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コラム

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第190回 OWに関する英国の最高裁判決(The "Res Cogitans" 号事件[2016] UKSC 23)
〜破綻したOW Bunkerの船主に対するバンカー代請求の可否〜

H28.5.20 吉田 伸哉

海運業界において、2014年11月、世界最大のバンカー供給業者OW Bunkerグループの破綻に伴い、同グループにバンカーを供給した供給業者が、バンカー代の回収を巡り、同グループからバンカーが供給された船舶をアレストする事態が生じ、世界各地において大きな問題となったことは記憶に新しいことと思われます。

2016年5月11日、このOW Bunkerグループの破綻に伴うバンカー代の支払請求に関し、待望の英国の最高裁判所の判決が出され、船主の上訴が退けられました(PST Energy 7 Shipping LLC and another (Appellants) v OW Bunker Malta Limited and another (Respondents) [2016] UKSC 23)。これにより、同種の事案の解決が一気に加速するものと予想されます。

今回、本判決について複数からご要望をいただきましたので、紹介させて頂きます。

なお、本判決の原審[The " Res Cogitans" [2015] EWHC 2022(Comm)]の解説については弊所田中庸介弁護士の「英国判例 Short News No.47」(日本海運集会所「海運」2015.10 No.1057 55頁)をご覧ください。

  • 事案の概要

    (1)  本件は、被上訴人であるOW Bunker Malta Ltd( "OWBM" )及び特定承継人ING Bank NV( "ING" )が、上訴人である "Res Cogitans" 号の船主らに対して供給済みのバンカー代を請求しうるかが問題となった事案です。

    (2)  船主は、OWBMから燃料油を購入し2014年11月4日、その供給を受けました。OWBMは親会社のOW Bunker & Trading A/S( "OWBAS" )から、OWBASはRosneft Marine(UK)Ltd( "RMUK" )から、同社はRN-Bunker Ltd( "RNB" )から、それぞれバンカーを購入しており、現実に船舶にバンカーを供給したのはRNBでした。同月6日、OWBASがデンマークにて倒産手続(restructuring)を申請し支払不能となりました。なお、INGは、このOWBM の債権の譲受人です。

    (3)  船主とOWBMとの契約では、[1]代金の支払期日はバンカー供給後60日、バンカー代の支払いがあるまでは所有権(property)は船主に移転しない所有権留保の約定(Retention of title clause[ROT] または "Romalpa" clause)がなされており、また、[2]船主は、バンカーの供給を受けた時点から当該船舶に関してバンカーを消費できることが約定されていました。

    他方、OWBASとRMUK との契約では、30日と日数は異なりますが[1]と同様の所有権留保の規定がありました。しかし、[2]のバンカー消費についての規定はありませんでした。

    このような事実関係では、船主に所有権が移転する代金支払期日の時点においては、目的物であるバンカーの全量またはほとんどは消費されていることになります。

    (4)  本件は上記の事情の下、船主らがINGらに支払義務がないことの確認を求め仲裁を申し立てましたがその主張が認められず、控訴裁判所でも同様の結論でしたので、最高裁判所に不服を申し立てたものです。なお、RMUKはRNBに代金を支払っており、手続外で、船主に対して代金請求をしていました。

  • 法律上の争点と最高裁判所の判断

    本判決に至るまでは多くの論点がありましたが、最高裁では次の3点が争点となり、次のような判断がなされました。

    (1)  the Sale of Goods Act 1979(SoGA)の適用の有無

    上記1(3)の通り、OWBASとRMUK との契約は、船主とOWBMとの契約と異なり、バンカーの消費に関する定めはありませんでしたが、最高裁は、バンカー供給業者は(OWBASまたはOMBMがバンカーを転売して)当該バンカーが消費されるであろうことを知っていたとして、かかる状況下では、本契約は同法2条(1)にいう所有権を移転する売買契約に該当しないとして、同法の適用を否定しました。

    最高裁は、バンカー契約は上記1(3)[2]の特徴を有する独特のものであり、典型的な売買契約を異なるとことを指摘しています。

    (2)  OWBMの本契約上の黙示の義務の有無

    次の争点は、OWBMが自己にバンカーを供給した業者に対して自己の債務を遂行する黙示の義務が認められるかどうかです。特に、OWBMが船主らにバンカー代を請求しうるためには、OWBM(またはOWBAS)がバンカー供給業者に対してタイムリーに代金を支払う義務があるかどうかが問題となりました。

    最高裁は、OWBMが船主に供給したバンカーは、代金支払前にも消費できる規定があったことから、OWBMが負う黙示の義務は、船主に対して代金支払前にバンカーの消費を認める点にのみにあるところ、OWBMは代金支払前にバンカーを消費する権限を与える地位にあったとして、この点についても否定しました。つまり、OWBM(またはOWBAS)は、OWBMと船主との契約上、自己がバンカー供給業者からバンカーの所有権を取得するために代金を支払うという黙示の義務は認められないと判断したのです。

    (3)  "Caterpillar" 事件の控訴審(Court of Appeal)の判断の変更の有無

    最後の争点は、FG Wilson (Engineering) Ltd v John Holt & Co (Ltd) [2014] 1 WLR 2365 (known as "Caterpillar" ) に関する控訴審(Court of Appeal)の判断が覆されるか(変更されるか)どうかでした。

    この控訴審の裁判例は、the Sale of Goods Act 1979(SoGA)2(1)に規定する売買契約に所有権留保の約定があった事案であり、代金の請求には、同法49(1)の所有権の移転が必要とする一方で、49(2)は、支払期日が特定され、かつ、買主が不当に支払いを拒む場合には、所有権の移転なくして請求することを認める例外規定であり、他の例外は認められない旨を判示していました。この点が本件についても当てはまるか、つまり同法49(2)の規定する場合以外の代金請求が認められるかが問題となりました。

    最高裁は、本契約がthe Sale of Goods Act 1979(SoGA)2(1)に規定する売買契約ではないとし、上記控訴審の判断の変更を否定しました。もっとも、同法49(2)は確立されたコモンロー上の例外としつつも、これに限定されるものではないとしており、また、本契約にthe Sale of Goods Act 1979が適用されたのであれば、上記判断は変更されたであろうとも述べています。

  • コメント

    (1)  本判決は、各々のバンカー供給契約において、所有権留保が規定されつつも代金支払前に消費が許されていたバンカー供給契約において、船主にバンカーを供給したOWBMの承継人INGの船主らに対する代金請求が認められるかが問題となった事案です。つまり、OWBMが自己にバンカーを供給した企業に対して代金未払いの場合には、OWBMはバンカーの所有権を取得して船主に移転することができないため、船主はOWBM(その承継人を含む。以下同じ。)に対して支払義務を負わないのではないか、もっと平たく言えば、船主のバンカー代金はOWBMまたはRMUK のいずれかに支払われるべきかに実質的に関わる事案といえます。

    (2)  結論として、最高裁は、控訴審の結論を支持し、バンカー供給契約は、the Sale of Goods Act 1979が想定していない独特の契約であるとして同法の適用を否定した上で、OWBMの船主に対するバンカー代金支払請求を認めたものです。

    (3)  バンカー供給契約については、BIMCOはStandard Bunker Contractとして2015 Termsを公表しております。この書式では、特段の合意がなければ、バンカー代の支払時期はバンカーが供給された時から30日後とされています。また、バンカーの所有権については、バンカー代の支払により買主に移転すると規定されており、支払いがなされるまでは買主は単に売主の受寄者(Bailee)として保有するにすぎないことが規定されています。この点に関しては、上記1(3)で紹介した本件のOWBASとRMUKとの契約と同様です。

    その点で、代金の支払期日までにバンカーの消費が許されていた本契約条項と異なっています。もっとも、BIMCO 2015 Termsの下でバンカーの供給を受けたとしても、船主に転売が予定されており、船主との間の契約にバンカー消費条項がある場合には、本判例と同様の帰結になると思われます。

    (4)  なお、本件は、日本法が準拠法の場合、本判決のような激しい争いもなく同様の結論に至ると考えます。

    日本法においては、所有権留保特約は、第三者対抗要件が具備されていなければ契約当事者以外の第三者には対抗できないとするのが近時の裁判所の趨勢です(最高裁平成22年6月4日民集64巻4号1107頁、東京地裁平成22年9月8日判決判例タイムズ1350号246頁・金融商事判例1368号58頁)。この点で、BIMCO 2015 Termsは、上記(3)のように受寄者(Bailee)と規定しており、日本法においても有用な記述と考えられます。

    また、一般の動産においては、第三者が所有権を即時取得(民法192条)することを防ぐためにネームプレートなどの公示をしておくこともよくあります。

    そうすると、バンカー供給に関しては、供給業者としては、転売が予定されている場合、受給者から転売者に当該所有権留保条項を告知する義務を負担させておくこともバンカーの差押えが可能な場合には、選択肢を広げる一方法と思料します。

    (5)  加えて、日本法では、種々の事実上の問題点はあるものの、バンカー自体を差押えることは法理論上可能である点、バンカー代金については船舶先取特権が認められている点にも留意が必要でしょう。

    (6)  海運のマーケットの低迷により、各地で船主、オペレーターを含む支払不能が相次ぐ状況下において、船舶の動力源であるバンカーを巡り船舶または船舶上のバンカーがアレストされた場合、事業遂行に極めて重大な影響を及ぼします。

    それゆえ、船主またはオペレーターとしましては、バンカー契約の内容及び相手方だけではなく、それを取り巻く関係者及び契約間関係にも可能な限りの注意を払った上で、関係当事者の破たん等による上記リスク対応に備えておくことが重要と考えます。

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