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第183回 ニューヨーク・プロデュース・エクスチェンジ・フォーム 2015(NYPE 2015) 〜外航における新定期傭船契約書の重要ポイント

H28.4.7 吉田 伸哉

2015年10月、遂にBIMCOがAssociation of Ship Brokers and Agents(ASBA)および Singapore Maritime Foundation(SMF)と共同して、約22年ぶりの改正としてNYPE2015を発表するに至りました。Googleで検索した限りでは、NYPE 2015に関する日本語の記事は未だ見当たりませんでしたので、この機会に紹介させていただきます。

ご存知の通り、定期傭船契約におけるNew York Produce Exchange Form(NYPE)は、世界のバルカー市場において、最もよく使用されている著名かつ伝統的な書式です。現在の外航実務においては、NYPE 1993が最新版として普及していますが、世界の外航においては、依然NYPE 1946が圧倒的といわれており、また、我が国の外航においてはNYPE 1981も多く使用されています。これらNYPEに基づく定期傭船契約では、通常Rider Clauseが付加された上で、締結されるのが一般的であり、今回公表されたNYPE 2015ではこれまでRider Clauseで規定されていた条項も多数取り込まれています。

NYPE 2015は、NYPE 1993の全45条から12条増え全57条となりました。各規定の文言や内容も近時の条約および実務の要請ならびに仲裁判断・判決を反映しており、新設規定の他、適宜詳細な規定に改正されあるいは文言が修正されました。
改正箇所は多岐に上りますが、本コラムでは紙面の都合上、主要なポイントのうち、よく問題となると思われるものをいくつか紹介させていただきます。

  • Trip Charter 、Period Charter(52条)

    NYPE 2015では、実務上よく使用されているTrip Charter 、Period Charterの規定が新設され、選択が可能となりました。これに伴いTrip Charter 、Period Charterも考慮に入れた詳細なバンカー条項が設けられ、燃料テスト(fuel testing)や 低硫黄燃料(low sulphur fuels)に関する規定などが明記されたのも今回の改正の大きな特徴の一つといえるでしょう。

    また、Trip Charter、5か月以下のPeriod Charterには、最終航海(last voyage(52条(a))、Drydocking(52条(b))、off-hire(52条(c)))、傭船者の社色(Charter's Colors)の規定が適用されませんが、5か月を超えるPeriod Charterにはこれらの規定が適用されます。なお、我が国の約115年ぶりになる商法改正においても、定期傭船契約の規定が新設される予定ですが、トリップチャーター等については立法化が見送られる予定です。

  • Grace Period, Suspension および Withdrawalに関する傭船料支払条項

    NYPE2015では、近時の仲裁および裁判所の判断等を踏まえてGrace Period, SuspensionおよびWithdrawalに関する最新かつ明確な傭船料(hire)支払条項が規定されました。

    (1)  猶予期間(Grace Period)

    NYE1993では、「傭船者またはその銀行側の見落とし、不注意、誤りまたは怠慢により傭船料が遅滞なく、かつ定期的に支払われないとき」には書面による通知を送付するものとして猶予期間が与えられていましたが銀行営業日の日数については空欄となっていました(11条(b))。

    NYPE 2015では、3銀行営業日との参照文言を挿入しているほか、書面による通知による猶予期間が与えられる場合について、「傭船料が遅滞なく支払われないとき との文言に規定され、NYPE 1993と異なりその原因を問わない規定に改正されました(11条(b))。

    (2)  船舶引揚(Withdrawal)

    NYPE 1993ではwithdrawalについては、猶予期間満了後はいつでも引き揚げることができるとされていました(11条(c))。これに対して、NYPE 2015では、withdrawalした際に、傭船契約の残存期間に関する損失を損害賠償請求できることが明記されました(11条(c)(i))。

    従来、withdrawal後、残存期間の損害賠償請求については、適時に傭船料を支払う義務の性質論と関連して難しい問題がありましたが、本規定は、契約条項として明確化することにより解決を図ることを意図しています(英国法においては、一般的には、残存期間×(約定レート−市場レート)とされていますが、日本法の場合にはこの点定かではありません)。 

    もっとも、withdrawalが適法か否かについては、従来からよく争われるところであり、十分な注意が必要です。適法なwithdrawalでない場合には、逆に傭船契約違反として、損害賠償請求等を受けることとなるからです。それゆえ、実際にwithdrawalをするかどうかについては、海事弁護士と傭船契約の文言や具体的な事実関係を踏まえてよく協議の上、慎重に対応すべきと考えます。なお、本コラム99回に「withdrawalに伴う英国上の問題点」について解説しています。

    (3)  Suspension(中断)

    傭船料が未払の場合の履行を促す方法としてはSuspension(中断)の方がwithdrawalよりも優れていると言われています。NYPE 1993では猶予期間の満了後とされていましたが(11条(a))、NYPE 2015では、傭船料が未払いであれば直ちに生じるとされるに至った点が大きな相違点です(11条(d))。

  • 速力および燃料消費量(12条)

    NYPE 1993では前文において引渡し(Delivery)の際にのみ適用されるとされていましたが、NYPE 2015では、12条に規定が設けられ、傭船期間を通じて適用されること、減速航行の時には計算に入れないことが明記されました(12条(a))。また、傭船者に自身が好むwhether routing serviceを利用するオプションが与えられ(12条(b))、実際の航路が船舶の業務遂行の計算の基礎とされること(12条(c))、速力低下や燃油消費量が増加した場合のクレームは、失われた時間に対する費用や追加燃油の補償に明示的に限定され、また、節約された燃油コストや時間との相殺ができることが明記される(12条(d))などの条項が設けられました。

  • ステべドア・ダメージ(Stevedore Damage)

    NYPE 1993では、ステべドアが本船に起こした一切の損傷については、船長は発見後48時間以内に書面で通知すれば足りることになっていました(35条)。NYPE 2015では、損傷発生から24時間以内に改められ、また隠れた損傷については相当の注意を尽くして(due diligence)いれば発見できたであろう時から起算することが明記されました(37条)。

  • 減速航行(Slow Steaming)

    傭船契約に定めがない場合には、船主は、相当な迅速さ(due dispatch)をもって遅滞なく目的地に到着する必要がありますので、減速航行は許されないのが原則です。しかし、減速航行は、本船の燃料効率を改善し、ひいては二酸化炭素等の排出量を抑制する効果がある点で環境意識の高まった世界の潮流に沿うものです。このような観点から、NYPE 2015では、従来rider clauseに規定されていた減速航行の条項を新設し詳細な規定をおいています(38条)。

  • Stowaways(密航者)・Smuggling(密輸)

    従来のNYPE 1993 では、Stowaways(密航者)については傭船契約違反と規定されていましたが、Smuggling(密輸)については、船主が罰金等のコストを負担すること、密輸の結果生じた喪失時間はオフハイヤー(off Hire)と規定しているのみでした。NYPE 2015では、Smuggling(密輸)についても傭船契約違反になることを明記し(42条)、また、麻薬等の違法な物質が発見された場合の規定を追加し、同様に傭船契約違反であることを明記しました(43条)。

  • その他

    以上のほかにも、次のような改正がなされています。

    (1)  電子船荷証券の規定(32条)が新設され、紙の船荷証券と機能的に同等の効力を有すると規定されたほか、当事者の要求によりいかなる時点においても紙の船荷証券に交換できる旨が規定されました。

    (2)  戦争危険(War Risk)および海賊(Piracy)条項もBIMCOの最新の標準条項であるCONWARTIME 2013(34条)およびPiracy条項2013(39条)に改められました。

    (3)  バラスト水交換規制(51条)条項が新設され、当該規制が要求される場合、船主・船長に遵守義務を課すとともに、傭船者の時間、危険および費用で行うことが規定されました。

    (4)  通知条項(Notice)(55条)が新設され、emailが明記されました。重要な意思表示は契約に明記された方法で行う必要がありますので、現在の実務に沿う形でemailが規定されたことは法律的には重要な意義を有します。また、emailを含む通信(communication)はその当事者によって実際の受領(actual receipt)日になされたと見做される文言も新設されました。

    (5)  法律および仲裁の広範な選択が可能になりました(54条)。

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