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第193回 民泊サービスと法的規制 〜近時の検挙報道等を受けて

H28.7.22 吉田 伸哉

近年増加する中国人を初めとする外国人観光客を中心に,首都圏等を中心とするホテル宿泊料の高騰も相まって,近時,ブームとなっている「民泊サービス」について,指導事例が急増しており,旅館業法違反(無許可営業)として刑事事件として立件される事例も報道され,行政の動きも活発になっています。

私は,不動産関連の資格を複数有し,日本不動産仲裁機構の協力弁護士を務めているほか,これまで上場企業を含む多数の不動産会社(賃貸・管理会社を含む),ホテル・旅館等の法律問題に対応しておりますが,近時,シェアハウスや民泊サービスに関する相談も受けておりますので,この機会に,民泊サービスについて近時の動向を踏まえながら法律上の問題点や法制度を紹介させていただきます。

  • 近時の報道と政府・公共団体の対応

    (1)  民泊サービスを巡っては,外国人宿泊者のマナーの悪さ等に起因して周辺住民とのトラブルも数多く報告されており,テロや感染症予防対策としても一定の規制が必要とされています。一方,外国人観光客による消費による経済効果,空き家等の有効活用,2020年の東京オリンピック対策としても注目を浴びています。

    (2)  民泊サービスの仲介サイトとしてはAirbnbなどが知られておりますが,これまで民泊サービスは,一般にはグレーゾーンとして報じられていました。しかし,近時,無許可の「民泊サービス」が刑事事件として摘発されており,京都市では2015年12月16日,大阪市では2016年4月26日,東京都台東区では2016年7月13日にそれぞれ,旅館業法違反(無許可営業)で書類送検されています。

    (3)  自治体では,大阪府が,昨年11月,全国に先駆けていわゆる「民泊条例」(正式名称:大阪府国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する条例)を制定し,2016年4月1日から施行されています。京都市では,本年5月,全国初の「民泊110番」を設置することを公表し,また,本年7月14日付で市のホームページで「本市においては,旅館業法の許可を受けずに,営業することはできません。」と明記されるに至るなど,首都圏・関西圏の公共団体で,動きが活発になってきています。

  • 民泊サービスはグレーゾーン?

    (1)  厚生労働省の「民泊サービス」のあり方に関する検討会最終報告書においては,「民泊サービス」とは,「住宅(戸建住宅,共同住宅等)の全部又は一部を活用して,宿泊サービスを提供するもの」とされています。法律上,ホテル・旅館に宿泊する「宿泊契約」と建物・部屋を賃借する「賃貸借契約」がありますが,両者の区別は実際のところ容易でない場合もあります(例えば,ウィークリー,マンスリーマンション,家具などの設備が完備の1月からの賃貸借契約など)。

    (2)  両者を1か月の期間で区別する取り扱いもなされていますがこれは後述の通知を踏まえたものにすぎません。法律上は,実は,賃貸借契約自体には最短期間の定めはなく,時間単位,日数単位での契約も可能となっています。例えば,ショッピングモールやアミューズメント施設の出店等では1日単位で賃貸借契約の形で貸すことも多く,また,タイムパーキング,レンタルDVD・CD・Bookなどをイメージ頂くと分かりやすいでしょう。

    (3)  このように両者の区別は必ずしも容易ではありませんが,宿泊契約で旅館業法の適用がある場合には,原則として「許可」が必要であり,賃貸借契約の場合には,原則として許認可等は不要とされています(但し,民泊サービスと同様にブームになっている個人等の時間貸しの駐車スペースの提供は駐車場法に基づく届出等が必要です)。

    (4)  旅館業法では,「旅館業」を「宿泊料を受けて,人を宿泊させる営業」としており,[1]ホテル営業,[2]旅館営業,[3]簡易宿所営業,[4]下宿営業の4つに分類しています。ここで,「宿泊」とは,寝具を使用して施設を利用することとされています。そのため,単なる友人を宿泊させるなど実質的に宿泊料を徴収しない場合,寝具のないネットカフェなどは旅館業法の適用は受けません。

    (5)  厚生労働省は,旅館業と賃貸借の相違点として,[1]施設の管理・経営形態を総体的にみて,宿泊者のいる部屋を含め施設の衛生上の維持管理責任が営業者にあると社会通念上認められること,[2]施設を利用する宿泊者がその宿泊する部屋に生活の本拠を有さないこと,を挙げており,昭和61年3月31日付厚生省指導課長通知と内容は同じです。この点は,実務上両者の区別に関して非常に重要な基準といえます。

    なお,かかる考え方を踏まえて,「旅館業法運用上の疑義について」(昭和63年1月29日厚生省生活衛生局指導課長通知(衛指第23号)において,ウィークリーマンションは旅館業法の適用を受けるとされています。

    (6)  ともあれ,上述のように旅館業法は「宿泊料を受けて,人を宿泊させる営業」の場合に適用されます。ここに「営業」とは「社会性をもって継続反復されている」ことをいい,「社会性をもって」とは,「社会通念上,個人生活上の行為として行われる範囲を超える行為として行われるもの」と厚生労働省は説明しています。

    そうすると,上記賃貸借との区別が容易でないことや,実際に刑事事件として検挙する上で,「社会性」や「反復継続」を証明するには多くの証拠を必要とする場合が多く訴追が容易ではないことなどからグレーゾーンと言われていたように思います。

    (7)  しかし,政府の見解が明示された現在では,旅館業法の許認可を受けず,個人の生活上の行為として行われる範囲を超えて反復継続(「営業」)して,宿泊料を受領すれば,客観的に旅館業法違反となるという方向性はある程度固まったようにも思います。なお,旅館業法違反の無許可営業の罰則は,6ヶ月以下の懲役または3万円以下の罰金とされています。

  • 「民泊サービス」のあり方に関する検討会最終報告書

    (1)  民泊サービスを合法的に行うための1つの方法が,規制緩和された旅館業法に基づき対応する方法です。

    (2)  政府も民泊問題に対して,厚生労働省・観光庁が共同で「民泊サービス」のあり方に関する検討会を開催,運営していましたが,平成28年6月20日,「民泊サービス」の制度設計のあり方について(「民泊サービス」のあり方に関する検討会最終報告書) が公表されました。

    (3)  同報告書においては,「民泊サービス」とは,「住宅(戸建住宅,共同住宅等)の全部又は一部を活用して,宿泊サービスを提供するものとする」とし,「家主居住型(ホームステイ)」と「家主不在型」に分類しています。

    現在までに,旅館業法の政令等を改正し,面積基準やフロントの設置などについて規制緩和を既に行っていますので,現時点で,民泊サービスを営む場合にはこの基準に基づく許可を得る必要があります。

    最終報告書ではこれらを前提とした上で,いずれの分類であっても住宅提供者は「届出制」とすること,パスポートの写しの保存等を含む利用者名簿の作成・備付,最低限の衛生管理措置,簡易宿所営業並みの宿泊者一人当たりの面積基準(3.3m²以上)の遵守などを定めるとともに,法令違反が疑われる場合や感染症の発生時等,必要と認められる場合 の行政庁による報告徴収・立入検査なども検討することとされています。

    「家主不在型」においては,特に周辺トラブルや悪用の危険性が高いことを考慮し,「管理者」の設置を義務付け,行政庁への「登録」制を採用する方向です。また,仲介業者にも一定の規制を行うこととしています。

    民泊サービスは,ホテルと異なる住宅として扱い得ることを前提にしており,上記規制緩和と法整備がなされる関係上,ホテルと区別するための営業日数については,年間180日以下の範囲内で今後検討することとされています。

    (4)  なお,これらの通常の民泊サービスとは別に,年1回(2〜3日程度)のイベント開催の場合の民泊サービスの提供については,別途の考慮がなされており,観光庁より2016年4月1日付で「イベント民泊ガイドライン」が公表されています。

  • 民泊と国家戦略特別地域(国家戦略特区)

    (1)  民泊サービスを合法的に行うもう1つの方法としては,国家戦略特別区域法に基づいて特定認定を取得する方法です。

    (2)  「国家戦略特別区域」とは,産業の国際競争力の強化のために政令で定める区域をいい,東京圏(東京都,神奈川県,千葉県成田市),関西圏(大阪府,兵庫県,京都府) ,新潟県新潟市,兵庫県養父市,福岡県福岡市,沖縄県などです。この地域では,外国人旅客に,7日〜10日以上(条例で定めた期間),賃貸借形式で,一室25m²以上等の要件を充たした居室を提供する場合,外国語を用いた施設の使用方法など一定の要件を具備した場合には,知事の認定による,旅館業法の許可を受けずに民泊サービスを提供することが可能となります。

    (3)  例えば,上述した大阪府の民泊条例はこの制度に基づくものですが,施設の使用方法に関して外国語を用いた案内(日本語によるものも必要),廃棄物の処理体制,事業についての近隣住民への事前説明,近隣住民からの苦情対応体制(24時間適切に対応できる窓口の設置)などが求められています。

  • 民泊サービスと民事上の契約違反

    (1)  建物の所有者・管理者等が自ら「民泊」を行った場合については,上記の通りです。また,その建物の建築や取得等にあたり,金融機関から融資を受けている場合,民泊による行政処分等が融資契約違反として規定され(期限の利益喪失事由に該当),一括返済を迫られる法的リスクも法律上存在することに留意が必要です。

    (2)  また,分譲マンションにおいては,管理規約において通常,使用目的が居住用と規定されていますので,民泊として,無断で利用することは,管理規約違反になりますので,マンション管理組合から,差止請求,損害賠償請求,最悪の場合には競売による売却の恐れもあります。

    (3)  一方,通常の賃貸借物件を賃借人が「民泊」に利用させることについてはどうでしょうか。通常,賃貸借契約において,同様に「居住」と記載されているほか,第三者への賃貸や目的外使用を禁止していますので,特約等で許容されていない限り,通常は賃貸借契約違反として,契約解除や損害賠償請求を受ける法的リスクがあります。

    (4)  マンション管理組合側や賃貸人側としては,上記の訴訟以外に,保全手続としての使用禁止の仮処分を申請することなどが考えられます。近隣住民としても程度の問題という点で容易ではありませんが,使用禁止の仮処分や損害賠償請求や一定の措置を講じることを求める訴訟等の対応も考えられるところです。

  • まとめ

    現時点は,若干の規制緩和がされたとはいえ,ハードルは高くその利用は容易とは言えないのが現状です。他方で,政府等の方針が明確になった今日では,一定の民事手続きによる救済のハードルも下がったように思います。しかし,民泊サービスに関する行政の対応は,まだ初期段階ですので,ますますニーズが高まる民泊サービスとの関係で,更に利用しやすい仕組みも想定されており,今後の動向を注視することが必要と考えます。

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