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第68回 成年後見

H23.9.16 芳田 栄二
  • かつて,財産管理等についての判断能力の不十分な成年者を保護するための制度としては,禁治産,準禁治産の2つの類型が民法上定められており,禁治産は,心神喪失の常況にある者(自己の財産を管理・処分することができない程度に判断能力が欠けている者),準禁治産は,心神耗弱者(自己の財産を管理・処分するには,常に援助が必要である程度の判断能力しかない者)を対象としていました。
    しかし,判断能力の不十分さが心神耗弱に至らない軽度の者は,対象外となっていましたし,禁治産,準禁治産という名称自体が,差別的であり,戸籍にも記載がされていましたので,それらの点が問題視されていました。
    現在,民法の改正等により,以下の成年後見制度が制定され,上記の点にも手当がなされた上,本人の身上監護,本人の意思の尊重等の理念にも配慮がなされています。戸籍への記載も廃止されています。

  • 成年後見制度は,精神上の障害により事理を弁識する能力(事理弁識能力)が欠けていたり,不十分な者を法的に保護し,支えるための制度です。事理弁識能力とは,契約等の法律行為を適切に行うための判断能力で,自己の知識,経験からその法律行為の意味を理解し,取引行為等の法律行為を決定・判断する能力をいいます。
    もちろん,民法の原則として,契約を行うには,意思能力が必要であり,それを欠く者の契約等の法律行為は無効となります。ただ,人の意思能力は,常に一定ではなく,契約等の法律行為を行った際に意思能力を欠いているか否かを後で明らかにすることは非常に困難です。本人の法律上の地位はもちろん,相手方の取引の安全も不安定なものとなってしまいます。
    かつての禁治産,準禁治産制度も同様ですが,事理弁識能力を欠いている者,不十分な者の行った全部または特定の法律行為については,一律に同意を必要としたり,取り消しうるものとして本人を保護しようとしているのです。また,成年後見人等の権限や任意後見契約の内容は登記され,登録事項証明書(登記事項の証明,登記されていないことの証明)の発行により,契約等の法律行為の相手方は,これらを知ることができることにより,取引の安全に対する手当がなされています。

  • 法定後見制度の概要は,以下の【法定後見制度の比較】のとおりです。いずれも,家庭裁判所の審判により開始します。

    【法定後見制度の比較】

      後見 保佐 補助
    対象者 精神上障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分なる者 精神上障害により事理を弁識する能力が不十分なる者
    ※身体障害者や浪費者は含まれない
    申立権者 本人,配偶者,4親等内の親族,検察官,市町村など
    同意が必要な場合   民法13条所定の行為
    Ex:元本の領収または利用,借財または保障,不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為等
    家庭裁判所の審判で,民法13条の範囲内の特定の行為
    取消が可能な行為 日常生活に関する行為以外の行為 同上 同上
    代理権 財産に関するすべての法律行為 申立の範囲内で家庭裁判所が審判で定める特定の法律行為
  • 任意後見

    (1) 任意後見契約は,「委任者が,受任者に対し,精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し,その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約」であり,且つ「任意後見監督人が選任されたときからその効力を生じる旨の定めのある契約」です(任意後見契約に関する法律第2条1号)。
    高齢化等に伴い,判断する能力が衰えてくると,自分では,自分の財産の管理ができなくなる可能性がありますが,任意後見制度は,そうした場合に備えて,予め,財産管理等を依頼しておくための制度です。
    民法上の委任契約の規定では,予め,判断能力を失った場合に備えて委任をすることや,その適正さを監督をすることが困難であったため,任意後見契約に関する法律が制定され,平成12年にスタートしました。

    (2) 任意後見契約の法的性質は,家庭裁判所による任意後見監督人の選任を停止条件として代理権を付与する委任契約であるとされています。

    (3) 任意後見契約は,公正証書によらなければなりません。無効な任意後見契約の出現,改ざんや滅失等を可及的に防止,一般の委任・代理権授与契約と区別するためです。

    (4) 任意後見契約の典型的な利用場面としては,高齢者が,痴呆症状の発症や進行に備えて,予め財産管理等の事務を委託しておく場合が考えられますが,そのほかにも危険な手術に備える場合,精神病の発病に備える場合等が考えられます。

  • このように,後見制度は,判断能力を失う場合に備えて予め自らの意思で後見人を選任する任意後見と法律上の制度として選任される法定後見の2種類により,判断能力が欠けていたり,不十分な者を保護しようとしています。
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