ホーム > コラム > 一般民事法 > 親族・相続 > 親子関係不存在確認の訴えに関する一事例

コラム

東町トピックス

親子関係不存在確認の訴えに関する一事例

H21.9.24 福元 隆久
  • 本年7月24日の日経新聞朝刊に,シベリア抑留者に関する最大76万人分の新資料が発見されたとの記事が掲載されましたが,私が担当した事件で,シベリア抑留者が関係する事件がありますので紹介させていただきます。
  • 事案の概要は,次の通りです。
    Xさんは,1951年に中国瀋陽市で中国人父Aと日本人母Bの子として出生しました。Bは日本人Yと結婚し旧満州に渡って生活していましたが,Yが終戦後旧ソ連に抑留され,その後一人残されたBは,1949年にAと結婚しXさんが出生したものです。
    Xさんは,中国残留婦人Bの家族として1992年に来日し,神戸で生活していましたが,日本に帰化申請したところ,旧ソ連に抑留され行方が分からなかったYが実は日本に帰国しており日本で1957年に死亡していたことが判明しました。
    Xさんは,法務局から,民法772条に基づきYの嫡出子として推定されるので,これが否定されなければXさんが中国人Aの子であることが認められず,Aの子として帰化が認められないと言われ,私が事件処理を担当することになったものです。
  • 民法772条1項は「妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する」と規定し,本件の場合,BとYとは離婚していませんから婚姻関係が継続しておりBの子であるXさんがYの嫡出子として推定されてしまう訳です。この推定は非常に厳格で,推定を争うためには,原則として嫡出否認の訴え(民法775条)を提起しなければならず(嫡出否認の訴えは,夫側からしか訴え提起ができず,また,出訴期間も1年間に限定される),例外的に,夫が受刑服役していたり,生死不明であるなど婚姻中に生まれた子どもであってもそれが夫の子であり得ないことが外観上明白な事情がある場合に,親子関係不存在確認の訴えを提起できるとされています。
    本件では,Xさんが生まれたときには,Yは旧ソ連に抑留されていたということですから,これが証明できれば,親子関係不存在確認の訴えによりXさんがYの嫡出子ではないことが認められることになります。
    私は,Yが旧ソ連に抑留されていたという事実をどうやって立証するのか頭を悩ませたのですが,いろいろと調べたところ,抑留者名簿がロシア政府提供資料として厚生労働省社会・援護局業務課にて,終戦後の旧満州からの引揚者の記録が厚生労働省社会・援護局援護企画課中国孤児等対策室にて保管されていることが分かりました。そこで,裁判所の調査嘱託手続により,これらの記録の中にYの記録が残されているか調査したところ,Yの記録が残っており,親子関係不存在確認の訴えによりXさんがYの嫡出子ではないことが認められ,Xさんの帰化申請も認められました。
  • 後日,Xさんからは非常に感謝され,私も良い仕事ができたと嬉しく感じた事件でした。冒頭新聞記事では,新たに抑留者の記録が発見されたとのことであり,これによってより多くの方の事実関係が明確になることを期待します。
このページの先頭へ