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第125回 消費者団体訴訟制度の動向

H25.4.9 名倉 大貴
  • 消費者法分野の改正の流れと消費者団体訴訟

    平成12年の消費者契約法制定に始まり,平成18年の消費者契約法改正,平成20年の特定商取引法の大改正,平成21年の消費者庁の創設,昨年の消費者安全法の改正など,消費者法分野は近年かなり動きの大きな分野となっています。

    今回は,これらの動きの中で,(1)平成18年の消費者契約法改正によって導入された適格消費者団体による差止請求の制度の最近の動向(後記2),および,(2)昨年8月に制度案が公表され,今後法制化が予定されている「集団的消費者被害回復に係る訴訟制度」(後記3)についてご紹介したいと思います。これらの制度は,個々の消費者の被害額は小さいものの,同種被害が多発するという特徴がある消費者被害の防止および救済を実効性あるものとするために,個々の消費者に代わって一定の要件を満たした消費者団体が訴訟を提起することを許容する制度である,という点で共通しています。すでに法制化されている(1)の制度に基づく差止等の請求については,かなりの裁判例や和解事例が出てきており,また,(2)の制度については,パブリックコメントの手続が終了し,最終的な法案としてまとめられているところです。

  • 適格消費者団体による差止請求

    適格消費者団体による差止請求の制度は,現在では,消費者契約法,景表法,特定商取引法において制度化されており,具体的には,内閣総理大臣が一定の要件を満たすものとして認定した「適格消費者団体」が,事業者に対し,

    (1)  消費者法,景表法または特定商取引法上取り消しうる行為とされていたり,禁止の対象とされている不当な勧誘行為等の差止め等

    (2)  これらの法律において無効とされている消費者にとって一方的に不利益な条項や特約の使用の差止め等

    を請求できるとされています(消費者契約法12条,景表法10条,特定商取引法58条の18〜58条の24)。
    上記の制度を利用して,適格消費者団体が多くの訴訟を各地の裁判所に提起しており,これまでの裁判例では,

    ・賃貸借契約における定額補償金分担条項(賃貸借開始時の状態に戻すための回復費用として一定額を借主に負担させる条項)

    ・利息付消費貸借契約における早期完済違約金条項(借主が期限前に貸付金の全額を返済する場合に,借主が利息および遅延損害金以外の金員を貸主に交付する旨定める条項)

    ・挙式披露宴契約におけるキャンセル料規定

    等について,条項の使用を差し止める判決や和解的な解決がなされています(詳細な内容については,消費者庁の消費者制度課のホームページで公表されています。)。

    一方で,社会的に話題となっている携帯電話利用サービス契約における中途解約の際の解約金条項については,高裁段階では,消費者契約法(主に同法9条)上無効な条項ではないとして,適格消費者団体の差止請求が棄却される例が出てきているところです。

  • 集団的消費者被害回復に係る訴訟制度案について
    (1)  はじめに

    上記2の制度は,消費者被害の予防や拡大防止を目的とするものであり,すでに生じた被害の金銭による回復は予定されていません。このような被害回復を実現するための制度として,現在法制化が予定されているのが,「集団的消費者被害回復に係る訴訟制度案」(以下「制度案」といいます。)です。制度案では,消費者被害が生じた場合の訴訟を通じた被害回復のプロセスを以下の2段階に分けることとしています。

    (2)  共通義務確認訴訟(第1段階の手続)

    制度案では,まず,第1段階の手続として,適格消費者団体の中から,さらに内閣総理大臣の認定を受けた「特定適格消費者団体」が,事業者に対し,同事業者が相当多数の消費者に対して消費者に共通する事実上及び法律上の原因に基づく金銭支払義務を負うべきことを確認する訴え(「共通義務確認の訴え」)を提起することができるとされています。そして,同制度の対象となるのは,事業者が消費者に対して負う金銭を支払うべき義務であって,消費者契約に関する以下の請求に係るものであるとされています。

    ・契約上の義務の履行請求

    ・不当利得に係る請求

    ・契約上の債務の不履行による損害賠償の請求,瑕疵担保責任に基づく損害賠償の請求(消費者契約の目的となるものについて生じた損害または消費者契約の目的となるものの対価に関する損害に限る)

    ・不法行為に基づく民法の規定による損害賠償の請求(同上)

    (3)  簡易確定手続(第2段階の手続)

    さらに,共通義務確認訴訟の結果,請求認容判決が確定した時または請求の認諾もしくは和解によって共通義務確認訴訟が終了した時に,特定適格消費者団体の申立てにより,裁判所が「簡易確定手続開始決定」をすることによって,第2段階の手続が開始されることとされています。そして,上記の判決や和解の効力は,原告(消費者団体)および被告(事業者)に及ぶだけでなく,簡易確定手続において債権を届け出た消費者にも及ぶことが前提となっています。

    簡易確定手続の流れは,以下のとおりであり,破産手続等における債権確定の手続に似た構造が想定されています。

    (1)特定適格消費者団体による個々の消費者への通知・公告
    (2)個々の消費者による特定適格消費者団体に対する授権
    (3)特定適格消費者団体による債権の届出
    (4)事業者による債権の認否
    (5)特定適格消費者団体による認否を争う旨の申出
    (6)裁判所による簡易確定決定
    (7)当事者双方および個別の届出消費者による異議の申立て
    (8)異議後の訴訟

    (4)  その他

    上記(2)および(3)の手続を実効的にするための工夫として,共通義務確認訴訟および簡易確定手続を経ていたのでは被告となる事業者の財産が散逸し,強制執行が不能となるおそれがある場合には,特定適格消費者団体の申立てにより,事業者の財産の仮差押えを認める制度の導入も予定されています。

  • おわりに

    今回ご紹介した上記2および3の制度は,米国で採用されている団体訴訟(クラス・アクション)の制度をアレンジしたものであり,日本の通常の民事訴訟手続と比較すると極めて特徴的な制度といえるでしょう。今後,個々の被害の規模が小さいために,ある意味では「泣き寝入り」せざるをえなかった消費者の被害救済を促進する役割を果たすことが考えられますが,消費者との直接取引を事業の中心とされている事業者の皆様にとっても,訴訟の流れ等を十分に理解しておく必要がある制度であると考えます。

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