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第31回 債権者に弁済を拒まれたら

H22.6.11 西川 精一

物を買ったり,お金を借りたりした場合,「支払をしてくれない,返済をしてくれない」という状況は,売主や貸主にとっては困った事態ですが,逆に「支払をさせてくれない,返済をさせてくれない」という状況は,買主や借主にとって困った事態です。なぜなら,そのままの状況が続くと,代金や借入金に対する利息が発生し続けたり,債務不履行として契約を解除されたりする場合があるからです。具体例を挙げますと,一方的に家賃を値上げされ,これに納得できない建物賃借人が値上前の家賃を賃貸人に持参したものの,賃貸人が「値上後の家賃全額でないと受け取らない」と主張する場合です。この場合,賃貸人が家賃を受け取らないからといってそのまま放っておくと,今度は賃料不払いにより賃貸借契約を解除されてしまいかねません。

このような場合に備えて,「供託」という制度が設けられています。供託は「執行供託」や「担保保証供託」など,いろいろな場面で用いられますが,上記のような場合は「弁済供託」(民法第494条)をすることになります。その要件として,(1)債権者(売主や貸主)が弁済の受領を拒否した,(2)債権者が弁済を受領できない,(3)債権者が誰なのか確知できない,のいずれかを充たすことが必要です。

(1)の例としては,冒頭の家賃値上げの事案や,交通事故などの不法行為事案のように,債権額について争いがある場合に債権者が債務者の主張する金額での弁済受領を拒む場合が挙げられます。(2)の例としては,急な入院や交通途絶で債権者が履行場所に行けない場合や,債権者が制限能力者で弁済受領能力がないにもかかわらず法定代理人や保佐人がいない場合,(3)の例としては,債権者が死亡して相続人が誰か確知できない場合や,債権譲渡の当事者間で譲渡につき争いが生じて誰が真の債権者か確知できない場合,債権差押命令が重複した場合などが挙げられます。

そして,有効な供託がなされた場合,債務者(買主や借主)はその債務を免れますので,利息の発生や,契約解除といったペナルティーを回避することができます。

ただし,気を付けていただきたいのは,有効な供託となるためには,原則として債務の全額を供託しなければならないという点です。供託額が,実際に決着した額を下回っていた場合,原則としてその供託は全体が無効となってしまい,一部弁済としての効力さえ持ち得ません。この点の見極めにあたっては,事実経過や相手の主張等をふまえた慎重な判断が必要となります。

ここで,「なぜ債権者側の都合で弁済ができないのに,債務者は供託という手続までとらなければならないのか」という素朴な疑問が生じるかもしれませんが,これは,債務の弁済は法的義務であるのに対して,弁済の受領は法的義務ではない,とされているためです。従って,もし,債権者の受領不能等に遭った場合,債権者の問題だからと放置するのではなく,供託しなければペナルティーが課せられるのではないか,よく検討をする必要があります。

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