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第39回 内部通報制度を効果的に運用するための研修

H22.10.1 上谷 佳宏

内閣府国民生活局は,平成17年7月19日,公益通報者保護法(平成18年4月1日施行)を踏まえて,事業者のコンプライアンス経営への取り組みを強化するために,労働者からの法令違反等に関する通報を事業者内において適切に処理するための指針として,「公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン」(以下「本ガイドライン」といいます。)を公表しました。
(消費者庁ホームページ:http://www.caa.go.jp/seikatsu/koueki/minkan/files/minkan.pdf

本ガイドラインが冒頭で述べているとおり,事業者が,本ガイドラインを踏まえ,事業者内部での通報処理の仕組みを整備することは,事業者内部の自浄作用を高めるとともに,事業者外部への通報による風評リスク等を減少させることにもつながることから,多くの事業者が,本ガイドラインを参考に内部通報制度を構築してきました。

具体的には,各事業者は,本ガイドラインが示すとおり,外部通報窓口を含む通報窓口・相談窓口を整備し,通報の受付,調査の実施,是正措置の実施,通報者に対する解雇・不利益取扱いの禁止,フォローアップ等を内容とする内部通報規程を制定したうえ,その運用をしているものと思われます。

ところで,当事務所も,少なくない数の事業者から依頼を受けて,内部通報制度の構築に関与し,その外部通報窓口となってきました。しかしながら,制度設計後4年を経て,内部通報制度は,必ずしも,当初企図したほどには利用されていないという印象をもっております。と言いますのも,多くの事業者は,通報対象を狭い意味の法令違反に限らず,社内規則違反や社会規範・企業倫理違反まで含めていることからすれば,実際の通報件数程度の通報対象行為しか発生していないとは到底思えないからです。

関係者に,内部通報制度が十分に利用されていない理由をお聞きすると,第一には,内部通報制度自体の存在は知っているが,その仕組・内容が十分に周知されていないことから,その利用方法に不案内であり通報に躊躇するという事情が,第二には,内部通報制度の仕組・内容は知っているが,個人情報の保護や通報者に対する解雇・不利益取扱いの禁止が本当に図られるかという不安があり通報に躊躇するという事情があるのではないかと指摘されることが多くあります。

もし,これらの事情が真に存在するとすれば,内部通報制度が十分に利用されていない原因は,本ガイドラインが示す最後の項目である「内部通報制度の仕組の周知・研修」が果たされていないことにあると言わなくてはなりません。すなわち,内部通報制度を利用する従業員に対してその仕組・内容を十分に周知していないと,内部通報制度が利用されないことは自明であり,また,内部通報制度に関わる通報窓口担当者等が秘密保持義務や通報者に対する解雇・不利益取扱いの禁止を徹底するに足る研修を受けているという安心感がなければ,通報に躊躇するのも自明であるからです。

そのようなことから,先般,私は,内部通報制度構築以来全く内部通報のなかった,ある上場企業において,次に述べるようなケースを用いて,同社の内部通報制度の手続進行フローチャートと内部通報規程の解説を兼ねながら,内部通報制度についての研修を行いました(なお,ご参考までに,本稿の最後に具体的な事例内容をご紹介いたします。)。

【ケース1】
内部通報窓口(内部監査室長)宛てに決裁規程違反行為につき現認者から書面による
通報がなされた事例
【ケース2】
内部通報窓口(内部監査室長)宛てにセクハラ行為につき被害者から面会による
通報がなされた事例
【ケース3】
外部通報窓口(法律事務所)宛てにインサイダー情報漏洩行為につき現認者から電話による
通報がなされた事例

【ケース1】を用いた研修では,内部通報窓口への書面通報という一般的な場合を題材に,内部通報制度の手続進行フローチャートと内部通報規程の各条項を対比しながら,内部通報制度の手続的流れと内部通報窓口担当者や調査従事者の義務等を解説していく方法をとりました。これに対しては,具体的ケースを用いながら,シミュレーションをすることによって,内部通報制度の手続的流れを体験的に学習することができ,また,内部通報規定の各条項が意味するところを具体的にイメージすることができ,内部通報制度の仕組や内容の理解に役立ったとの評価をいただきました。

【ケース2】を用いた研修では,個人のプライバシーへの配慮が必要であるだけではなく,内部通報窓口担当者や調査従事者が内部通報処理の過程で新たなセクハラ行為(いわゆるセカンドセクハラ)をしてしまう可能性もあるセンシティブな内容のケースを用いて,内部通報窓口担当者や調査従事者が注意しなければならない事項を議論しました。これに対しては,面会説明者の意図(通報か相談か,身の安全か加害者の処罰か等)を十分に理解する必要性や,様々な事項への配慮の必要性を理解することができたとの評価をいただきました。

【ケース3】を用いた研修では,外部通報窓口(法律事務所)宛ての電話通報のやり取りをシミュレーションしました。これに対しては,外部通報窓口(法律事務所)宛ての内部通報制度の手続進行と法律事務所を通じることによる通報者の秘匿性の確保を理解することができたとの評価をいただきました。

内部通報制度の導入を決定した時点において,少なくとも経営トップの方々は,内部通報制度は,忌むべき密告制度ではなく,事業者にとって有用な制度であるとの認識を持つに至っていると思いますが,先に述べたとおり,それが十分に利用されていないのは,残念なことであると思います。

本稿で述べたとおり,事業者にとって有用な内部通報制度を効果的に運用するためには,その周知と研修が欠かせません。そして,その周知や研修においては,単なる講義ではなく,本稿において紹介したような具体的ケースを用いた方法によることが望まれると思います。そして,例えば,【ケース1】では同時に決裁規程の説明を,【ケース2】ではセクハラ研修を,【ケース3】ではインサイダー取引規制の研修を兼ねることも可能です。皆様におかれても,内部通報制度を効果的に運用するために,その周知と研修に工夫をされることをお考えくだされば幸いです。

---------- ご参考 ----------

【ケース1】※書面による通報

内部監査室長 殿

営業第1部では,ときどき決裁規程に違反して,決裁権限のない社員が勝手に成約しており,
ゴルフとかで忙しい部長Bは,それを黙認している。問題ではないか。

営業第1部A

【ケース2】※面談による通報

○○課の新入社員Aは,度々,既婚者の上司Bから二人だけの食事に誘われて困っている。最初の頃は,会社ではしにくい仕事の話があるということでつきあったところ,実際に,仕事の役に立つ話をしてくれるし,Aの収入では行けないようなおしゃれなレストランに連れて行ってくれるので,何度かおつきあいしてきた。しかし,途中からは仕事の話はほとんどなくなり,最近は,恋人たちがほとんどであるカウンター席に並んで座って,お酒を飲まされ,Bは,腰とかを触ってきたり,顔をくっつけたりしてきて,まるで交際しているカップルのような態度で接せられるので,Aとしては,もうお誘いをお断りしたい。しかし,おつきあいしているうちにわかったことだが,Bの性格からすると,Aがお誘いを拒否した場合に,どのような仕打ちをされるかもわからない恐怖感があり,もう自分ではどうすることもできない。Aとしては,どうすればいいのかわからなくなっている。

【ケース3】※電話による通報

私は,前回の上方修正の決算発表の直前に,○○部の部長Aが机の上に画面を開いて伏せたままにして置いてあったので,そのままだと充電が切れるのではないかと思って,その携帯電話を閉じようしたところ,たまたま送信メール画面が眼に入ったのですが,その画面には,「当社の決算大幅上方修正」と記載されていました。

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