ホーム > コラム > 一般民事法 > その他一般民事 > 第93回 遺失物法

コラム

コラム

第93回 遺失物法

H24.6.11 木下 卓男

難しい法律の名前は知らなくても、誰もがその内容を知っているという法律が結構あります。今回お話しする遺失物法は、もともとは民法の特別法なのですが、「拾った物は交番に届けましょう」、「持ち主が現れないときは、拾った人の物になります」、「拾ったら1割もらえます」という内容は、近所の小学生の間では常識です。もっとも、私自身は、交番に届けたら、おまわりさんから1割もらえるものと勘違いしていましたが・・・

まず、「交番に届けましょう」は、遺失物法4条1項が定めているところですが、拾得物を「神様からのプレゼント」とか言ってネコババすると、遺失物横領罪(刑法254条)等の処罰対象となる可能性がありますので、お子さんには要注意です。

次に、「持ち主が現れないとき」には、民法240条によって、公告後3か月以内に所有者が判明しないときには、拾得者がその所有権を取得することになります。昔は保管期間が6か月でしたが、平成18年の改正で3か月に短縮されました。ただし、携帯電話やカード類などの個人情報が入った物については、落とし主が見つからない場合でも、拾得者に所有権は移転しないこととされています(遺失物法35条)。

最後の「拾ったら1割」というのは、正確には同法28条1項の「物件の返還を受ける遺失者は、当該物件の価格の100の5以上100分の20以下に相当する額の報労金を拾得者に支払わなければならない」という規定ですが、5%と20%の間をとって、一般に「拾ったら1割」と言われています。ただ、実際にすべての場合に1割とか2割とかもらえるかというと、そうではなくて、事案ごとに、拾得・届出の難易、遺失物の価値や種類などの諸般の事情を具体的に考慮して判断されています。

以前から問題が多いのは、報労金の割合ではなく、むしろ「当該物件の価格」の点で、手形・小切手などの有価証券や預金通帳などでは、額面額そのものが基準となるのではなくて、遺失後第三者の手にわたることによって遺失者が損害を受けるようになる危険の程度を標準として決められています。例えば、株券については相場価格の7割、手形では額面金額の3分の1、小切手では額面の2%など、判例上も「当該物件の価格」の判断は、バラバラです。

何年か前に、合計1,700万円以上の通帳と印鑑が入ったバッグを拾得して警察に届け出た人が名乗り出た持ち主に対して報労金255万円(つまり預金額の約15%)の支払を求める訴訟を起こしたというニュースがありましたが、有価証券と違って、通帳・印鑑自体は、仮に善意の第三者の手にわたったとしても、それだけで預金の引出しができるわけではありませんので、実際にその価格を決めるのには難しい問題があります。

余談ですが、民事上の請求権というのは、大きく分けて契約上のもの(例えば売買代金とか賃料とか)と、それ以外のものに分けられていて、契約以外の請求権としては、交通事故の賠償金であるとか、不当利得の返還請求などがありますが、遺失物法の報労金というのは、かなり特殊な請求権です。似た制度としては、民法上の事務管理、例えば長期旅行中の隣家の屋根が台風で飛んだので、代わりに大工さんに頼んで直してもらって、立て替えて支払った請負代金を請求するといった場合がありますが、この場合でも、支払った請負代金のほかに直ちに謝礼を請求できるわけではありません。

他方で、遺失物拾得の届出については、どちらかというと、一人一人の善意や遵法意識(実際には「後ろめたさ」)に支えられてきたという面があり、上記の報労金請求の事案についても、国民の「美徳」を「報労金」という法律の枠に当てはめることで、「何も裁判まで起こさなくても」という素朴な疑問があるからこそ、ニュースとして取り上げられたのではないかと思います。小学生にもメジャーな法律でありながら、実は、法と道徳の関係という深遠なテーマについて考えさせられる問題です。皆さんも、道でお金を拾ったら、一度考えてみてください。

このページの先頭へ