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第140回 リハビリ勤務制度の導入と留意点

H25.9.25 名倉 大貴
  • リハビリ勤務制度とは

    (1)  近時,特にメンタルヘルスに問題を抱えた従業員が一定の私傷病休職の期間を経て職場復帰を申し出た場合に,どのように職場復帰の可否を判断すればよいのか,というご相談を受けることが多くなってきています。

    一般論としては,休職中の従業員が「治癒」したか否か,という観点から判断することになりますが,より具体的には,原則として「従前の職務を通常程度行える健康状態に復したかどうか」を考慮しつつ,「能力,経験,地位,当該企業の規模,業種,当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務提供をすることができ,かつ,その提供を申し出ている」(片山組事件・最一小判平成10年4月9日)かどうか,が職場復帰の可否の判断基準になるとされています。

    しかし,実際には,「復職可能」とした主治医の診断書をどう評価するか,主治医と産業医の意見が異なる場合にどうするか,「当該労働者が配置される現実的可能性がある業務」があるか,といった点の判断が非常に難しい事例が多いように思います。

    (2)  このような職場復帰の判断の困難さを背景に,本格的な職場復帰の前段階として,試行的に出勤する機会を設けるいわゆる「リハビリ勤務制度」の導入を検討する企業も徐々に増えてきています。この制度は,特に法的に義務づけられているわけではなく,導入するか否か,及び,どのような内容の制度にするかは,会社の裁量にまかされています。

    一口に「リハビリ勤務制度」と言っても,その内容は様々ですが,厚生労働省が発表している「改訂・心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成21年3月)によれば,職場復帰支援に関して検討・留意すべき事項として,(1)模擬出勤,(2)通勤訓練,(3)試し出勤等の制度の導入が挙げられています。このうち,模擬出勤や通勤訓練は,会社で実際に業務を行うわけではありませんが,「職場復帰の判断等を目的として,本来の職場などに試験的に一定期間継続して出勤する」制度である「試し出勤」に関しては,実際に会社に出勤し,業務を行うことになります。

  • リハビリ勤務制度のメリット・デメリット

    (1)  上記のリハビリ勤務制度,特に,実際に出勤して業務を行う「試し出勤」制度の導入については,以下のようなメリット,デメリットが指摘されています。

    ◆メリット

    [1] リハビリ勤務を経ることにより,職場復帰の可否の判断のための材料が増える。

    [2] 従業員にとっても,一定の「慣らし」の期間を設けることで,職場復帰がスムーズになる。

    ◆デメリット

    [1]  リハビリ勤務制度の位置づけが不明確になりがちであり,労使間でリハビリ勤務の内容について詰めておかないと,後にトラブルになる可能性がある。

    [2] リハビリ勤務自体が当該従業員のストレスを増加させ,再発のきっかけになる可能性がある。

    [3] 同じ職場の従業員に不公平感等が生じる可能性がある。

    (2)  このように,リハビリ勤務制度には会社,従業員双方から見てメリットがあるものの,リハビリ勤務の位置づけや内容を明確化し,従業員にも十分に説明しておかないと,上記のデメリットが顕在化する可能性もあり,むしろ会社にとっても従業員にとっても負担のある制度になりかねません。そのため,リハビリ勤務制度の導入自体慎重に行う必要がありますし,実際に導入するにあたっては,下記3で述べる各種の点に十分留意する必要があります。

  • リハビリ勤務制度の導入にあたっての留意点

    (1)  リハビリ勤務制度を導入するにあたっては,当該制度の目的を明確にするとともに,リハビリ勤務中の従業員の処遇についても明確にしておく必要があります。

    (2)  職場復帰の判断材料を得ることを目的にするのであれば,休職の残りの期間を利用してリハビリ勤務の期間を設定することになるのが通常であり,休職期間中である以上,勤務時間等については従業員と協議して決めたうえで,会社側から指揮命令や業務評価はしない,という仕組みになると考えられます。そして,休職期間は継続しているため,リハビリ勤務期間中に「治癒」していないと判断された場合には,休職期間の満了に伴い,就業規則に従って退職又は解雇する,ということになります。

    このような仕組みを導入した場合には,休職期間中であり,指揮命令等が行われないことが前提となっているため,本来の労働契約の債務の本旨に従った労務提供がなされているわけではなく,当該期間中の賃金は発生しないと考えられます(賃金の支給が傷病手当金の減額の理由になるという問題もあります。)。また,リハビリ勤務期間中に何らかの災害を受けたとしても,指揮命令等を伴わず,かつ,出社・退社の自由が認められているということであれば,業務災害,通勤災害として労災保険を適用されることはない,という整理になると考えられます。

    (3)  一方で,従業員の職場復帰をスムーズにする,という目的を重視すれば,休職期間を終了させたうえで,勤務時間や職務の負荷に配慮して一定期間職務に慣れさせる,という制度設計にすることも考えられます。この場合,仮にリハビリ勤務期間中にやはり実質的な職場復帰が困難であると判断される状況であれば,再度休職するということになりますが,就業規則等に休職期間を通算できるという規定がない限り,再度新たな休職期間が開始することになると考えられます。

    このような仕組みを導入した場合には,休職期間を終了させ,職場復帰させた以上は賃金を支払うべき,ということになりますが,就業規則等でリハビリ勤務期間中の例外を定めることにより,勤務時間や賃金について従業員と別途合意する余地を残しておけば,個別の事情に応じて勤務時間や賃金を定めることができるものと考えられます。また,職場復帰を認め,一定期間の勤務を義務づけるということになれば,業務中や通勤中に受けた災害については,労災保険を適用すべきであると考えられます。

    (4)  また,リハビリ勤務の期間をどの程度にするかも検討の余地があります。この点も会社の裁量にまかされていますが,概ね3ヶ月間を1つの目安としている例が多いようです。

    (5)  以上で述べたように,リハビリ勤務制度の目的や位置づけによって,対象となる従業員の処遇等が変わってくることになります。したがって,会社側としては,どのような制度を導入するにせよ,リハビリ勤務制度の適用を受けた場合の処遇について対象従業員に十分に説明し,了解を得ておくことが重要になるものと考えられます。

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