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第64回 震災と「二重ローン」

H23.7.6 名倉 大貴
  • 東日本大震災の発生から4ヶ月弱が経過しましたが,依然として,被災者の方々を取り巻く状況は厳しく,被災者の生活再建をどのように実現していくかが大きな課題になっています。被災者の生活再建という視点から,最近大きくクローズアップされている問題が,いわゆる「二重ローン」問題です。

    「二重ローン」問題とは,たとえば住宅ローンを組んで建てた住宅が震災で全壊してしまった場合,新たに住宅を建てようと思えば別途住宅ローンを組まざるをえなくなる一方で,従来の住宅に住めない状態になったからといって従来の住宅ローンが消滅するわけではないため,結果的に,従来の住宅ローンと新たな住宅ローンを「二重に」負担せざるをえなくなるという問題のことを指します。この問題の本質は,自分ではコントロールできない災害によって資産を失った場合でも,被災した資産を取得する際に負担した債務(以下「既存債務」といいます。)が消滅しないことにより,被災者が生活を再建するにあたって,金銭的にはゼロどころかマイナスからの出発になってしまうところにあります。

  • 上記の「二重ローン」問題の解決に向けて,6月に政府・民主党から「二重債務問題への対応方針」(以下「政府方針」といいます。)が発表されました。

    この政府方針においては,大きくI.中小企業及び農林水産業者向け対応,II.個人住宅ローン向け対応,III.金融機関向け対応に分けて,二重ローン問題に対する対応方針が定められています。内容は多岐にわたりますが,特に既存債務をどのように取り扱うかについての概要は,以下のとおりです。

    I.中小企業及び農林水産業向け対応

    (1) 「中小企業基盤整備機構」や民間金融機関が出資する「中小企業再生ファンド」を新たに被災県にも設立し,過剰債務を抱えているが,事業再生の可能性のある中小企業に対し,出資,債権買取り等の支援を実施する。

    (2) 「個人向けの私的整理ガイドライン」を策定し,個人事業者についても破産手続によらない債務整理が円滑に進むような枠組みを設定する。

    (3) (1)の再生可能性を判断するまでの一定期間については,利子負担を軽減する等の手当てを行う。

    II.個人住宅ローン向け対応

    (1) 住宅金融支援機構における既存のローンの返済を猶予する。

    (2) 事業に基づく債務だけでなく,住宅ローン債務者についても,「個人向けの私的整理ガイドライン」を策定する。

    III.金融機関向け対応

    金融機関から資金を借りている個人が,自己破産によらず,私的に債務整理を行った場合の金融機関の債務免除についても,無税償却等が可能となる方策を検討することとし,その一環として,「個人向けの私的整理ガイドライン」を策定する。

  • 上記の政府方針は,個人事業者を含む中小の事業主に再生可能性がある場合に既存債務の負担を緩和する方策が用意されている点や,既存債務について,破産手続によらない債務整理の選択の幅を広げる「個人向けの私的整理ガイドライン」の策定が考慮されている点で評価できるものであると考えられます。

    しかし,政府方針に対しては,

    (1) 被災したという立場は同一であるのに,再生可能かどうかという不明確な要件で債権買取り等の支援を受けられるかどうかが決まるのは不公平ではないか,

    (2) 政府方針においては,「中小企業基盤整備機構」や「中小企業再生ファンド」による債権買取り後の債務免除等については言及されていないが,被災した事業者の救済を重視すれば,一定の範囲での債務免除を義務づけるべきではないか,

    (3) 住宅ローン債務についても,債権買取り及び債務免除等の仕組みを構築すべきではないか,

    (4) 上記のような施策により,主債務者が既存債務から解放されたとしても,当該債務の保証人の保証債務について何ら手当てがなされないのでは,保証人にとって酷な結果となるのではないか,

    等といった指摘もなされているところです。

  • 政府方針が発表された後も,自民党及び公明党の議員から事業者向けローンについての債権買取機構を創設するための法案が作成されるなど,国の政策としても,「二重ローン」問題による被災者の負担をできる限り軽減する方向に動きつつある状況です。被災者の生活再建を考えれば,できる限り被災者の負担が軽くなるような実効的な施策が求められるところですが,金融機関等に与えるインパクトも大きいため,まだ今後の展開が読めない部分もあります。今後の立法動向等を注視していきたいと思います。

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