が持たされるようになったわけです。
    このように,今年の制度改正により検察審査会の判断に一定の拘束力が持たされることになったことは,報道でも解説されているのでご存じの方も多いと思いますが,ここから先の公判手続を検察官が行うものではないことはあまり報道されていません。
    (3) では,皆さんは,誰が検察官として公判手続を行うと思いますか?
    実は,このような場合には,弁護士が検察官役として公判を行うものとされているのです。
    すなわち,二度目の起訴議決がなされ事件について起訴が強制される場合には,裁判所が検察官の職務を行う弁護士を指定し(指定された弁護士のことを指定弁護士といいます),指定弁護士は,警察官や検察事務官の捜査を指揮して補充捜査を実施し,起訴状を作成して公訴を提起し,公判手続では起訴状朗読,証拠調べ請求,被告人質問など検察官役としての公判活動を行い,裁判所の判決に対して上訴するかどうかを判断しなければならないのです。
    弁護士としては全く畑違いの仕事をしなければなりませんし,検察官が二度も不起訴が相当と判断した事件について平素は指揮命令関係のない警察官や検察事務官を使って有効な捜査ができるのか不安が大きいと言わざるをえません。
    また,先の明石歩道橋事故やJR福知山線脱線事故のように複雑な案件では,捜査資料も膨大で,公判維持に要する業務量も膨大なものとならざるを得ません。
  • 審査補助員
    (1) また,検察審査会が審査を行う際,事務局の資料に基づき,国民の中から任意に選ばれた検察審査員が協議をしていたのですが,検察審査会が法律に関する専門的な知見が必要だと判断した場合などに,弁護士を審査補助員として委嘱することができることにもなりました。
    (2) 事件が複雑で良く分からない場合に,弁護士に来てもらって論点を整理してもらい,これを噛み砕いて分かりやすく説明してもらうことができるようになったわけです。
    これも今まで弁護士がやったことがない業務です。
  • 最後に
    以上の通り今年の刑事裁判制度の改革として裁判員制度が注目を集めていますが,検察審査会制度も大きく変わっています。
    明石歩道橋事故では,検察審査会の第1段階の起訴相当の議決に対し神戸地方検察庁は再度不起訴処分の判断を下し,現在,神戸第2検察審査会で再審査がなされています。
    検察審査会がどのような判断を下すのか,仮に8名以上の賛成多数により起訴相当の議決がなされた場合指定弁護士がどのような公判活動を行うのか注目して下さい。
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