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第133回 知らないと損する?法律のお話し

H25.7.2 今井 陽子
  • 人間誰しもできるだけ損はしたくないものですが,世の中には知らないと損する(かもしれない)法律がたくさんあります。今日は,そんな法律のひとつ,消費者契約法9条1号をとりあげたいと思います。

  • 消費者契約法9条1号は次のように定められています。

    (消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
    第9条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。

    1 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分

    ・・この条文,さらっと読んだだけでは何のことやらさっぱりわからない書き方になっていますので,以下,説明いたします。

    そもそも消費者契約法は,消費者と事業者との間には情報の質・量や交渉力等について格差があることから,その格差を是正し,弱い立場の消費者を保護するため,消費者・事業者間の契約締結過程において事業者に不適切な勧誘行為があった場合に消費者に取消権を認めたり,消費者にとって一方的に不利益な条項を無効としたりする法律です。

    そして,消費者・事業者間の契約においては,契約解消の際に契約書等をたてに高額なキャンセル料・違約金等の支払いを請求されるトラブルが以前より多くありましたが,契約解消に際し事業者に実際にこうむった損害額を上回る金員を請求できることを認める必要はありません(むしろ,そのような請求を認めると,契約解消を契機として事業者が不当な利益を得ることを認めることになり,妥当でありません。)。

    そこで,消費者契約法9条1号は, 消費者契約が解除された場合(解除の理由は問いません。),契約解除によって事業者が被った損害を上回る高額な損害賠償金,違約金,解約料,キャンセル料といった金員の支払等を定める契約条項(既に払った金員の不返還を定める条項等も含まれます。)について,当該事業者に生ずる平均的損害を上回る部分については無効とする旨を規定しました。この「平均的損害」とは,同じ事業者の同種類の契約が解除された場合を想定し,その場合にその事業者に生ずる平均的な損害額をいうと解されています。

    ・・・何だか話しが難しくなってきましたが,要するに,消費者として事業者とした契約が何らかの理由で解消された場合に,契約書等に書いてあるからと高額のキャンセル料・違約金等を請求された,または,前払いしたお金を一切返してもらえないと言われたとしても,状況によっては,消費者契約法9条1号を武器に事業者と戦える(=契約条項の無効を主張して支払いを拒否できる,または,前払いしたお金の返還を請求できる)可能性がある!ということをぜひ覚えておいてくださいませ。

  • 消費者契約法9条1号に関する裁判例

    平成13年に消費者契約法が施行されて以降,様々な契約類型について消費者契約法9条1号を根拠とする訴訟が提起され,裁判例が集積されてきておりますので,いくつかご紹介します。

    (1)  大学の入学辞退者が大学に対し学納金(入学金,授業料等)の返還を求めた裁判が全国各地で提起され,メディアでもかなり取り上げられた時期がありましたが,同返還請求も,消費者契約法9条1号を根拠にしています。この件は最高裁まで争われ,最高裁平成18年11月27日判決は,前納授業料等を一切返還しないとする特約の効力につき,在学契約の解除の意思表示が3月31日までにされた場合には,原則として,大学に生ずべき平均的な損害は存しないものであって,特約は無効となるとして,3月31日までに入学辞退した学生について前納授業料等(前納学納金のうち入学金を除く残額)の返還請求を肯定しました。なお,入学金については,その性質より,返還請求は否定されています。

    (2)  契約後短期間で解除した事例として,(a)中古車の売買契約の2日後に消費者が解約した事案で,車両価格の15%の損害賠償金を請求できるとした特約を無効とした裁判例(大阪地裁平成14年7月19日判決)や,(b)ウェディングドレスのレンタル契約の翌日に消費者が解約した事案(挙式予定日は4か月弱先)で,レンタル代金の100%の解約料を請求できるとする条項を無効とした裁判例(東京地裁平成24年4月23日判決)があります。

    (3)  他方,契約後ある程度期間を経過した後に解除した事例として,ログハウスの建築請負契約の約4か月後に消費者が解除した事案で,請負代金の3分の1の金額もしくは解除による事業者の損害金額のいずれかのうち大なる金額を賠償しなければならないとする特約につき,本契約が解除された時期は事業者が公図取得や敷地等の調査を行ったことが認められるのみの段階(時期)であり,本契約と同種の契約がこのような時期で解除された場合に事業者に生じる平均的損害として認めうるのは,公図取得費用,交通費,写真数枚の費用,登記簿謄本取得費用のみで,これらを合計しても金10万円を超えないことが明らかであるとして,金10万円を超える限度で特約を無効とした裁判例(東京地裁平成18年6月12日判決)があります。

    (4)  その他,旅館の宿泊予約を取り消したことによる取消料,会員制の冠婚葬祭事業者と会員との間の契約の途中解約における解約払戻金を制限する条項,弁護士報酬のいわゆるみなし成功報酬特約について争われた裁判例(いずれも特約の一部または全部が無効とされました。)等々,様々な契約解消トラブルに関する訴訟の場で,消費者契約法9条1号は実際に数多く活用されています。

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