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第96回 壁の中に数千万円

H24.7.5 林 智子

2012年5月31日,アリゾナ州の控訴裁判所において,壁の中に隠されていた50万米ドルもの現金の行方について,ある判決が下されました。報道によりますと,事案は,次のとおりです。
ある男性Aが2001年に亡くなり,相続人Yらは,A宅にあった現金,株等を相続し,自宅建物自体は,第三者Xに売却しました。7年後,買主であるXが,その建物をリフォームする際,キッチンとバスルームの間にある壁から,缶に入った現金50万米ドルを発見したため,Yらに対して,当該現金が自分のものであると主張しました。
これに対して,アリゾナ州の控訴裁判所は,「現金50万米ドルは,相続人Yらのものだ」という判決を下しました。その理由は,当該現金は,被相続人Aが取り忘れていただけで,棄てるつもりはなかったであろう,したがって,いまだ被相続人Aの財産だ,ということです。

日本で同じ事件が起こった場合(仮に,50万米ドルではなく,4,000万円とします。),日本の法律ではどのように整理されるでしょうか。壁の中に残された金銭が誰のものかということは,「所有権」の問題であり,「所有権」については,主に民法で規定されています。今回の争点は,当該現金の所有権が被相続人Aに認められるか否かという点にあります。Aに所有権が認められれば,4,000万円は,Aの死亡により,相続人Yらのものになります。

まず,Aがこの4,000万円を棄てる(所有権を放棄する)つもりで,壁の中に埋め込んだ場合,4,000万円は誰のものでもなくなったのですから,これは,最初に発見したXのものになります(これを「無主物先占」といいます。民法239条)。

つぎに,Aがこの4,000万円を簡単には見つけられないところに隠したため,その所有権が(相続などにより)誰かに帰属している可能性はあるが,現在,誰に属するのかわからない場合(これを「埋蔵物発見」といいます。民法241条),遺失物法にしたがって,届出をして,6か月以内に現在の所有者が判明しないときに,Xが4,000万円の所有権を取得することになります(遺失物法については,本コラム第93回「遺失物法」by木下卓男弁護士をご参照ください。http://www.higashimachi.jp/column/column93.html)。

なお,本件では,建物の壁に4,000万円が埋め込まれているのですから,現金は,建物と一体化した(これを「不動産の附合」といいます。民法242条本文)として,不動産の所有者に帰属する,すなわち,現在,建物の所有者はXですので,Xのものになるとも考えられます。しかし,「附合」が認められるためには,建物と現金を容易に分離できないような状態(または分離は可能でも,不経済等という状態)となる必要がありますが,本件では,現金は缶に入れられ,容易に分離可能だったと思いますので,附合は認められないでしょう。

本件に関する詳細な事実関係は不明ですが,本件では,Aが自宅のキッチンとバスルームの間の壁の中に,現金を缶にいれて埋めているという事情から考えて,おそらく,Aは,4,000万円を棄てる(所有権を放棄する)つもりはなく,むしろ隠しておくつもりだったのではないかと考えるのが自然だと推測されます。したがって,Xが「無主物先占」をすることにはなりません。
また,本件では,当該現金が,現在誰の所有に属するのかわからないといった事情はありませんので,「埋蔵金発見」ということにもならないでしょう。
以上のことから,4,000万円はいまだAの財産であり,これを相続人Yらが相続することになるのであろうと思われます。

被相続人の不動産を売却する際には,壁の中にお金が隠されていないかチェックしてから売却したいものです。

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