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第81回 企業の危機対応と弁護士が提供できる専門的サービス

H24.2.2 上谷 佳宏

私は,昨年11月30日,日本CSR普及協会の2011年度第2回研修セミナーにおいて,「食品事故ケースにみる危機管理の実務〜会社の対応のポイントと弁護士が支援できること〜」というテーマで,竹内朗弁護士,株式会社マコル代表コンサルタント笹本雄司郎氏および水沼太郎弁護士とともに,パネルディスカッションを行いました。

これは,同協会のCSR専門委員研究会内部統制チームにおいて,いわゆる不祥事等が発生したときの危機対応の巧拙が企業の存亡をも左右する状況にあるにもかかわらず,CSRに立脚した本質的な指導・支援が企業経営に行き渡っていないことから,企業が無駄な失敗を繰り返しているのではないかとの背景認識のもとに,危機対応の進め方と注意点を企業と弁護士とが共有したうえで、弁護士の専門性や客観性を活かして,より効果的に危機対応を進める方法を研究することとし,約1年間にわたる研究を経て,その成果をパネルディスカッションの形で報告したものです。

もちろん,危機対応については,不祥事等が発生しないようコンプライアンス体制やリスク管理体制を中核とする内部統制システムを整備する等の事前対応が重要なことは論を待ちません。しかし,いったん発生した後の危機対応に失敗して二次被害を発生させてしまう例も多いことから,まずは,危機対応について研究することにしたものです。ただし,危機対応は,危機の到来をきっかけに,その発生原因を調査し,再発防止策を策定するとともに,より積極的に当該企業の内部統制システムの整備を図ることにより,再度の危機到来を予防するだけでなく,企業価値を高める効果もあるという認識を持つことが重要です。

ところで,企業の危機対応は,現在進行形であり,かつ,形式的な法律論だけでは処理しきれない部分を含む内容のものです。このことから,過去の事案を静態的に解決する訴訟と法律論の提供を中心とした従来型の弁護士像を前提とすると,弁護士の世界においても,危機対応は,弁護士が扱うより危機対応コンサルタント等が扱う方が適切であるように思われていました。

しかし,上記研究チームは,危機対応の牽引・指導は,(1)法律をベースとしたコーチングであり,弁護士の本来業務である。しかし,(2)法律をベースとした責任論だけではなく,CSRや企業価値向上の視点が不可欠である。そして,(3)腹を決めて堂々と社会に向き合うよう,効率的な「お膳立て」と粘り強い「伴走」を通じて役員・幹部を支えることにある。また,(4)危機対応の失敗の多くは,初動・準備段階の詰めの甘さに原因があり,それを充実・強化しない限り,表面的な対応技術だけでは成功しないとの認識のもとに,弁護士が提供できる(提供すべき)企業の危機対応に係るサービスの研究を行ってきました。

パネルディスカッションにおいては,以下の個別テーマについて,企業の実務,よくある失敗例と防止策,弁護士が支援できることの三つの観点からの検討を行いました。そして,各テーマごとに,印象に残るようなキャッチコピー的表現で,ポイントとなる事項をまとめました。

(1) 危機発生時に経営層がその情報をどのようにつかむか。
(2) 初動調査は,いつどのように行うか。
(3) 経営者は,いつどのように対応方針を決定するか。
(4) 公表の要否をどのように見極めるか。
(5) 市場回収等のコスト負担を株主らに正当化できるか。
(6) 想定問答をどのように作成するか。
(7) 記者会見ですべきこと,してはならないことは。
(8) 各種ステークホルダーへの対応と順序は。
(9) 組織的な原因究明・再発防止と処分をどのように行うか。
(10) 第三者委員会は,どのような時に設置するか。

この研究を通じて,私は,企業の危機対応に際し,最も適したサービスを提供することができる職能を有するのは弁護士であるということを再認識すると同時に,残念ながら,弁護士は,職域全体として,その職能を十分に生かし切るだけの人材を有していないということを感じました。しかし,まだ一部の弁護士ではありますが,これにこたえるだけの能力と見識を備えている弁護士がいることも確認することができました。今後,これらの先進的弁護士を中心に,企業活動の実態に対する認識をより深め,法律的観点だけではなくCSRの観点も視野に入れた総合的観点から,社会から信頼される適切かつ迅速な対応ができる弁護士群を育成していく必要があると切に感じた次第です。

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