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第136回 英文契約書の基本の基本(Lead-in編)

H25.8.6 平良 夏紀

前回のコラム(第120回「英文契約書の基本の基本(Recitals編)」)に引き続き,今回は,契約書の本文の直前の一文にあたる「Lead-in」と呼ばれる部分について解説致します。

  • Lead-inとは

    一般的な英文契約書では,頭書(コラム第105回参照)およびRecitals(コラム第120回参照)に引き続き,「NOW THEREFORE」等ではじまる一文がみられます。この一文を「Lead-in」と呼びます。通常は, Lead-inの次の文から契約書の本文が始まることになります。伝統的なLead-inは,「NOW THEREFORE, in consideration of the premises and the mutual covenants set forth herein and for other good and valuable consideration, the receipt and sufficiency of which are hereby acknowledged, the parties hereto covenant and agree as follows.」(以下,この一文を「伝統的なLead-in」といいます。)という長い一文であることが多いです。

    この「Lead-in」を和訳すると,「よって,ここにおいてその受領および十分さが確認されている,本契約に規定された前提および相互の合意を約因として,並びに,その他の有効および有価な約因として,本契約の当事者は,次のとおり誓約および合意する。」となります。なぜ,単に「Therefore, the parties agree as follows.」(「よって,当事者は,次のとおり合意する。」)と記載するだけでは足りないのでしょうか。結論からいうと,実はこれでも十分であるとされています。最近では,むしろこのようなシンプルな文章が推奨されるようになっています。

    下記では,伝統的なLead-inがなぜそのような内容になっているのか,および,なぜ最近ではシンプルな文章が推奨されるようになっているのかを説明いたします。

  • 「NOW THEREFORE」

    これは,「Therefore」(「よって」)と同じ意味です。Recitals(コラム第120回参照)の規定がある契約書においては,Recitalsの記載内容を受けて, Lead-inが記載されるため,「Therefore」と記載した方がベターです。反対に,シンプルな契約書で,Recitalsの記載がない契約書であれば,Lead-inには「Therefore」の記載は不要になります。なお,「Therefore」は,たとえば,「The parties therefore agree as follows」と文中に記載しても問題ありません。

    最近の傾向としては,特に,B to Cの契約では,よりシンプルで分かりやすい契約書を作成することが推奨されていることから,このように,「NOW THEREFORE」という語も,単に「Therefore」と記載すれば足りるとされています。

  • 「in consideration…」

    これは,「約因」と呼ばれるものです。「約因」とは,約束の対価となるもので,たとえば,現金の支払い,ある行為を行うこと,または,ある作為を行わないこと等の約束を指します。日本を含む大陸法体系の国々では,契約は,申込と承諾の意思の合致により成立しますが,英米法体系では,古くから,契約の成立には「約因」が必要であるとされてきています。また,「約因」は,たとえば,「○○ドル支払う代わりに殺人を行う」等の違法な内容であったり,「土地および建物を1ドルで買受ける」という無価値な(またはそれに等しい)ものは有効な「約因」とはみなされません。そのため,伝統的なLead-inでは, 「for other good and valuable consideration, the receipt and sufficiency of which are hereby acknowledged…」(「ここにおいてその受領および十分さが確認されている,本契約に規定された前提および相互の合意を約因として,および,その他の有効および有価な約因として」)という記載がみられます。しかし,Lead-inにおいてこのような約因に関する記載があるからといって,この記載が無効な約因を有効としたり,約因が存在しない場合に約因を作出したりする効果まではありませんので,この点は注意が必要です。

    それでは,この約因に関する記載には,どのような意義があるのでしょうか。Recitalsと同様に,Lead-inの記載は,契約書の本文の前に記載されるため,契約書の内容として拘束力を有するわけではありません。しかし,伝統的なLead-inの「premises and the mutual covenants set forth herein」の「premises」とは,Recitalsの部分を指すので,Recitalsの中にある程度具体的な約因の内容が記載されている場合や,たとえば,「in consideration of the premises and the mutual covenants set forth herein and for other good and valuable consideration,」の記載の代わりに「○○dollar paid by the Seller to the Buyer」等の具体的な記載をすることで,契約の解釈においては,契約の当事者が何を約因として意図していたかを読み取ることには,ある程度の意味を有するといえます。

    なお,先ほど,「約因」という概念は,英米法系の概念であると述べたとおり,たとえば,締結しようとしている契約書の準拠法が日本法など,契約の成立に「約因」が求められていない法律である場合には,そもそもLead-inにおいて,約因に関する記載は不要ということになります。また,たとえば,アメリカでは,州法によりある特定の契約には約因を不要とする立法がされている場合もありますので,この場合にも,そもそも約因に関する記載は不要ということになります。

  • 「covenant and agree…」

    最後に,伝統的なLead-inは,「the parties hereto covenant and agree as follows」という語で締めくくられます。「Covenant」とは,伝統的には,押印(Seal)された合意を指していたが,現在のLead-inにおける「covenant」と 「agree」とは,いずれも「合意」を意味します。英文契約書においては,このように同じ意味の言葉を列挙する表現が多々見られますが,これもその例の一つと考えられます。そのため,「the parties hereto covenant and agree as follows」は,シンプルに,「The parties hereto agree as follows」と記載すれば足ります。

次回からは,契約書の本文について解説いたします。

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