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動産売買先取特権の物上代位に基づく債権差押

H21.12.4 小野 法隆

「動産売買先取特権の物上代位に基づく債権差押」とは,或るメーカーAが,商社Bに「甲」という商品を売却し,Bが,当該商品「甲」をCに転売するという事案において,Bが破産手続等に入った場合,動産売買の先取特権(民法第311条第5号)に基づく物上代位(民法第304条第1項)により,Aが,BのC社に対する転売代金債権を差し押さえ,AのBに対する売買代金債権を回収するというものです。最近のNBLに,「動産売買先取特権の物上代位に基づく債権差押手続の実務」との記事が連載されていたことから(NBLNo.915(2009.10.15)の18頁以降),今回のトピックとしてとりあげました。

顧問先の皆様等からのご相談を日頃受けていて,「動産売買先取特権の物上代位に基づく債権差押」については,一般的に知られている抵当権等の担保権とは異なり,その存在自体を知らない方,名称は聞いたことがあるが実際にどのように実行すれば良いのかわからないという方が多いのではないか,との印象を持っております。

この「動産売買先取特権の物上代位に基づく債権差押」という手続については,(1)抵当権設定契約その他特段の設定契約関係がなくとも,法律の要件を充たせば当該差押を実行できること,(2)第三債務者(上記の例で言えばC社)が支払う前であれば,売掛先が破産手続等に入った後であっても実行可能であること,という点が特徴的であるといえ,抵当権等の担保を取っていない売掛先が破産手続等に入った場合に残された,実効的な債権回収方法の一つであるといえます。

実際にかかる差押を実行するためには,上記の具体例に則していえば,(1)商品「甲」について,AB間で売買がなされた事実(売買の事実),(2)商品「甲」について,BC間で転売がなされた事実(転売の事実),(3)前記(1)の商品「甲」と前記(2)の商品「甲」とが「同一」であること(商品の同一性)を証明する必要があります。

以上のとおり,証明すべき内容を言葉でまとめてしまえば簡単なのですが,実際に,これらの事実を証明することは,容易ではありません。まず,商品直送事案でもない限り,BC間の転売の事実を証明する書類について,Aが保有していることは通常ありませんので,Cに協力を求め,Cから入手する必要があります。また,入手すべき書類も,AB間の売買,BC間の転売の双方について,取引基本契約書,見積書,注文書,注文請書,出荷依頼書,運送会社の荷受票,納品書,受領書,請求書等,多岐にわたりますし,仮に,各書類が欠けている場合,各書類に誤記・不明確な表現等がある場合には,上申書,陳述書等により,その部分を補完しなければなりません。

実際に当事務所において担当した事案ですが,この事案は,特殊機械の売買に関連するもので,一般的な呼称(呼び方)が確立されておらず,AB間での呼称とBC間での呼称が異なっていたため,AB間の売買の関係書類における当該特殊機械の表示とBC間の転売の関係書類における当該特殊機械の表示とが,一部は重なっているものの,微妙に異なる内容となっておりました。かかる事案においては,担当者の方からのヒアリングの結果,かかる特殊機械の「取扱説明書」に,前記「AB間での呼称」と「BC間での呼称」の双方が記載されていることが判明しましたので,通常は「動産売買先取特権の物上代位に基づく債権差押」において証拠として提出することのない取扱説明書を裁判所に証拠として提出するとともに,上申書にて補充説明を実施し,その結果,ようやく商品の同一性についての疎明に成功いたしました。

また,別の事案ですが,AC間で商品が直送されていたのですが,Cが商品を受領したことを証明する受領書のCの担当者欄に,なぐり書きで「タナカ」との記載があり,また,その「タナカ」なる人物が,Cの物流業務を受託していた物流会社の社員であり,Cの社員ではないという事案がありました。この事案では,一定程度Cの協力を得ることができたため,Cと物流会社との契約および「タナカ」氏の名刺を証拠として提出し,Cが商品を受領した事実の疎明に成功いたしました。

以上のとおりですので,差押の実行には相当な困難が伴いますが,上記のとおり,仮に,事前の債権保全策を何もとっていなかった取引先が破産手続等に入ってしまった場合であっても,「動産売買先取特権の物上代位に基づく債権差押」を検討した結果,あきらめていた売掛債権を回収できる場合もありえますので,取引先からの債権回収が問題となった場合には,当該差押の可否について,是非とも検討していただきたく存じます。

また,取引基本契約等において期限の利益喪失条項を規定しておく,商品の同一性立証のために,注文書等の各種書類にロット番号,品番等を記載するようにする,第三債務者との取引について調査し,協力を得られる相手である場合には日頃から接触をしておく等,「動産売買先取特権の物上代位に基づく債権差押」を念頭に債権管理の点から平常時において準備しておくべき点もありますので,ご相談いただければと存じます。

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