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第73回 営業秘密とその守り方

H23.10.20 名倉 大貴
  • みなさんは,「営業秘密」という言葉を聞いたとき,ご自分の会社のどのような情報を思い浮かべられるでしょうか?
    一般的には,会社独自のノウハウや顧客情報など,会社の外に無条件で漏れてしまうと,会社の利益が害されてしまうような技術・情報というイメージかと思われます。このイメージ自体は全くそのとおりなのですが,いざ第三者がそれらの情報を勝手に取得したり,会社内部の者がそれらの情報を外部に漏らしてしまったりした場合に,会社として損害賠償請求ができるのか,また,そのような行為を行った第三者や会社内部の者の刑事責任を問えるのかということになると,そこにはかなり難しい問題が含まれています。
  • 日本の法律の中で,「営業秘密」という言葉を定義し,その「営業秘密」を侵害された会社等の救済(差止め,損害賠償等)や,「営業秘密」を侵害した者に対する刑事罰等について定めているのは,「不正競争防止法」という法律です。
    この不正競争防止法にいう「営業秘密」とは,「秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないもの」と定義されています(不正競争防止法2条6項)。つまり,「営業秘密」として不正競争防止法によって保護されるためには,(1)秘密として管理されていること(秘密管理性),(2)事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性),(3)公然と知られていないこと(非公知性)の3つの要件が必要であるということになります。
    このうち,(2)の有用性は,「事業活動に役立つ」ということですし,(3)の非公知性は,「一般に知られていない」といったような意味ですので,さきほど述べた一般的なイメージとも概ね一致するものであり,それほど疑問はありません。問題は,(1)の秘密管理性という要件で,「秘密として管理していなければ,秘密として保護しない」と言われても,どうすればよいのかよくわからないというのが正直なところです。
  • 「秘密管理性」の具体的な中身については,不正競争防止法には明確に定められていませんが,裁判例によれば,(1)当該情報にアクセスできる者が制限されていること(アクセス制限),(2)当該情報にアクセスした者にそれが秘密であることを認識できるようにしていること(客観的認識可能性)が必要であるとされています。社内の人間が「これは営業秘密だ」と主観的に思っているだけでは十分ではないわけです。
    そして,経済産業省が公表している営業秘密管理指針(平成22年改訂)およびその参考資料では,上記(1)のアクセス制限や(2)の客観的認識可能性が認められるやすくなるような方法が詳細に記載されています。特に,参考資料の1つである「営業秘密管理チェックシート」を利用すれば,以下の2つの観点から,各企業が「秘密」として認識している情報について,十分な管理がなされているかを得点方式でチェックすることができ,現状を把握したり,望ましい管理体制を構築したりするうえで非常に有用なツールだと考えられます。

    a)  当該情報が社内規程等によって秘密情報として明確に指定されているか,従業員によるアクセス権限の範囲が明確に指定されているか,といった「指定」の観点

    b)  秘密である旨表示されているか,分離保管されているか,持ち出し,複製等についてのルールの設定・運用がなされているか,従業員や取引先に対して秘密保持義務を科するために必要な処置がなされているか,管理の仕組みを定期的に見直す体制ができているか,といった「管理」の観点

  • もちろん,会社として秘密にしておきたい情報をすべて完璧に管理する,というのは,コストがかかりすぎるという側面があるのも確かです。とはいえ,会社にとって虎の子の情報が侵害されてしまった場合に不正競争防止法に基づく具体的な対応がとれないということになれば,経営に大きな影響が生じる可能性もあるため,会社の大小を問わず,「秘密管理性」が認められやすい体制を少しずつでも構築していく必要性は高いといえるでしょう。
    まずは,上記の「営業秘密管理チェックシート」を用いて,自己チェックをするところから始めてみるのもよいかもしれません。
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