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第99回 船舶引揚げ(withdrawal)に関する英国法上の問題点
‐Reed Smith法律事務所セミナー(5月7日今治)より

H24.7.24 田中 庸介
  • 本年5月7日、愛媛県・弊所今治事務所にて、ロンドンのReed Smith法律事務所の弁護士Richard Gunn氏と、William Howard氏によるセミナーが開催され、定期傭船者の傭船料の不払いを根拠とする船舶の引揚げ(withdrawal)について、英国法上の問題点が講演されましたので、以下のとおり、要約いたします。なお、文責は、執筆者にあることを申し添えます。

  • まず、第一に、傭船料の不払いを根拠とする船舶の引揚げは、傭船契約に規定された船主の権利である、という点に着目すべきでしょう。ですので、契約に引揚げ(withdraw)に関する規定があれば、そこに規定された要件が満たされれば、そこに規定された手順に従い、引揚げが行われる、ということになります。

    NYPEフォームの1946年版では、印刷文言の「第5条」に、上記の規定があります。但し、この文言が削除されているような場合には、そのような規定がないものとして扱われることになる点に、注意が必要です。

  • 次に、傭船者の傭船料の支払義務は、英国法上、厳格に解されており、支払期日に全額の支払いがなければ、引揚げを行うことができます。すなわち、傭船者は、期日に100%の金額を支払うことが必要であり、それは、支払期日までに船主が傭船料の全額を使用できる状態に置く必要があり、例え、傭船者に落ち度はなく、その取引銀行のミスで、船主の下に全額が至らなかった場合には、船主は、本船の引揚げに及ぶことが可能です。

  • 以上のとおり、傭船料の支払義務が厳格なものとされているため、実務上は、その義務を緩和するための特約が設けられる場合が多くあります。すなわち、支払期日後であっても、3日ないし5日間、傭船者に猶予を与える特約であって、「Anti Technical Clause」ないし「Grace Period」の規定と呼ばれています。例えば、NYPEフォームの「第11条(b)」では、印刷文言として、そのような規定が設けられており、契約当事者は、猶予期間の日数を挿入する方式が取られています。

  • もっとも、船主が上記の猶予期間の規定に従い本船の引揚げを行おうとする場合は、日数の算定が重要でしょう。すなわち、多くの規定では、傭船者が遅滞に陥った場合でも、そのままで引揚げがなしうるものではなく、船主は、傭船者に対して、引揚げをなす旨の通知を行う必要があり、また、その猶予期間についても、「clear banking days」と定められている点に、注意が必要です。

    従って、例えば、6月4日(月曜日)が支払期日であり、傭船者がこれを徒過した場合には、船主は、6月5日(火曜日)になって初めて、上記の引揚通知をなすべきこととなります。支払期日は完全に1日間、傭船者の支払いを待つべきものといえるからです。

    また、猶予期間が「3 clear banking days」と定められている場合には、引揚通知を出した5日(火曜日)自体は、通知の後完全な1日間の猶予を付与できませんので、次の6日(水曜日)を1日目と数えて、6日(水曜日)、7日(木曜日)、及び、8日(金曜日)のフルの3日間の猶予を付与して、9日の「00時00分01秒」に初めて、本船の引揚げが可能、と考える方が無難といえます。なぜならば、船主が契約に従わずに本船を引揚げた場合には、逆に、「不当な引揚げ」と認定されて損害賠償義務を負わされかねないからです。

    さらに、上記の日にちや時刻のカウントについては、傭船契約において傭船料の支払場所として定められた地が基準とされるべきものといえます。

    また、上記の引揚げの手続きは、支払期日の経過後直ちに、一般的には48時間以内に、開始されるべきものといえます。なぜならば、期日が過ぎてもしばらく何も通知しない船主については、引揚げの権限を放棄したものと認定されかねないからです。

  • 他方、上記のように、約定に従って引揚げを行った場合であっても、船主は傭船者に対して、「得べかりし利益」等の損害賠償を請求することは、一般に、できないものとされている点に留意すべきでしょう。上記のとおり、本船の引揚げは、契約に規定された条項に従った権利を行使するだけのことであって、損害賠償請求は、別の問題とされているからです。

    もっとも、傭船者において、今後も傭船料を支払わないことを明示する意思表示があったもの、すなわち、「repudiation(履行拒絶)」があったものと認められた場合には、船主の損害賠償請求権が肯定されます。

    しかしながら、1回や2回程度の不払いでは、repudiationは認定されないでしょう。少なくとも、6回程度の不払いが連続することが必要であり、さらに、傭船者の不払いの意思が明確であることが必要でしょう。

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