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第51回 人事異動に関する法律関係

H23.2.10 手塚 祥平
  • はじめに
    当コラム第48回「新年のご挨拶」にてお知らせいたしましたとおり,当事務所は,平成22年12月28日をもって今治事務所を開設し,これに伴い,当職は,神戸事務所から今治事務所に異動いたしました。弁護士となった当初には,自分が転勤になるなどということは考えたこともありませんでしたが,海事関係企業等の集積地である今治の地で執務するというのは,当職自身のキャリアアップのみならず,当事務所の取扱業務のさらなる充実に向けた絶好の契機であると理解しております。

    さて,4月〜3月を一会計年度とする会社を中心に,4月からの人事異動(以下では「配転」といいます。)の準備が進められていることと思います。ちょうど,当職自身も異動となりましたので,本コラムでは,配転に関する法律関係について紹介したいと思います。

  • 配転命令権の範囲
    まず,一般論として,配転は,人材育成手段および雇用調整・事業の統廃合等の手段として,我が国の人事制度の中心的な機能を果たしていると考えられていますが,職種を変更する配転(例えば,看護師職→事務職の変更)については労働者のキャリアに,勤務場所を変更する配転については労働者の家庭生活に,それぞれ大きな影響を及ぼすことから,使用者が,いかなる場合であっても一方的に配転を命じることができるというのは行き過ぎであり,配転命令権の限界をどのように考えるかが問題になります。

    配転命令権の限界を検討するにあたり,その前提として,配転命令権の法的根拠をどのように考えるかも問題となりますが,この点については,個々の労働契約を根拠として,配転命令権は,個々の労働契約で予定された範囲内で行使できると考え,配転命令権の範囲も,個々の労働契約の解釈によるとする見解が通説的見解とされ,判例もこの見解を肯定しています(東亜ペイント事件・最高裁昭和61年7月14日判決等)。

    この見解によると,個々の労働契約の内容が配転命令権の範囲を定めるポイントであり,職種・勤務地限定の合意の有無や,労働契約の構成要素たる就業規則の内容を検討することが必要になります。職種・勤務地限定の合意については,書面化されている必要はなく(逆にいえば,単純に「書面がないから合意はない」ということは困難です。),また,明示的な合意がなくとも,採用過程の経緯等から黙示の合意があったと認定されることもあります(例えば,採用時に,労働者から,家庭の事情から,神戸から通勤可能な範囲でしか勤務できないとの申出があり,使用者がこれを認めて採用したというような場合)。

    一方,就業規則には,「業務上の必要性があるときに配転を命じることがある」というような概括的な規定が設けられていることが多く,そのような規定によれば,使用者側には,広汎な配転命令権が認められることとなりますが,そうはいっても,その範囲は,職種区分の実情,配転条項の趣旨・運用の実情等を踏まえた合理的な範囲内に限定されると考えられています(直源会相模原南病院事件・最高裁平成11年6月11日判決参照)。また,個別の労働契約に就業規則の定めと異なる合意がある場合(または,黙示的な合意があったと認定される場合)には,原則として当該合意が優先されます(労働契約法7条)。

  • 権利濫用論による制約
    次に,理論上,配転命令権の範囲内に属する配転であっても,業務上の配転の必要性・人選の相当性と配転による労働者の不利益の比較,配転手続の妥当性等を判断要素として,配転命令権の濫用とされることがありますので,この観点からの注意も必要です。

    業務上の必要性については,労働力の適正配置・業務の能率増進・労働者の能力開発・勤務意欲の高揚・業務運営の効率化等,広汎に認められており,人選の相当性については,(古めかしい表現ですが)「余人をもっては容易に替え難い」ほどの必要性まではなくとも「企業の合理的運営に寄与する」といえれば足りるとされています。なお,報復・退職強要等の不当な動機・目的による配転であるとして,配転命令権の濫用であり無効とされた裁判例があります。

    労働者の不利益については,資格や長年の従事によって得た技能等を活用できる職種への配置に努めたか,賃金の減少を伴う場合の減少の程度,遠隔地への転勤の場合の家庭生活上の不利益の程度等が問題とされます。特に,単身赴任をもたらす転勤については,家族帯同を可能とする措置(住居の配慮,配偶者の就職あっせん等),健康対策や家族の下への定期的な帰省の配慮等の不利益軽減措置,赴任期間の目処の明示等の,不利益を回避・軽減する措置がどの程度なされているか,が問題となります。

  • まとめ
    使用者側としては,就業規則が広汎な配転命令権を規定していたとしても,その範囲には,個別の労働契約の内容,採用に至る交渉経緯等に基づいて認定される合意等による制約や,権利濫用論による制約があることを認識し,採用段階においては,採用に至る交渉経過の具体的な内容をできるだけ書面化して記録・保管し,具体的な配転の検討段階においては,労働契約の内容や採用に至る交渉経過等を踏まえて当該配転が配転命令権の範囲内に属するかを判断した上で,配転命令権の濫用とされることがないよう,業務上の必要性・労働者の不利益等を考慮し,しかるべき手続を踏み,配転命令を行うことが求められます。

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