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第166回 献体の法律問題

H26.11.11 林 智子

この前TVを見ておりましたら,最近,献体を希望する人が増えていて,その動機というのが,献体をすれば火葬してもらえるので,家族が火葬費用を負担しなくてもよいという点を挙げる人が多いとのことでした。これに対して,そもそも献体というのは「自己の身体を死後医学又は歯学の教育として行われる身体の正常な構造を明らかにするための解剖の解剖体として提供すること」であり(医学及び歯学の教育のための献体に関する法律2条),本来,医学の発展のために自らの身体を捧げるという崇高な精神に基づくべきもので,そんな経済的な理由で献体するというのは動機において不純だという意見や,いやいや,本人の身体の行く末を他人がとやかく言うこと自体間違っている等々,色々な意見がありました。

公益財団法人日本篤志献体協会のホームページを参考に献体の手続を概観しますと,献体を希望する方は,献体篤志団体(献体の会)または医科・歯科の大学から申込書をもらって必要事項を記入し押印して申込みをします。その際,家族の同意が必須です。というのは,遺体自体の所有権は,通常の相続の対象になるわけではなく,祭祀財産の承継に関する民法897条に準じて,祭祀主宰者が葬儀や埋葬等の目的の範囲内でのみ承継することになりますが(最高裁平成元年7月18日判決),実際には遺族の中で強い反対があれば,献体先の大学も事実上,解剖実習を実施することが難しくなるからです。

その後,献体登録者が死亡した場合,遺族等が献体登録大学に連絡し,遺体の引き取り日時などを調整します。献体をしたから葬儀が不要となるかどうかは,それぞれの家庭によって区々ですし,本人が「葬儀不要」との希望を遺すような場合もありますが,葬儀が行われる場合には,出棺して火葬場に向かうのではなく,大学に運ばれるということになります。献体登録大学によっては,代表者が葬儀に参列して,弔辞を読むという取り扱いをしているところもあるようです。

献体登録大学に運ばれた遺体がすぐに解剖の対象となるかと言えば,そうではなく,まず防腐処理などの解剖準備期間として3〜6か月程度かかります。また,大学ごとの解剖実習のスケジュールもありますので,実習期間が始まってもすぐに解剖となるわけではありません。

解剖学実習終了後は,大学側の費用負担で遺体を火葬し,大学主催の慰霊祭(解剖体諸霊位供養など)の際に遺族に遺骨を返還することになりますが,おおむね献体後,遺骨返還までには2〜3年程度かかるとされています。

このように,実際の献体には,かなり慎重な手続が必要となってきますので,例えば,単に遺言で「死後は〇〇大学の解剖学教室に献体されたい」と記載しただけでは,遺族がその意思を実現することは困難です。やはり生前に献体の会や献体登録大学と入念に打合せをしたうえで,遺言には「すでに〇〇大学に献体の手続をとったので,死後は献体することとする。解剖学実習終了後の遺骨の引き取り者は〇〇とする」と記載しておくのが安全です。

上述のとおり,遺体や遺骨自体は,通常の財貨のように相続の対象となるものではなく,あくまでも喪主または祭祀承継者が葬儀・埋葬・供養などの目的の範囲内で所有権を有するにすぎず,もともと本人が所有していた遺体(身体)を承継取得するというものではありませんが,遺族の中には,通常の遺産相続と同じように考えている人もないとは限りませんので,もしも「死んでも死にきれない」という心配のある方は,解剖後の遺骨の引き取りについてまで明記しておく(できれば祭祀承継者と合わせておく)ことをお勧めします。

余談ですが,遺体・遺骨の所有権については,以前から学説的な対立があり,そもそも人間の身体は自分の所有権ないし支配権の客体とはならない(中川・泉説,柚木説)というあたりを読むと,何やら,生きる我は我であって我に非ず,神仏の絶妙なる働きなりというような,有り難い言葉を想起してしまうというのは,考えすぎでしょうか。

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