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第196回 商法及び国際海上物品運送法の改正法案の国会提出

H28.10.21 山下 和哉
  • 改正法案の国会提出

    「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律案」が,平成28年10月18日,閣議決定され,国会に提出されるに至りました。これは,商法のうち主に運送及び海商に関する部分と国際海上物品運送法の一部分を改正するものですが,特に商法のうち運送・海商という分野は,商法が制定された1899年(明治32年)以来,実に一世紀余の間,実質的な改正がほとんどされていませんでしたので,運送実務界待望の改正法案が遂に国会に提出されたと言えます。

    そこで,今回は,この改正法案の国会提出に至る経緯とその概要をご紹介いたします。

  • 改正法案の国会提出に至る経緯

    (1)  法務大臣からの諮問(平成26年2月)

    平成26年2月,法制審議会総会第171回会議において,法務大臣から諮問第99号が行われ,法制審議会商法(運送・海商関係)部会(部会長:山下友信同志社大学大学院教授)が設置されました。諮問事項は,「商法制定以来の社会・経済情勢の変化への対応,荷主,運送人その他の運送関係者間の合理的な利害の調整,海商法制に関する世界的な動向への対応等の観点から,商法等のうち運送・海商関係を中心とした規定の見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」というものでした。

    (2)  法制審議会商法部会での審議(平成26年4月〜平成28年1月)

    法制審議会商法部会は,平成26年4月から調査審議を開始し,これと並行して,旅客運送に関する事項については,同部会のもとに設置された旅客運送分科会において調査審議が行われました。この部会及び分科会では,運送業界(物品・旅客/陸上・海上・航空),荷主,労働団体,消費者団体,保険業界,弁護士会,裁判所,大学教授など,運送に関わる様々な方々の参加のもと,部会が18回,分科会が7回にわたり開催され,熱心な議論が続けられました。

    また,その間,平成27年3月には,中間試案が取りまとめられ,同年5月まで行われたパブリック・コメント(意見募集)の手続では,合計143件の意見が寄せられており,世間の関心の大きさが窺えると思います。

    その後,平成28年1月の法制審議会商法部会において,「商法(運送・海商関係)等の改正に関する要綱案」が全会一致で決定されました。

    (3)  法制審議会で要綱の決定・法務大臣に対する答申(平成28年2月)

    平成28年2月の法制審議会総会第176回会議において,「商法(運送・海商関係)等の改正に関する要綱」が,原案通り,全会一致で決定され,法務大臣に対して答申されました。この要綱の内容については,法務省のウェブサイトでご確認いただけます。

    (4)  改正法案の国会提出(平成28年10月18日)

    その後,法務省の事務当局では,改正要綱の内容を踏まえた条文化の作業が行われ,平成28年10月18日,「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律案」が閣議決定され,国会に提出されるに至りました(具体的な条文等は,近日中に,法務省のウェブサイトにアップされるものと思われます。)。

  • 改正法案の概要

    改正法案では,本則において,「商法」及び「国際海上物品運送法」の一部を改正する規定が設けられるとともに,附則において,これらの改正に付随して必要となる関係法令の改正規定や施行日・経過措置等の規定が設けられています。

    また,商法においては,次に詳述するような運送・海商の改正のほか,これ以外の片仮名文語体の規律が残る分野(仲立営業,問屋営業及び寄託)についても,平仮名化する改正がされており,今回の改正によって,「商法」の全ての規律が平仮名化されることとなります。このように,今回の改正法案は,我々ユーザーにとって,商法全体の理解が容易になるものであるという点でも大いに歓迎すべき改正であると考えます。

    改正法案のうち,実質的な改正がされる運送・海商の規律の主なものは,次のとおりです。

    (1)  航空運送・複合運送
    各種運送に関する総則的規律を設け,現在は規定を欠いている「航空運送」や,陸上・海上・航空を組み合わせた「複合運送」にも,これを適用することとされました。また,複合運送の運送人の責任は,運送品の滅失等の原因が生じた区間に適用されることとなる法令又は条約の規定に従うこととされました。

    (2)  危険物に関する通知義務・荷送人が無過失の場合の免責
    危険物に関する通知義務については,多様化する危険物の安全な運送を確保するという観点から,運送品が危険物である場合に,荷送人に危険物に関する通知義務を課す規定を新設することとされました。

    法制審議会商法部会では,この通知義務に違反した荷送人の損害賠償責任の在り方に関して,荷送人に帰責事由がない場合にも荷送人が責任を負うか否かについて,意見が大きく分かれましたが,様々な議論を経た結果,最終的には,荷送人は,危険物に関する通知義務に違反した場合には,これによって生じた損害の賠償責任を負うが,その違反につき荷送人に帰責事由がないときは,荷送人は賠償責任を負わないとすることとされました。これは,物流においては,製造業者・商社・利用運送事業者・消費者など様々な関係者が危険物の荷送人となるところ,各自の帰責事由の有無に応じた弾力的な判断ができるようにすべきであることなどの理由によるものです。

    (3)  運送人及びその被用者の不法行為責任の軽減
    現行法では,運送品が高価品であることを荷送人が申告しなかった場合における運送人の責任の免責規定(商法578条),運送人の損害賠償額の定額化(商法580条)等の運送人の契約責任を軽減する規定は,基本的には,運送人及びその被用者の不法行為責任には及ばないと解されていますが,これらの規定の趣旨を没却させないようにするため,その効果を運送人及びその被用者の不法行為責任についても及ぼすこととされました。

    (4)  旅客運送人の責任に関する片面的強行規定
    旅客運送人の責任について,旅客の安全確保の観点から,旅客の生命又は身体の侵害による運送人の責任を軽減する特約を一律に無効とすることとされました。ただし,運送事業の合理的な運営や真に必要な運送の確保等の観点から,運送の遅延を主たる原因とする運送人の責任や災害地における運送及び重病人等の運送については,例外的に免責特約の余地を残すこととされました。

    (5)  定期傭船
    海運実務上頻繁に利用される定期傭船契約(船舶所有者等が艤装〔航海に必要な装置等を設置すること〕して船員を配乗した船舶を一定期間相手方に利用させる契約)について,新たな契約類型として,基本的な規律を新設することとされました。

    (6)  堪航能力担保義務の過失責任化
    国内海上運送における堪航能力担保義務(船舶の整備や適切な船員の配乗などによって船舶が安全に航海をする能力を有することを担保する義務)について,現行法の下では,この義務違反による責任は無過失責任であると解されていました(商法738条,最高裁昭和49年3月15日判決参照)が,国際海上運送とのバランス等を踏まえ,国内海上運送に関しても,堪航能力担保義務違反による責任を過失責任に改めることとされました。

    (7)  海上運送状
    貿易実務上船荷証券に代えて頻繁に利用される海上運送状(Sea Waybill)について,基本的な規律を新設することとされました。

    (8)  船舶の衝突によって生じた債権の消滅時効
    現行法では,船舶の衝突による物損に関する不法行為責任は,被害者が損害及び加害者を知った時から1年の消滅時効に服するとされています(商法798条1項,最高裁平成17年11月21日判決参照)が,国際条約とのバランス等を踏まえ,不法行為の時から2年の消滅時効に服することとされました。なお,人身損害に関する不法行為責任については,人命尊重の見地から,国際条約とは異なり,商法に短期消滅時効の規律を設けず,民法724条により,加害者等を知ってから3年(民法改正後は5年)の消滅時効に服することとされました。

    (9)  海上保険
    海上保険について,加入の際には保険契約者の側で危険に関する重要事項を告知すべき旨を明文化することとされました。

    (10)国際海上物品運送法の改正
    国際海上物品運送法が定める運送人の責任限度額に関して,その元となっている国際条約(ヘーグ・ヴィスビー・ルールズ)についての諸外国の解釈に対応するという観点から,運送品1包ごとに各別に責任限度額を定めるのではなく,運送品の全体につき責任限度額を定めるように改めることとされました。

  • 最後に

    このように,今回の改正は,個別の規律を部分的に見ると,一方当事者にのみ有利となるように見えるものも見受けられますが,その全体を俯瞰すると,運送人,荷主,消費者,運送に従事する労働者,保険者等の運送関係者全体の合理的な利害調整を図るものであり,また,現代的又は世界的な実務にも適合するものであることから,国会における早期の成立が望まれます。

    また,運送に関係する企業の皆様にとっては,この改正内容を踏まえ,約款や契約書の内容を今一度見直されることをお勧めいたします。確かに,商法の規定は任意規定が多いことを挙げてその存在意義に乏しいなどという意見もございますが,例えば,契約締結の場面において,商法と同内容の契約条項を設ける場合には,その合理性等の説明は最小限のもので足り,他方,商法と異なる内容の契約条項を設ける場合には,その条項を求める側においてその合理性等を説明することとなると考えられます。このような契約締結の場面における大きな指針という商法の機能にも着目していただきながら,この機会に,皆様のお手元にある契約書のひな形の改訂をご検討されてはいかがでしょうか。

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