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第83回 人身保護請求とオセロ中島さん

H24.2.29 幸寺 覚
  • 最近,賃料滞納,占い師さんとの同居,などと報道され,話題に登っているオセロ中島さんの事件で人身保護請求が話題になっていますので,そのあたりを少しお話ししてみたいと思います。

  • 人身保護請求とは,本来法律上正当な手続によらないで,身体の自由を拘束されている者を保護しようとする制度です。よくあるのは,離婚を前提に,別居中の夫婦で,夫が,妻が養育している子供を勝手に学校の帰りに連れて帰ると言うようなケースです。

    私も,過去,こんな事件を担当したことがあります。事件は,赤ちゃん(8ヶ月)のお母さんから,実際に赤ちゃんを育てているお母さんの母(赤ちゃんのおばあちゃん)とお母さんの姉等に対して,赤ちゃんを引き渡せとする人身保護請求事件です。私は,訴えられた親族の代理人となりました。こちらの親族の主張は,お母さんが子育てを放棄したので,自分たちが赤ちゃんを育てているというものでした。

    申立てから決定まで,裁判所で2回事情を聞く審問という手続きがありました。赤ちゃんにも国選の代理人という弁護士が付いて調査を行い,裁判所へ赤ちゃんの状況等を調査報告書にして提出します。関係者の尋問を経て,スピード審理で1ケ月半での決定となりました。決定が出る日は,裁判所から予め赤ちゃんを裁判所へ連れてくるよう人身保護命令が出ますので,この命令に従って赤ちゃんを裁判所へ連れて行きます。命令に従わなければ,勾引されたり過料に処せられたりするので,強制力があります。年も押し迫った12月暮れで寒い日でしたので,赤ちゃんが風邪を引かないように毛布にくるんで裁判所へ連れて行き,裁判所の職員に託しました。預けた親族は,それなりの覚悟はしていたのかもしれません。

    いよいよ裁判所の決定です,「被拘束者を釈放し,請求者に引き渡す」と裁判長の朗読で結論が出ました。お母さんは,そのまま裁判所の職員の案内で裏出口から退廷していきました。裁判所が預っている赤ちゃんのもとへ行ったのでしょう。上訴しなかったので,これで裁判は確定しました。審理開始から約1ケ月半後に決定が出て,実のお母さんのところに赤ちゃんは引き取られて行きました。

    皆さんが時間がかかると思われる裁判で,かなりスピーディに決定が出たのですが,人身保護請求は,事の重大性ゆえ裁判は早く進めるようになっています。

  • さて,オセロ中島さんの場合は,立派な大人ですから,2で述べたような赤ちゃんや子供に対し通常利用されている人身保護請求とは,少し問題点等が違ってくると思われます。そもそも請求権の実体的要件としては,「身体の自由」が拘束されていることが必要ですが,仮に報道されていることが事実であるとすれば,占い師側は,中島さんには意思能力があり自分の判断で一緒に生活しているので,拘束されていない等と反論するのではないかと思われます。客観的な事実として,部屋に鍵が掛けられている,親から連絡を取ろうとしても本人に連絡を取り次がない等の事情があれば,それを立証しながら拘束されている事実を証明していくことになろうと思われます。その他,占い師側は,思想及び良心の自由,信教の自由等を根拠に拘束がないことや緊急性が無いこと等を反論するでしょう。結局,最終的な問題は,彼女が,その占い師にマインドコントロールされていることを如何に間接的にでも証明していけるかということです。人身保護請求を申立てする側には,直接的な証拠があまりなく,かなり立証が難しいことになるでしょう。法廷では,中島さん本人に出廷してもらい供述してもらう,又占い師を出廷させ裁判所で証言させる,さらに申立をした親族が拘束されている実態を裁判所へ報告するなどの方法で,その問題点を指摘し,裁判所に理解してもらえるよう努めることになります。実際テレビ等の報道では,昨年の秋に中島さんのお母さんが,占い師に対し,引渡しを求め裁判所に人身保護請求をして,一度は認められ解放されたが,再び中島さんは占い師の所に戻ったということのようです。引渡しの決定が出たとすれば,中島さんの身体の自由が拘束されていることが認められたのだと思いますが,最終的な解決は,事実上解放されるだけではなく,正にマインドコントロールから解放されることを待たねばならないのです。

    その他,特殊な宗教に入信して帰って来ない親族を助ける手段としても,この方法を利用することがあります。大人が拘束されている事件に利用するのは,赤ちゃんの場合と違いなかなか難しいものです。

  • いずれにしても,人身保護請求の事件は,事案自体深刻であり悩ましい問題を多くかかえています。私の依頼者は,赤ちゃんを実母に渡すことになったものの,赤ちゃんの幸せを望んでいたことは間違いなく,そのため自分達で赤ちゃんを育てる覚悟でそれまで育てていたのです。私も,この事件で結果的には依頼者の希望は届かなかったものの,その後赤ちゃんが母の下で幸せに暮らしているであろうか,親子や姉妹の関係は修復したのであろうかと思いを巡らせているところです。

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