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「コンプライアンス」とは何か

H22.10.1 虎頭 信宏

先日,ある顧問先様において,コンプライアンスに関するセミナーの講師を担当させていただきました。
その際,セミナーの導入部分として,「コンプライアンスとは何か」というコンプライアンスの意義について,パロマガス湯沸器一酸化炭素中毒死事件(以下,「本件事件」といいます。)を例にご説明させていただきました。
当時世間を大いに賑わした本件事件は,皆様の記憶にも新しいと思いますが,コンプライアンスについて考える際に大変参考になる事例だと思いますので,簡単にご紹介したいと思います。

本件事件の概要は以下のとおりです。

  • 一酸化炭素中毒発生の原因

    ・ パロマ工業株式会社(以下,「パロマ」といいます。)が製造したガス瞬間湯沸器には,強制排気装置が作動していないとき(通電していないとき)にはガスの供給をストップする安全装置が装備されていた。

    ・ 湯沸器のコントロールボックスが故障し通電しなくなった。その結果,安全装置が作動し,ガスが止まったままとなるが,消費者は「故障」として修理業者に修理を依頼することとなる。

    修理業者(パロマではない)がコントロールボックスを正しく修理せず,強制排気装置が作動していなくても,安全装置が作動せずにガスが供給され,湯沸器が使用できるように不正改造(修理)を行った。

    ・ その結果,排気が行われない状態になっても安全装置が作動せず,ガスは燃焼を続け,一酸化中毒中毒死事件が発生した。

  • パロマの対応とその後の経過

    ・ パロマは,1985年に最初の死亡事故を把握し,その後も死亡事故が発生したことを受けて,1988年および1992年に,社員およびパロマサービスショップに対して「不正改造を行わないように」という注意喚起を行った。

    ところが,パロマは,問題のある湯沸器を約26万台出荷していたにもかかわらず,出荷された湯沸器の回収や点検も,ホームページや記者発表等による消費者に対する注意喚起も行わなかった。

    ・ 2006年7月,マスコミの報道等により,これらのガス湯沸器について,1985年から2005年までの間に28件の事故が発生しており,そのうち安全装置の不正改造による事故(死者18名,重軽傷者15名)が発生していたことが判明し,パロマは激しい非難を浴びせられた。

    ・ 2007年12月,東京地方検察庁は,時効にかかっていない2005年11月に発生した死亡事故について,パロマの元社長らを業務上過失致死罪で起訴し,2010年5月,東京地方裁判所は有罪判決を下した(確定)。

上記の本件事件の概要によれば,不正改造(修理)を行ったのは修理業者であり,パロマに製造物責任や民法上の瑕疵担保責任が認められない可能性は十分にあり,また,当時,自社製品に関する重大事故情報の公表を義務付ける法律は存在しませんでした(現在は消費生活用製品安全法により公表が義務付けられています)。
したがって,コンプライアンスを単なる「法令遵守」として捉えれば,不正改造による事故発生を最初に把握した時点においては,これを直ちに公表するなどして消費者に注意喚起をしなかったパロマの対応は,「コンプライアンス違反」とは言えなかったかもしれません。

しかし,自社製品の(不正)改造により,死者が出るような重大事故が発生し,今後も発生する危険性がある以上,法律的な責任を度外視して,「できるだけ早く当該事実を公表し,新たな事故を発生することを阻止する」という「社会的要請」に応えるという観点からみても,また,消費者保護が重視され始めてきたという当時の「社会的要請」の変化という観点からみても,事故を把握しながらも長年にわたり一般消費者への注意喚起を行わなかったパロマの対応は,明らかにコンプライアンスの本質を理解していなかったと言わざるをえません。
そして,その結果として,上記のとおり,パロマの元社長らは,刑事責任という,(単なる法令遵守という意味においても)明らかなコンプライアンス違反の責任を問われ,パロマ自体も,企業としての評価を著しく下げ,危機的な状況に陥ることとなりました。

現在では,「コンプライアンス」が単なる「法令遵守」ではなく,社会規範や企業倫理などの「社会的要請」に応えた企業活動を確保することにあること,また,企業が,時代とともに変化する「社会的要請」を適確にキャッチアップしていかなければいけないことは,コンプライアンスを考えるうえでの共通の理解になっています(その意味では,コンプライアンスは,いわゆるCSR(企業の社会的責任)とも重なり合う部分があると言えます)。

本件事件は極端な事例かもしれませんが,まさに,コンプライアンスに対する理解の誤りが企業を危機的な状況に陥れた典型事例として,いま一度,それぞれの企業・団体において,コンプライアンスの意義を再認識するために検討する価値のあるものではないでしょうか。

【追記】
定期的にコンプライアンスセミナー等を開催し,社員に対してコンプラアンスの重要性を認識してもらうことは,企業における内部統制システムの整備の重要な一要素となります。
当事務所では,通常の東町セミナーのほか,各顧問先様におけるコンプライアンスセミナーや,個人情報保護法,労働関係法等のセミナーに関するご相談も承っていますので,お気軽にご連絡下さい。

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