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第127回 全店一括順位付け方式による債権差押

H25.4.19 林 智子
  • 債権者が債務者に対して債権を有しているにもかかわらず,債務者が任意に弁済をしない場合,債権者は債務者の家(会社)に上がり込むなどして強制的に債権を回収することはできません(自力救済の禁止)。

    したがって,債権者は,債務者を相手に訴訟提起するなどして,「債務名義」(=強制執行を可能とする切符)を取得し,法的手続に則り強制執行手続をとる必要があります。

  • しかし,強制執行をするといっても,債務者がどのような財産を有しているかについて,債権者が把握していない場合もあります。そのような場合,大抵の債務者は,金融機関に預貯金を有していますので,債権者としては,債務者が金融機関に対して有する預貯金債権に対し,強制執行手続をとることが考えられます。

    預貯金債権に対して強制執行(差押)をする場合,債権者は「差し押さえるべき債権の種類及び額その他の債権を特定するに足りる事項」(民事執行規則133条2項)を明らかにして,強制執行の目的とする財産を表示しなければなりません。

    では,当該差押債権としての預貯金債権はどこまで特定する必要があるのでしょうか。一般には,銀行の預金債権についてはその預金の取扱店舗を,ゆうちょ銀行の貯金債権については,これを所管する貯金事務センターを特定することが求められていますが,債務者が有している預貯金債権の取扱支店等が不明である場合には特定することができません。

  • そこで,考えられた特定方法が「全店一括順位付け方式」と呼ばれる方法で,支店名を一つに特定することなく,全支店を対象として,支店番号の若い順序により支店に順位づけをするなどして差押債権を明示します。これが差押債権の特定として足りるかどうかについて,従前,高等裁判所レベルでは異なった判断がなされていました。例えば,これについて高裁レベルで初めて判断した東京高裁平成5年4月16日決定は,差押債権の特定があるというためには,差押債権の表示を合理的に解釈した結果に基づき,第三債務者において格別の負担を伴わずに調査することによって当該債権を他の債権と誤認混同することなく認識しうる程度に明確に表示することを要するという一般論を示したうえで,結論として否定説をとりました。他方,肯定説を採用した高裁もあり,顧客情報管理システムを備えている金融機関は,差し押さえられた債権を識別する作業が複数の店舗にまたがっても対応可能であることなどを理由としていました。この論点について,最高裁判所で初めて判断されたのが,平成23年9月20日第三小法廷決定です。

    この事案は,債権者が,3大メガバンク(三菱東京UFJ銀行,三井住友銀行,みずほ銀行)およびゆうちょ銀行に対し,全店一括順位付け方式により債権を特定し,差押命令を申し立てました。

    第1審,第2審はともに,全店一括順位付け方式は差押債権の特定を欠く不適法な申立てであることから却下すべきと判断したので,申立人が許可抗告をしました。これに対し,最高裁は要旨次のように判断して,第1審,第2審の判断を是認しました。

    (1)  債権差押命令の申立てにおける差押債権の特定は,その送達を受けた第三債務者において,差押えの効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかにかつ確実にその債権を識別することができるものであることを要する。

    (2)  全店一括順位付け方式による預貯金債権の差押命令の申立ては,差押債権の特定を欠き不適法である。 この決定は,債権差押命令の申立てにおける差押債権の特定の有無の判断基準について,最高裁で初めて判断されたもので,全店一括順位付け方式による預貯金債権差押命令申立の適否についての見解の対立に決着をつけたものとして位置づけられています。

  • 以上のようなことから,債務者と取引するにあたっては,債権者は,債務者がどこの金融機関のどの支店に預貯金を有しているかについて,事前に調査し把握しておくことが後々の債権保全につながるのかもしれません。

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