ホーム > コラム > 企業法 > 海事 > 第187回 船舶管理契約におけるSHIPMAN2009とその特徴I 〜SHIPMAN1998およびJSEの外航船舶管理契約との相違を踏まえながら

コラム

コラム

第187回 船舶管理契約におけるSHIPMAN2009とその特徴I
〜SHIPMAN1998およびJSEの外航船舶管理契約との相違を踏まえながら

H28.4.7 吉田 伸哉

第183回で紹介させて頂きましたNYPE 2015については大変な好評を得ましたところ,SHIPMAN2009についても是非との声を頂きました。SHIPMAN2009の翻訳版は海事法研究会誌にて既に公表されているところですが,WEBサイトで検索する限り,SHIPMAN2009と1998あるいは外航船舶管理契約と比較する日本語の記事は見当たりませんでしたので,この機会に紹介させていただきます。

ご存知の通り,BIMCOが発行するSHIPMANは外航における船舶管理契約において,最もよく使用されている書式です(乗組員管理のCREWMANも2009年に改定されていますが,SHIPMANは,これに限らず広く船舶管理にも適用される書式となっています)。他方,外航における日本語版の契約書としては,海運集会所作成の外航船舶管理契約2006年版があり,SHIPMAN1998の内容を踏まえた上で,その後の改正や日本法独自の視点を盛り込んだ内容となっています。

新書式であるSHIPMAN2009の条文数は全28条でありSHIPMAN1998の全20条から8条増えました。各規定の文言や内容も近時の条約・規則等の実務の要請などを反映させたものとなっており,適宜詳細または柔軟な規定が設けられ,また文言が付加・修正されました。
これに対して,外航船舶管理契約は,第1部のboxはSHIPMANに比べシンプルであり,条文は全19条です。もっとも,職務別配乗表や費用一覧表があり,一覧性に優れている点が特徴です。

改正箇所は多岐に上りますが,本コラムでは紙面の都合上,主要な特徴のうち,特に重要と思われるものを日本海運集会所の外航船舶管理契約と比較しながらいくつか紹介させていただきます。

  • 契約の基本事項

    (1)  定義規定

    [1]   SHIPMAN2009では,定義規定の「乗組員保険」に死亡,疾病,傷害等に加えて,再起不能,送還」の場合が具体的な例示として追加され,「管理業務」には,「その他本契約条項に基づいて管理者が実施するすべての業務を意味する」との文言が付加されました。また,「会社」「旗国」,「ISPS コード」「SMS」などの定義が新設されました。

    [2]   外航船舶管理契約には,定義規定はありません。

    (2)  管理者の権限

    [1]   SHIPMAN2009では,契約の基本事項に関する第1章に,「管理者の権限」として,「管理者は,本契約の各条項に従って,契約期間中,本船に関して船主の代理人として船主のために管理業務を遂行しなければならない。管理者は,すべての関係法規の遵守を含む健全な船舶管理の慣行に従って,随時自己の絶対的裁量で,管理業務を遂行するために必要と考える行為をする権限を有する。」と規定されました。SHIPMAN1998でも,「合意の基礎」として同様の規定がありましたがSHIPMAN2009では「管理者の権限」とその位置づけを明示して規定されるに至った点が特徴です。

    [2]   外航船舶管理契約には,関係法令等の遵守や,船主の代理人として善管注意義務を負う旨は明記されていますが,絶対的裁量までの規定はありません。

  • 業務

    (1)  技術管理

    [1]   技術管理についてはSHIPMAN2009では,従来のISMコードに加え,「ISPSコード」に「適合していることを保証すること」および「本船が,旗国法の要求に適合していることを保証すること」の規定が新設されました。船主の指示に基づき行われる,船舶売買契約に基づく売船及び実際の船舶引渡しに対する監督業務には,「売買契約又は本船の所有権移転に関する」交渉業務は含まないことが明記されたほか,食料支給の手配に関しては「船主による提供がないとき」との文言が加わり,また,燃料油のサンプリング及び検査の手配が新設されました。なお,本船の入渠,修繕,改造および船主との合意に基づく基準までの保守の手配・監督業務については,SHIPMAN1998から変更はありません。

    [2]   これに対して,外航船舶管理契約における技術管理は,本船が「関係法令並びに船級が要求するすべての規則及び勧告」に従って運航するために「船舶管理慣行に従って本船の保船業務を行う」(3I)と規定されています。また,旗国の定める管理基準の充足の確保とともにISMコードに加え,ISPSコード「等」の国際規則の遵守が規定されていますので(3VI),明示の規定はないものの当然ISMコードによって定義された安全管理システム(SMS)の構築等も含まれると考えます。この点ではSHIPMAN2009と実質的に変わりはありません。

    外航船舶管理契約は,保船業務には,「本船の堪航性維持のための,本船の入渠,修繕,改装及び保守の手配並びに監督」を含むほか,「本船からの要求に基づいて査定し必要であると判断した船用品,海図,備品,部品及び潤滑油等」の手配業務も含まれると規定しています(3I)。それゆえ,「等」の文言に,燃料油のサンプリング及び検査の手配を含ませることが可能であり,船主による提供がないときの食料支給についても同様に不可能ではないと思料しますので,この点でもSHIPMAN2009と実質的に変わらないと思料されます。もっとも,明記しておく方がより適切であることは言うまでもありません。このほか,外航船舶管理契約における技術管理として,運航管理業務も規定されています(3II)。

    (2)  乗組員管理及び乗組員保険

    [1]   SHIPMAN2009では,乗組員管理について,STCW 95 の要求に合致する適切な資格のある乗組員を提供することを要する点および主要な業務については例示列挙した上で,これらに限定されないとしている点はSHIPMAN1998と同様です。

    もっとも,SHIPMAN2009では,乗組員の選任,雇用のほか「供給」の文言が加わり,「場合によって」,給与の支払,年金手続だけでなく「税務,社会保障の積立及び各乗組員の居住国において,彼らの雇用に関する強制的な拠出が含まれる」と文言が加わりました。

    健康証明書の所持についても「高度な基準に従って」発行されたものと要件が加重され,他方,SHIPMAN1998で,健康証明書に関して当該旗国の定めのない場合の健康証明書に要求していた,「本国を離れる前の3ケ月以内に発行されたもの」との文言が削除されました。

    また,乗組員が,職務を安全に遂行するに足りる水準の英語だけではなく,「船上で通じる共通語」を使用できることの確認を求めている点もSHIPMAN2009における大きな特徴です。

    さらに,SHIPMAN2009では,乗組員保険についての規定が新設されました。

    [2]   外航船舶管理契約は,STCW 95 の要求の合致を求める点ではSHIPMANと同様ですが,乗組員管理については例示列挙ではなく,9つの事項について定めた上でそれらに「関連する一切の業務」として規定している点が異なります。

    税金,社会保険等の強制的な拠出については一応の規定がありますが,他方,健康保険の所持については,SHIPMAN2009のような「高度な基準に従って」の要件はなく,言語についても「船上で通じる共通語」は要求されていません。この点がSHIPMAN2009と大きく異なる点の1つです。

    (3)  営業管理・保険手配

    [1]   SHIPMAN2009では,営業管理について乗組員管理と同様,例示列挙でありこれらに限定されないとされている点はSHIPMAN1998と同様ですが,業務の提供について「船主の指示に従って」との文言が付加されました。また,「本船の商用運航に関して船主に支払われるべき全ての金銭の回収を規定(11条)に従い取り立てる業務の補助」との文言が新しく規定されました。

    保険の手配についてはSHIPMAN2009と1998では変更はありません。

    [2]   外航船舶管理契約は,営業管理,保険手配と共に簡易な規定があるのみです。

    営業管理については,「傭船契約,船舶プール契約,運送契約等本船の利用に関する契約の締結及びその履行における契約の相手方との交渉」を行うとされており,近時,増加しているプール契約が明記されています。保険手配については,内容,条件および保険会社を協議事項として規定しています。

    (つづく)

このページの先頭へ