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第74回 原子力損害の補償について

H23.11.2 幸寺 覚
  • 東日本大震災に伴う福島原子力発電所の事故の影響は,いまだ深刻なものとなっており,その被害は莫大なものです。その被害の回復が今後どのように進んで行くか等を考えると,不安な要素もありますが,今回は,その補償などのシステムについて,簡単にまとめてみたいと思います。よもや,こんな法律が現実に適用される事態になろうとは,思いもよらなかったのではないでしょうか。しかし,その感覚が危機管理としては問題なのでしょう。
  • 通常,損害を負わせた加害者は,自分に故意,過失がなかったら,不可抗力などを理由に,損害賠償責任を負わないのが原則です。しかし,原子力損害については,原則として,原子力事業者が無過失,無限定に責任を負うものとされています(原子力損害の賠償に関する法律第3条1項本文,但しその損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたときは例外)。そして,そもそも,原子力事業者は,事業を開始する前に原子力損害を賠償するための措置(以下「損害賠償措置」といいます。)を講じないと,原子炉の運転等をしてはならないことになっています(同法6条)。その措置とは,原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約を締結する等して,1事業所あたり1,200億円の賠償措置額は,支払われ得るようにすることです(同法7,10条)。原子力損害補償契約は,保険等では埋めることができない損害を,政府が補償する契約なのです。
  • 今回の原子力発電所事故については,福島第1と2の事業所2つとして考えても,2,400億円を支払うだけの担保しかできていないことになります。しかし,原子力事業者は,生じた原子力損害の全額を賠償する義務を負っており,その賠償措置額を超える損害についても賠償損害賠償義務を負います。原子力事業者が自らの資力では全額を賠償できない事態が生じたときは,損害が填補できないということでは困りますので,その場合は,政府が国会の議決により政府に属せられた権限の範囲内で,原子力事業者に対し原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行うと規定されており,その損害填補には万全を期しているのです(同法16条)。このように,賠償が万全とは言え,最終的には,原子力事業者だけではなく,われわれの税金が投入されることになります。
  • そして,その政府の援助の方法等については,法律で詳しく規定されおり,被害者の方々に対する必要な情報の提供と助言を行う等のために,原子力損害賠償支援機構も設置されました(原子力損害賠償支援機構法,平成23年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律:仮払法)。
  • 以上の補償の規定に基づき具体的には,どのような救済の流れになるのでしょうか。文部科学省は,原子力損害の賠償に関して紛争が生じた場合における和解の仲介及び当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針の策定に係る事務を行わせるため,原子力損害賠償審査会を設置し(同法18条),同審査会は,損害の範囲の判定に関する中間指針を定めました。そして,本来同審査会が,和解の仲介を行うこととなっていますが,大量の案件を扱うことが困難なため,原子力損害賠償紛争解決センター(原賠ADR)が設置されました。一方,東京電力も,損害賠償基準を公表し,補償の受付を開始し始めましたので,今後は,同紛争解決センター等で,東京電力の賠償基準,中間指針及び関係諸法令等との整合性を検討しながら,適切な補償が迅速になされていくことを期待しています。
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