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第192回 直近10年間における下請法の運用状況と傾向

H28.6.14 独禁法・下請法・景表法チーム(芳田 栄二,吉田 伸哉,木下 雅之,名倉 大貴)

平成28年6月1日,公正取引委員会から「平成27年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組(概要)」が公表されました。

下請法違反については,公正取引員会が調査に着手する前に違反行為を自発的に申し出た上で改善措置を行う等一定の場合を除き,企業名が公表されることに加え,近時,指導件数も過去最多となっておりますので特に注意が必要です。

そこで,この機会に,上記概要のポイントと直近10年間の傾向等について,紹介させていただきます。

第1 下請法
  • 下請法の目的と適用対象

    下請法(下請代金支払等遅延防止法)は,独占禁止法の不公正な取引方法の1つである優越的地位の濫用行為に関し,独占禁止法とは別の簡易な手続きによって,下請代金の支払いを遅らせる行為などを防止することにより,下請取引の公正を確保し,下請事業者の利益を保護することを目的とする法律です。

    下請法は,(1)双方の当事者の資本金の額と(2)取引内容(製造委託,修理委託,情報成果物作成委託,役務提供委託)によって,適用の有無が異なります。具体的には次の表のようになっています。

    資本金(単位万円)

    下請事業者
    親事業者
    〜1000万円 1000万円超
    〜5000万円
    5000万円超
    〜3億円
    3億円超
    0円〜1000万円        
    1000万円超〜5000万円     適用なし  
    5000万円超〜3億円   [2]は適用あり    
    3億円超 適用あり   [1]の適用あり

    [1]   物品の製造委託・修理委託及び政令で定める情報成果物の作成委託(プログラム作成)・役務提供委託(運送,物品の倉庫における保管及び情報処理)
    ※役務提供委託(運送)には,定期傭船契約,航海傭船契約,運航委託契約等も含まれるとされています。

    [2]   情報成果物の作成委託(プログラム作成を除く)・役務提供委託(運送,物品の倉庫における保管及び情報処理を除く)

  • 親事業者の義務と禁止事項

    親事業者には,4つの義務と11つの禁止事項が課されています。

    (1)  義務:

    [1] 法定書面の交付,[2] 代金支払期日を定める義務(給付受領後60日以内)
    [3] 遅延利息の支払義務,[4] 取引の内容を記載した書類の作成・保存義務(2年間)

    (2)  禁止事項:

    [1] 受領拒否,[2] 支払遅延,[3] 減額,[4] 返品,[5] 買い叩き,[6] 購入・利用強制,
    [7] 報復措置,[8] 有償支給原材料等の対価の早期決済,[9] 割引困難な手形の交付,
    [10] 不当な経済上の利益の提供要請,[11] 不当な給付内容の変更・不当なやり直し

以下では,上記を踏まえて,近時の下請法違反の特色について紹介します。

第2 近時の下請法違反と運用状況
年度 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 平均
勧告
(件数)
11 13 15 15 15 18 16 10 7 4 13
指導
(件数)
2,927 2,740 2,949 3,590 4,226 4,326 4,550 4,949 5,461 5,980 4,504
不利益の
現状回復
316,814 60,615 149,543 322,203 570,094 67,087 87,120 132,622 213,262
手続規定
違反(件)
3,090 3,006 2,905 3,684 4,557 4,528 4,811 5,125 4,551 4,977 4,392
実態規定
違反(件)
1,215 1,175 1,376 1,535 1,955 2,286 2,218 2,250 4,529 4,697 2,606

原状回復欄の単位は万円。平成18,19年度は正確な数字が不明のため "−" としています。

  • 下請法の運用状況

    (1)  下請法違反行為に対する勧告・指導

    「勧告」件数は,平成16年4月の改正下請法施行以降,平成16年度の4件から徐々に増加し,平成20〜22年度は各15件,平成23年度には18件とピークを記録しました。しかし,その後は年々減少傾向にあり,平成27年度の勧告件数は4件でした。

    他方,指導件数は,この10年,毎年増加傾向にあり,平成19年度は2,740件でしたが,平成27年度は過去最多の5,980件を記録しました。

    (2)  原状回復額の推移

    下請事業者が被った不利益についての原状回復額は,平成24年度に57億94万円のピークを記録し(平成23年度は32億2203万円),平成25年度には6億7087万円まで下落したもの,平成26年度は8億7120万円,平成27年度13億2622万円とこの3年間で増加傾向にあります。

    平成25年度から平成27年度で原状回復額の首位を占める行為類型は「減額」で,平成27年度は7億7050万円 ,平成26年度は4億499万円,平成25年度は5億4558万円と,次順位の「支払遅延」または「返品」における原状回復金額の約2倍以上となっています。

    この点は,後述のように実体法規定違反の行為類型の上位は,「支払遅延」が66.7%と圧倒的首位を占め,2位の「買い叩き」は約15%,第3位の「減額」は直近3年間で約10%弱となっていることと対比しても特徴的です。

    (3)  荷主と物流事業者との取引に関する書面調査

    平成27年度概要には,公正取引委員会が,平成27年度に,荷主15,000名及び物流事業者17,666名を対象とする書面調査を実施し,「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」に照らして問題となるおそれがあると認められた 659名の荷主に対して,平成28年4月,物流事業者との取引内容の検証・改善を求める文書を発送したことが報告されています。

  • 下請法違反の処理状況

    (1)  新規着手事件と処理状況

    事件の端緒としては,公正取引委員会の「書面調査」と下請事業者等からの「申告」に分類されます。平成27年度の新規着手した下請法違反被疑事件は 6,305 件でした。

    このうち「書面調査」は,平成22〜24年度は4,000件台でしたが,平成25〜26年度には5,000件台に達し,平成27年度は6,210件と増加傾向にあります。

    また,「申告」は,平成22年度に145件を記録した後,平成23〜25年度は50件台でしたが,平成26年度に83件,平成27年度は95件となっており,同様に増加傾向にあるといえます。

    (2)  勧告・指導件数の推移と内訳

    [1]  平成27年度の勧告件数は4件であり,上記の通り平成23年度の18件をピークに年々減少傾向にあります。これと対照的なのが指導件数で,平成27年度は5,980 件でした。指導件数は,平成20年度は2,949件でしたが,平成22年度には4,226件,平成25年度には4,949件となり,平成27年度は5,980件と昭和31年の下請法施行以降,過去最多を記録しました。

    [2]  平成27年度の指導,勧告の合計である措置件数(5,984件)の地区ごとの内訳

    首位は「関東甲信越地区」(茨城,栃木,群馬,埼玉,千葉,東京,神奈川,新潟,山梨,長野)で2,730件(45.6%),次いで「近畿地区」(福井,滋賀,京都,大阪,兵庫,奈良,和歌山)が2位の1,261件(21.1%),第3位は「中部地区」(富山,石川,岐阜,静岡,愛知,三重) で646件(10.8%)となっています。

    この上位3地区で全体の約75%を占めるほか,上記3地区の数値が,各々次順位の約2倍となっている点は興味深いところです。

    [3]  業種別では,この3年,製造業が約40%,卸売業,小売業が25%前後で推移しています。

    (3)  類型別の分析

    [1]  概況

    平成27年度に勧告・指導が行われた事件は,全体で9,674件であり,このうち発注書面の交付義務等を定めた「手続規定違反」は4,977件,親事業者の禁止行為を定めた「実体規定違反」は4,697件でした。

    [2]  実体規定違反の増加

    手続規定違反は平成22年度以降,約4,500件から平成27年度の4,977件と全体的には微増に留まっています。他方,実体規定違反は,平成22-25年度は2,000件前後でしたが,平成26年度は4,529件,平成27年度には4,697件となっており,5年前に比べると約2倍近く増加しており,この点には十分留意が必要でしょう。

    [3]  実体規定違反の内訳

    件数(%)

    年度(平成) 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27
    支払遅延 701
    (57.7)
    701
    (59.7)
    866
    (63.0)
    790
    (51.5)
    1281
    (65.5)
    1328
    (58.1)
    1250
    (56.4)
    1488
    (66.1)
    2843
    (62.8)
    3131
    (66.7)
    買い叩き 28
    (2.3)
    39
    (3.3)
    68
    (4.9)
    113
    (7.4)
    93
    (4.8)
    166
    (7.3)
    98
    (4.4)
    86
    (3.8)
    735
    (16.2)
    631
    (13.4)
    減額 134
    (11.0)
    112
    (9.5)
    97
    (7.1)
    107
    (7.0)
    176
    (9.0)
    189
    (8.3)
    284
    (12.8)
    228
    (10.1)
    383
    (8.5)
    373
    (7.9)
    割引困難手形 170
    (14.0)
    147
    (12.5)
    221
    (16.1)
    300
    (19.5)
    224
    (11.5)
    280
    (12.2)
    246
    (11.1)
    208
    (9.2)
    253
    (5.6)
    210
    (4.5)

    i.     平成27年度の実体規定違反件数4,697件の行為類型別の内訳は,「支払遅延」,「買い叩き」,「減額」の順となっています。平成26年度も同様の順位ですが,平成26年度及び平成27年度は,この3つで約90%を占めている点に大きな特徴があります。

    ii.     支払遅延」は,平成18年以降の10年間で常に首位を占めており,直近3年の平均は約65%(平成27年度は3,131件の66.7%)とやや増加傾向にあります。

    iii.   「買い叩き」は,平成20年以降平成25年度までは第4位であることが多く,その割合も約5%前後で推移していましたが,平成26〜27年度は増加して第2位となり,全体の約15%を占めています。この割合は,次順位の「減額」の倍近くの数値です。なお,平成27年度の「買い叩き」は,前年度の735 件から104件減少し,631件(13.4%)でした。

    iiii.  下請代金の「減額」は,平成18〜23年度までは,第2位の割引困難手形に次ぐ第3位となっていましたが,割引困難手形は平成21年の19.5%をピークに以降減少し,平成24〜25年度では,減額が割引困難手形を抜いて第2位となり,共に10%前後の割合となっていましたが,その後はやや減少傾向にあります。平成27年度は,前年度の383件から10件減少し,373件(7.9%)でした。

    v.     なお,前年の平成26年度に比べて違反件数の減少が見られる行為類型は,受領拒否,下請代金の減額,返品,買いたたき,早期決済及び割引困難手形の6類型でした。

  • 小括

    以上の通り,勧告事案は減少しつつありますが,指導事案は過去最多を記録しており,その内容も単なる手続規定違反ではなく,実体規定違反が増加しているのが近時の特徴といえます。また,勧告・指導の件数が少ない「返品」ですが,実は弁護士相談の上位を占めているのが近年の傾向です。

    数年かけて社内での研修・教育・啓蒙活動等により下請法遵守の企業風土を作ることに成功した企業も多くある一方で,業界や地域性を理由に,下請法に対する意識が低い企業もまだ多いのも実情のように思います。また,公正取引委員会の調査を契機に,法務部を創設し,社内のコンプライアンスの体制を一気に構築することに成功した企業等も少なからずありました。

    下請法が適用されない場合でも,その上位法である独占禁止法の不公正な取引方法に係る規制が適用される場合もありますので,この点に関しても十分な注意が必要であると同時に,下請法だけに捉われない社内のコンプライアンス体制が重要であることは改めて指摘するまでもないでしょう。

    当事務所には独占禁止法・下請法・景品表示法等に精通した弁護士が複数おり,主に親事業者側から寄せられる下請法関連の相談等に数多く対応しているほか,公正取引委員会や中小企業庁による立入調査への立会い,書面調査や改善指導への対応,社内の研修対応等種々のリーガルサービスの提供を行っておりますので,ご遠慮なく当事務所までご相談ください。

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