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第114回 中国で企業が労働契約をする際における注意点(一)

H24.12.13 張 麗霞

労務問題は,中国で現地法人を設立している会社が必ず直面する課題であると思います。中国と日本の法律,文化および考え方が異なるため,問題の発生をできるだけ防止し,少しでも有利な契約を締結することが非常に重要なことです。

今回は,特に会社からの相談が多い問題を取り上げ,会社に有利な労働契約条項の作成を解説いたします。

  • 労働契約にはどんな内容がありますか?

    中国「労働契約法」第17条1項により,労働契約書には使用者名称,住所と法定代表人または主要責任者,労働者氏名・住所と身分証明書番号,労働契約の期間,仕事の内容と勤務地,勤務時間・休憩時間および休暇,社会保険,報酬,労働法保護,労働条件と職業病危害防護に関する事項を設けなければならないと規定されています。これらは法定事項と呼ばれ,法定事項を欠く労働契約書は無効と認定されてしまうので,必ず注意してください。

    同条2項においては,使用者と労働者が協議により試用期間,トレーニング,秘密保持,補充保険と福利厚生に関する事項を決めることができると規定されています。これらの事項は,法定事項ではありませんが,きちんと規定することによって,大幅にリスクを回避できるため,会社が最も重視すべき規定です。

  • 試用期内に採用条件に達していない者を解雇できますか?

    「試用期内だから,いつでも解雇できる」と考えている方が多いと思いますが,答えとしては「NO」です。

    労働契約法第39条1項1号により,試用期内に,「採用条件に達していないことが証明できたとき」,使用者は労働契約を解除することができる,とされています。言い換えると,この「証明」ができなければ,会社が単独で労働契約を解除することはできないのです。しかし,実務上,多くの会社は「採用条件」を書面で定めていないことが多く,そのため「採用条件に達していないこと」を証明できない場合がほとんどです。もし採用条件に達していないことを証明できないまま,従業員を解雇したら不当な解雇と判断される可能性が大きいです。

    そのため,採用予定の職務に求められる能力を採用条件として,あらかじめ契約書に記載し,試用期間を終了する前に審査を設けることによって,「証明」という点はクリアになりますので,不当な解雇と判断されるリスクはかなり減軽されます。

  • 従業員が会社の就業規則に違反した場合,会社は従業員に解雇または配置転換を命じることが
    できますか?

    労働契約法第40条によると,従業員が在職中に,重大な職務怠慢または職務に従事する能力がないと証明されたとき,会社は従業員を解雇しまたは配置転換を命じることができる,と規定されています。従業員の能力についての立証責任は会社側にあるため,これを証明できない状態で従業員を解雇すれば,違法解雇に当たるとして解雇無効または二倍の経済補償金を支払うことが命じられます。実務上,「重大な職務怠慢」または「職務に従事する能力がない」ことについて立証することは難しく,仮に従業員の能力・行為自体を立証できても「重大な職務怠慢」や「職務に従事する能力がない」ことについては,客観的な基準がないため,労働仲裁委員会または裁判所に違法解雇と判断されるケースが多いところです。

    そこで,労働契約書に各職務の責務と就業基準を明確に定めることにより,問題が発生した場合に,労働契約書に書かれた内容を判断の客観的基準とすることができ,会社に不利な判決を回避できます。

  • 減給処分ができますか?

    労働契約法第35条においては,「使用者と労働者が協議により,労働契約書を変更できる。労働契約の変更は,書面によらなければならない」と規定されています。日本法においては,企業が就業規則に違反した従業員に対し減給処分ができますが,中国法においては,減給処分が「契約の変更」にあたるとして,使用者が単独で行うことができません(法定事由がある場合を除く)。

    解決方法は,契約書に「業務の達成度によりボーナスの金額を決め」,「給与の金額は,一定の条件に達したときに自動的に調整する」旨を定めることです。こうすれば契約の変更ではなく,契約条項に基づいて給与の額を調整することによって,減給処分が可能です。

  • 職務配置移転を命じた従業員に対して給与の調整を行うことができるか?

    よく「従業員が元の職務に勤める能力がなく,別の部門へ移転させたとき,新しい職務の給与が元の職務の給与より低い場合,給与を変更することができるか?」という相談を受けます。実は,職務の変更に伴う給与の変更の可否について,現行法には明確な規定はありません。学説は,賛成説と反対説のそれぞれに分かれており,賛成説の根拠は「同工同酬」(同一の職務が同じ給料を得ること)という原則の観点から,給与の変更を肯定していますが,実務上は,給与の変更は「労働契約」の変更に当たるとし,労働者保護の観点から従業員と書面で合意しない限り変更できないという反対説に立っています。

    職務の変更に伴う給与の変更,特に実質的には減給になる場合に従業員から反発されることが十分に予想されます。もし,労働契約書に「考課による職務配置移転を命じることがあり,職務配置の移転に伴う給与の変更が可能」と規定し,事前に従業員へ説明していれば,変更することが可能になります。

次回は,引き続き,従業員による無断退職に対する法的責任(通常,従業員は,退職の30日前までに会社に対して辞職する意思表示をしなければならない),守秘義務,競業禁止事項について説明します。労務問題に関する問題がございましたらお気軽にお問い合わせください。

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