ホーム > コラム > 企業法 > 外国法 > 第138回 中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)の分裂と実務への影響

コラム

コラム

第138回 中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)の分裂と実務への影響

H25.8.23 麦 志明

日中間の当事者における渉外契約(以下「日中渉外契約」といいます。)においては,日本の裁判所の判決は中国国内で執行できず,また,中国の法院(裁判所)の判決は日本国内で執行できない等の理由から,その紛争解決方法としては,仲裁条項を定めるのが通例となっており,中国国内における国際商事仲裁については,中国国際経済貿易仲裁委員会(英文:China International Economic and Trade Arbitration Commission 以下「CIETAC」といいます。CIETACは同会の正式な略称です。)がもっともメジャーな国際商事仲裁機関であり,これを仲裁機関として指定するのが一般的であることは,皆様ご高承のとおりです。

2012年以前,上記のCIETACは北京に北京総会,上海と深圳に,それぞれ上海分会・華南分会を有していました。

ところが,2012年のCIETACの仲裁規則改正に際して,上海分会・華南分会がこれに反対し,自ら仲裁規則を制定する等の行動に出たため,CIETAC(の本部である)北京総会が同年12月31日をもって上海分会・華南分会に対するCIETACとしての授権を停止することを宣言し,上海と深圳にそれぞれ新たに分会を設置しました。

このため,北京総会・上海分会・華南分会は,それぞれ独立した仲裁機関になってしまいました。

その後,元のCIETAC上海分会は上海国際経済貿易仲裁委員会/上海国際仲裁センター(英文:Shanghai International Arbitration Center 以下「SHIAC」といいます。SHIACは同会の正式な略称です。)に,元のCIETAC深圳分会は華南国際経済貿易仲裁委員会/深圳国際仲裁院(英文:Shenzhen Court of International Arbitration 以下「SCIA」といいます。SCIAは同会の正式な略称です。)に,それぞれ名称変更が行われ,現在も,独自の仲裁規則と仲裁人名簿で運営がなされています。

上記の分裂に伴い,実務上,(1)既存の日中渉外契約において,「CIETAC上海分会」・「CIETAC華南分会」が仲裁機関として指定されている場合,どの仲裁機関に対して仲裁の申立を行うべきであるのか,また,(2)今後,仲裁条項を規定する場合には,どの仲裁機関を指定すべきであるのか,という点が,大きな問題となっています。

本コラムでは,限られた字数のなかで,上記の2点について簡単に解説を行いたいと思います。(なお,本コラムの内容は,確実な前例がない事象に関するものであり,今後の権威的解釈が,必ずしも本コラムの内容と一致することを保証するものではなく,また,本コラムの読者様が,この内容どおり行動されたとしても,確実に仲裁条項の有効性や仲裁裁決の執行可能性等が担保されるものではないことは,予めご理解ください。)

まず,(1)の点についてですが,結論から申しますと,(仲裁条項に定められた仲裁地に応じて),執行場所が上海市・広東省に限られる場合についてはSHIAC・SCIAに申立を行い,執行場所が上海市・広東省に限られず,その他の地域においても執行を行う必要がある場合は,CIETAC北京分会が設置した新しい上海分会・深圳分会に申立を行うのが,比較的安全であると考えています。

これは,SHIAC・SCIAが,それぞれ上海市司法局・広東省司法庁という,当該地方における法院の上級機関から「お墨付き」をもらっており,少なくとも上海市・広東省の法院は,SHIAC・SCIAが行った仲裁裁決の執行について許可を出すであろうと考えられるからです。他方で,それ以外の地方においては,当該地方の法院が,様々な理由から(特に仲裁機関による管轄違反),SHIAC・SCIAが行った仲裁裁決の執行を許可しない可能性があるからです。(現実に,江蘇省蘇州市や浙江省寧波市の中級人民法院においてSHIAC・SCIAの行った仲裁裁決の執行を許可しなかった裁判例が公開されています。)

次に,(2)の点についてですが,今後,何らかの権威的な解釈が出されるまでの間,日中渉外契約において,CIETAC北京総会により新たに設置された上海分会・深圳分会及びSHIAC・SCIAを仲裁機関として指定することは,いずれもお勧めできません。(1)においても述べましたが,現状,既にいくつかの裁判例において,SHIAC・SCIAの行った仲裁裁決の一部について,法院が執行を認めないという判断を下している例があるため,これらを仲裁機関として指定するのは,リスクを伴います。他方で,CIETAC北京総会により新たに設置された上海分会・深圳分会については,設置されて間もない状態で,仲裁機関としてどの程度の組織性を有しているか,安定した仲裁手続の運営が可能かについては,未知数と言わざるを得ない状況ですので,手放しではお勧めできない状況です。

従いまして,私としましては,(仲裁に要する費用は上昇しますが,)仲裁の執行が確実であるCIETAC北京総会又は第三国仲裁(香港国際仲裁センター等)を仲裁機関として指定することをお勧めしたいと考えています。

以上のように,上記(1),(2)の各問題点については,現状,一義的な権威解釈がなく,確定的な結論を予想できないという状態にあります。

現実に,中国国内においても,一連の騒動に関連して司法解釈の公布が予定されているとか,近い将来においてCIETACの再統合が計画されているという風聞もなされており,中国国内においても問題意識は高まりつつあります。

今後も,一連の騒動に関する新たな動静には注意しつつ,既存の契約において,「CIETAC上海分会」「CIETAC華南分会」が仲裁機関として指定されているような場合については,安定した仲裁手続,安定した仲裁裁決の執行手続の確保の観点から,契約の相手方との間で,仲裁機関の指定変更の合意を行うことも視野に入れつつ,対応を検討されることをお勧めします。

本コラムに関しまして,その他ご疑問点があれば,どうぞご遠慮なく弊事務所までご連絡ください。

このページの先頭へ