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1年を迎える裁判員裁判

H22.4.5 西川 精一

平成21年5月に裁判員裁判が始まり,まもなく1年を迎えようとしています。開始当初のマスコミの熱はすっかりどこかへ行ってしまいましたが,兵庫県内で裁判員候補者名簿に登載される確率は約1/400,呼出状により裁判所に呼び出される確率は約1/600,最終的に裁判員又は補充裁判員となる確率は約1/4900とされており,顧問先の皆様におかれましても,そろそろ実例が出てきているころと思われます。さて,このような場合に,企業・団体として,従業員・構成員の方々を送り出す準備は万全でしょうか。

  • 労働基準法第7条は「使用者は,労働者が労働時間中に,選挙権その他公民としての権利を行使し,又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては,拒んではならない。」と規定しており,使用者が,労働者の裁判員(候補者)としての出頭を拒むことはできません。

    そして,このために労働者が何日も欠勤することになった場合にも,これを理由に解雇したり,不利益な扱いをしてはなりません。これは,辞退事由があるにもかかわらず,労働者が裁判所に辞退を申し出ずに裁判員となった場合でも同様です。
  • しかし,欠勤という事実は残りますので,有給休暇を使う場合以外,日給や月給制の企業が欠勤日数に応じて賃金を減額することまでは禁止されません。つまり,裁判員となった従業員は「無給休暇をとる権利」があるにすぎないのです。

    また,皆勤手当を支給する企業において皆勤手当の不支給事由とすることも禁止されません。さらに,欠勤の存在をボーナスの減額要因とすることも直ちに禁止されるわけではありません。

  • これでは,有給休暇の使用を事実上強制されるという側面は否定できません。また,裁判所から支給される日当では賃金の減額分をまかなえない場合もあり,そうでなくとも長期の審理を要する事件の担当になれば年次有給休暇ではカバーしきれません。

    そこで,裁判所は,各企業・団体に対し,裁判員特別有給休暇制度の創設を要請しています。かかる制度を整備することは法律上の義務ではありませんが,マンダム,トヨタをはじめとするメーカーのほか,金融業界において,同制度を創設した旨の広報が目立っています。このような流れは近時のCSR重視の潮流に沿ったものといえるでしょう。

    同制度を創設する目的は,おおむね「国民の義務および社会貢献の観点から,従業員らが司法参加できる環境を整備すること」とされ,その内容は,「年次有給休暇とは別枠の特別有給休暇とし,日数に上限を設けない」というもので,対象を正社員だけでなく嘱託社員やパート労働者にも及ぼす例も多く見られます。

    なお,このように給与を保障されながら,8000円〜1万円の日当も受領するという点をどのように調整するかという問題は残ります。この点については,

    a)特に調整せず通常の年次有給休暇と同様に扱う方法
    b)日当との個別調整はしないが通常の年次有給休暇よりは支給額を抑える方法
    c)年次有給休暇による支給額より日当の額が低ければその差額を支払うと定める方法

    など,いずれでも問題はありませんが,年次有給休暇による支給額より日当の額が高い場合にその差額の返還を求めることはできません。

    また,日給や月給の保障とは別に,皆勤手当やボーナス査定との関係で,裁判員としての出頭を理由とする欠勤自体をマイナス要因としないと定めておくことも望ましい措置です。

  • 以上のとおり,特別有給休暇を定めておられない企業・団体はもちろん,既に「公民権を行使する場合の特別有給休暇」を定めておられる企業・団体であっても,裁判員のように,休暇が長期に及ぶ場合があることや,日当等との調整の問題があることまでは念頭におかれてはいないと思われますので,この機会に,裁判員特別有給休暇制度の創設を検討されてはいかがでしょうか。

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