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第197回 国税に関する処分を争いたいときには?
〜国税不服審判所の紹介と近時の重要な改正点〜

H28.11.9 羽柴 研吾
  • 国税不服審判所と不服申立手続の抜本的改正

    先日,国税不服審判所(以下「審判所」といいます。)が,「極ゼロ」に関してサッポロビールが自主納付した酒税115億円の返還が認められなかったことを理由とする審査請求を棄却したとの報道がありました(日本経済新聞平成28年10月15日付朝刊参照)。同朝刊によれば,サッポロビールは,訴訟を提起するかどうかを検討するとのことです。

    このように,国税に係る処分は,裁判所に処分の違法性を判断してもらう前に,審判所がその処分の違法性等を審理する仕組みがとられています(これを「不服申立前置主義」といいます。)。

    さて,審判所の審査請求の手続については,行政不服審査法の特別法である国税通則法(以下「通則法」といいます。)に規定されていますが,平成26年6月に,行政不服審査法が52年ぶりに抜本的に改正され,これに伴い通則法も改正されました。改正通則法は,平成28年4月1日以降に行われる処分から適用されており,実務上も非常に重要な改正であることから,審判所の現状とともに,改正通則法の概要についてご紹介させていただこうと思います。

  • 審判所の組織構成と審査請求の処理状況

    (1)  組織構成

    ア   審判所は,国税庁の特別の機関として設置された組織であり,霞が関にある本部のほかに,全国の主要な都市に12の支部(東京,大阪,名古屋,関東信越,札幌,仙台,金沢,高松,広島,福岡,熊本,沖縄)と7つの支署(横浜,新潟,長野,静岡,京都,神戸,岡山)があります。 どの支部又は支署がどの地域を管轄しているかにつきましては,審判所のウェブサイトでご確認ください。

    イ   審判所では,審査請求に対して国税不服審判所長名義で裁決(裁判でいう判決に相当します)を行いますが,裁決はそれぞれ独立した立場にある3名以上の国税審判官等で構成される合議体の決議に基づいて行われます。

          従来,この合議体は国税職員を中心に構成されてきましたが,近時は,民間から弁護士,税理士,公認会計士その他の有識者を積極的に登用しており,現在では国税審判官の半数はこのような民間出身の職員によって構成されています(なお,私も平成24年4月から平成28年7月までの間,東京支部及び仙台支部において国税審判官として執務しました。)。

    (2)  審査請求の処理状況

    近年の審査請求の状況によれば,審査請求数は,平成18年度以降増加していましたが,平成24年度をピークに減少傾向にあります。

    しかしながら,平成20年代前半の増加要因は,消費税案件の一時的な増加によるものですので,審査請求数は,おおむね2000件から2500件の範囲内で推移していると考えられます。

    一方,審査請求の処理状況によれば,裁決をした案件数において認容(全部認容及び一部認容)された割合は,過去3年度ではわずか1桁台にまで落ち込んでいます。もっとも,認容率が低くなった理由は,近年の調査手続の法定化やそれに伴って国税当局が調査案件を厳選していること等がひとつの要因となっているものと思われます。

    なお,審査請求は原則として1年以内で処理されることになっており,おおむね90から96パーセントの範囲内で処理されています。審査請求を申し立てるかどうかをご判断される際の目安としてご参考にしていただければと思います。

  • 改正法案の概要

    さて,通則法の主要な改正点は,以下のようになっています。

    (1)  再調査の請求の創設と選択的不服申立て
    冒頭で,国税に係る処分については,裁判所に訴えを提起する前に,審判所に審査請求を申し立てる必要があると述べました。実は,改正前は,一部の例外を除いて,審判所への審査請求の前に,税務署長等に異議申立てをする必要があり,異議申立てと審査請求の二段階の不服申立てを経て初めて裁判所に訴えを提起できる仕組みがとられていました。
    改正通則法では,異議申立ては「再調査の請求」という制度に改められ,審査請求と選択できるようになりました。

    (2)  不服申立期間の3ヵ月への延長
    国税に係る処分がなされた後,不服申立てができる期間は,処分があったことを知った日の翌日から2カ月とされていましたが,改正通則法によって3カ月に延長されました。
    行政訴訟の場合の出訴期間が,処分があったことを知った日の翌日から6カ月とされていることと比較して短期間ですが,法律関係を早期に確定させる要請と国民に権利救済の機会を保障することのバランスをとった結果といえます。

    (3)  標準処理期間の設定
    改正前は,審査請求の審理期間については,法令上の制限は特段ありませんでしたが,改正通則法によって,審判所は,裁決をするまでに通常要すべき標準的な期間を定めるよう努め,これを定めた場合は公表するものとされました。
    既に,平成28年3月24日付の国管管2-7「審査請求に係る標準処理期間の設定等について」(事務運営指針)において,原則として審査請求から1年以内に処理することが定められています。

    (4)  口頭意見陳述の権利拡張
    改正前は,担当審判官は,審査請求人から口頭意見陳述の申立てがあった場合,その機会を与える必要がありましたが,原処分庁が同席することは予定されていませんでした。
    改正通則法は,口頭意見陳述には,原処分庁の職員も同席するものとし,更に審査請求人から原処分庁への質問権も付与しました。裁判のような対審的な審理を導入して,審査請求人の手続保障を図る趣旨と考えられます。できる限り原処分庁の職員が即答できるような運用を期待したいところです。

    (5)  審理手続の計画的遂行
    担当審判官は,審理すべき事項が多数ある案件等のように,迅速かつ公正な審理を行うため審理手続を計画的に遂行する必要があると認める場合には,期日と場所を指定して審理関係人を招集し,審理手続の申立てに関する意見の聴取を行うことができるものとされました。

    (6)  閲覧請求権の権利拡張

    ア      担当審判官は,審査請求人及び原処分庁から証拠の任意提出を受け,又は自ら職権で証拠を収集します。そうすると,原処分庁がどのような証拠を提出しており,審判所がどのような証拠を収集しているのかを審査請求人が閲覧できることが,的確な反論をするために重要です。
    しかしながら,改正前は,原処分庁が審判所に任意提出した証拠のみが閲覧請求の対象となり,審判所が職権で収集した証拠は閲覧の対象となりませんでした。また,原処分庁が提出した証拠を閲覧する場合でも,謄写が認められていなかったため,審査請求人は証拠の内容を手書きで書き写すなど非常に手間暇がかかっていました。
    改正通則法では,職権で収集した証拠も閲覧請求の対象とし,謄写もできることになりました。これによって,審査請求人が,審判所が職権で収集した証拠を把握することができ,充実した反論をすることも可能となりました。

    イ      一方,閲覧請求の改正には注意すべきことが2点あります。
    1点目は,審査請求人の閲覧請求権が拡張されたといっても,担当審判官が作成する質問調書等は対象から外されているという点です。調書の中に重要な事実関係が記載されていることもあるため,これも対象とすることが望まれます。この点については,衆・参両総務委員会の附帯決議で,今後の検討課題とされています。
    2点目は,改正後の閲覧謄写は,原処分庁にも認められているという点です。これは審判所が第三者的機関であることから,原処分庁にも閲覧謄写を認めるべきと考えられたことによるものです。

  • 専門家との連携

    税法は,複雑怪奇な法令と膨大な通達が存在する法分野です。このような分野において国税当局と対等に闘っていくためには,弁護士,税理士,公認会計士等との連携は不可欠というのが,審判所で執務した当職の率直な印象です。税務上の問題にお悩みの際には,お気軽にご相談いただければと存じます。

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