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第76回 裁判員裁判の合憲性

H23.11.22 西川 精一

本コラムでも何度か取り上げた裁判員裁判ですが,平成23年11月16日に,最高裁判所大法廷において,その合憲性を認める判断がなされましたので,その概要をご紹介します。

  • 憲法は,一般的に国民の司法参加を許容しているか。
    憲法には国民の司法参加を認める旨の規定が置かれていない。しかし,明文の規定が置かれていないことが,直ちに国民の司法参加の禁止を意味するものではない。憲法上,刑事裁判に国民の司法参加が許容されているか否かという問題は,憲法が採用する(1)基本原理,(2)憲法制定の経緯及び(3)憲法の関連規定の文理を総合的に検討して判断すべき。

    (1) 刑事裁判は,人の生命すら奪うことのある強大な国権の行使である。よって,憲法は,適正な刑事裁判を実現するための諸原則を定めており,そのほとんどは,普遍的な原理ともいうべきものである。そして,これらを実現するためには高度の法的専門性が要求される。よって,憲法は,刑事裁判の基本的な担い手として裁判官を想定している。

    (2) 他方,歴史的,国際的な視点から見ると,憲法制定当時,欧米では,民主主義の発展に伴い,国民が直接司法に参加することによりその正統性を確保しようとする流れが広がっており,欧米の民主主義国家の多くにおいて陪審制か参審制が採用されていた。憲法の制定に際して,我が国においても停止中とはいえ現に陪審制が存在していた。

    (3) 憲法の制定において,旧憲法の「裁判官による裁判」が,「裁判所における裁判」へと表現が改められた。また,憲法は,最高裁判所と異なり,下級裁判所については,裁判官のみで構成される旨を明示した規定を置いていない。

    憲法は,一般的には国民の司法参加を許容しており,これを採用する場合には,上記の諸原則が確保されている限り,陪審制とするか参審制とするかを含め,その内容を立法政策に委ねている。

  • 憲法が,一般的には国民の司法参加を許容しているとしても,具体的に設けられた制度が,(1)の「適正な刑事裁判」を実現するための諸原則や他の憲法規定に抵触していないか。

    (1) 裁判官と国民とにより構成される裁判体が,刑事裁判に関する様々な憲法上の要請に適合した裁判所といい得るものであるか。

    →  裁判員の選任については,くじや解任制度等によって,選任の公平性や適格性が確保されるよう配慮されている。
    また,裁判員の権限は,裁判官と共に公判廷で審理に臨み,評議において事実認定,法令の適用及び有罪の場合の刑の量定について意見を述べ,評決を行うことであるが,これらは,必ずしもあらかじめ法律的な知識,経験を有することが不可欠な事項であるとはいえない。
    さらに,裁判長は,裁判員がその職責を十分に果たすことができるように配慮しなければならないとされていることも考慮すると,上記のような権限を付与された裁判員が,様々な視点や感覚を反映させつつ,裁判官との協議を通じて良識ある結論に達することは,十分期待することができる。

    (2) 裁判員制度の下では,裁判官は,裁判員の判断に影響,拘束されることになるから,同制度は,裁判官の職権行使の独立を保障した憲法規定に違反するのではないか。

    →  国民が参加した場合であっても,裁判官の多数意見と同じ結論が常に確保されなければならないということであれば,国民の司法参加を認める意義の重要な部分が没却されることにもなりかねず,憲法が国民の司法参加を許容している以上,裁判体の構成員である裁判官の多数意見が常に裁判の結論でなければならないとは解されない。

    (3) 裁判員制度は,裁判員となる国民に憲法上の根拠のない負担を課すものであるから,意に反する苦役に服させることを禁じた憲法規定に違反するのではないか。

    →  裁判員の職務等は,司法権の行使に対する国民の参加という点で参政権と同様の権限を国民に付与するものである。また,個々人の事情を踏まえて,裁判員の職務等を行うことにより自己又は第三者に身体上,精神上又は経済上の重大な不利益が生ずると認めるに足りる相当な理由がある場合には辞退を認めるなど,辞退に関し柔軟な制度を設けている。さらに,旅費,日当等の支給により負担を軽減するための経済的措置が講じられている。

    よって,現在の裁判員制度は,「適正な刑事裁判」を実現するための諸原則や他の憲法規定に抵触するものではない。

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