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第110回 野球のデットボール等と法的問題
−日本シリーズ「加藤選手への危険球」をヒントにして−

H24.11.13 幸寺 覚
  • 11月3日,巨人が日本ハムを4−3で下し,日本一となり,日本シリーズは幕を閉じました。プロ野球ファンは,色々な思いでこの日本シリーズを楽しんだことだと思いますが,取り分け,第5戦の日本ハム多田野投手が巨人バッター加藤選手へ投げた危険球をめぐり,色々言いたい方も多いのではないでしょうか。今回は,この危険球をヒントに,デットボール等に関し,日頃あまり意識しない法的な問題を考えてみました。

  • 今回,この危険球が,加藤選手の頭に実際当たっていた場合は,どんな法的問題が考えられるのでしょうか。野球でなかったら,ボールを頭に当てたら,暴行の故意があるか否かにより,刑事上は,暴行罪(刑法第208条)やそれで怪我をすれば,業務上過失致傷罪(同第211条),傷害罪(同第204条)の問題ということになり,民事上は,損害賠償請求権が発生するのかということになりますが,誰もそんなことを考える人はいません。これは,野球というスポーツでのデットボールは,誤って当てた(さらに怪我をさせた)としても,通常予想される範囲の危険であり,正当業務行為(刑法第35条,プロ野球だけでなくアマチュアでも基本的に同じ)としてその行為に違法性がない(違法性阻却)と判断され,ピッチャーが刑事責任を問われるようなことはありません。形式上暴行や傷害になるレスリングやボクシング等を考えれば,分かり易いと思います。すなわち,スポーツの目的でかつルールを守って行われ,相手の同意がある範囲で正当化されると考えられます。しかし,バッターを怖がらせたり怪我させるために,当たってもいいと思って内角に投げてデットボールになり重大な怪我を負わせたら,野球界の内部的な処分もさることながら,刑事事件としても全くお咎めなしという訳にもいかないでしょう。一方,民事上も,スポーツに際して損害を与えた場合,ルールに従っている限り,正当業務行為として違法性がなく,免責されますので,損害賠償責任(民法第709条)を基本的に負うことはありません。

    ただ,いくらスポーツであっても,ルールを破って故意に暴行を加えた場合は,許されません。最近では少なくなりましたが,プロ野球選手等の試合中の乱闘事件でも,場合により傷害罪で罪に問われることはあります。1982年に某球団の2コーチが,審判に判定をめぐって暴行をして怪我をさせたとして,傷害罪の罪に問われたことがありました。従って,プロスポーツであり,お客さんに見せ場を作らないといけませんが,乱闘など度を過ぎると,刑事事件に発展してしまうこともあるのです。もちろん,そのような場合は,民事上の損害賠償請求権も発生します。あくまで,ルールを守っている範囲で保護されるということです。

  • 次に,少し余談ですが,今回の危険球が疑惑の判定となり,誤審ということになっていますが,このような審判の判定を,裁判所である司法の場で判断してもらうなんてできないのでしょうか。常識的に考えて,そんなことを裁判に訴える人はいないと思いますが,仮に,日本ハムが審判を相手に,誤審であることの確認を求める訴訟をしたら,裁判所はどのように判断するのでしょうか。

    裁判をするためには,訴える人に訴えの利益がなければならず,そのためには,当事者間の具体的な権利義務又は法律関係の存否に関する紛争であって,かつそれが法律を適用することよって終局的に完結することができるもの(法律上の争訟,裁判所法第3条)である必要がありますが,誤審かどうかは,法律上の争訟ではありませんので,裁判所は,そのような訴えを却下(門前払い)することになります。従って,誤審かどうかを裁判所が判断する機会はあり得ません。ただ,例えば,当該審判が別のある理由に加え,今回の誤審ということも理由に加わって,審判を辞めさせられたとかいうような場合,審判が雇用主を不当解雇で訴えたら,その解雇の理由として正当かなどを判断する一場面として,本件が本当にヘルメットに当たっていたのかいないのか,誤審なのかということは,事実認定として判断されるかもしれません。

    このように,裁判所は何でも判断してくれる場所ではなく,国民の具体的な権利義務等に関わることのみ判断される場なのです。

  • その他,スポーツ紛争をめぐっては,色々な法的な問題がありますが,またの機会にお話ししたいと思います。

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