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民事再生手続における再生債務者(代理人)の立場

H23.2.21 小野 法隆
  • 条文上の根拠

    民事再生法は,再生債務者自身による民事再生手続の遂行を原則化しており,いわゆるDIP型(Debtor In Possession,占有継続債務者)が原則であるとされております。この根拠条文としては,民事再生法(以下「法」といいます。)第38条第1項に規定があり,【再生債務者は、再生手続が開始された後も、その業務を遂行し、又はその財産(日本国内にあるかどうかを問わない。第六十六条及び第八十一条第一項において同じ。)を管理し、若しくは処分する権利を有する。】とされています。

    他方,同条第2項においては,【再生手続が開始された場合には、再生債務者は、債権者に対し、公平かつ誠実に、前項の権利を行使し、再生手続を追行する義務を負う。】とされているため,再生手続遂行に際して,かかる債権者に対する公平誠実義務をどのように果たしていくのかが,問題となります。

    さらに,再生債務者代理人である弁護士は,再生債務者との間で委任(民法第643条)および準委任(民法第656条)の関係にあり,再生債務者に対して善管注意義務を負っており(民法第644条),かつ,弁護士は,弁護士が職務上知り得た秘密を保持すべき義務を有している(弁護士法第23条,弁護士職務基本規程第23条)ことから,依頼者である再生債務者との関係をどのように考えるべきかも,問題となります。

  • 公平誠実義務の内容

    法第38条第2項にいう「公平義務」とは,原則として,同等の地位にある債権者を公平に扱う義務であるとされており,また,「誠実義務」とは,一般に,自己または第三者の利益と債権者の利益が相反する場合に,自己または第三者の利益を図って債権者の利益を害することは許されないという意味であると解されていますが,かかる抽象的な解釈論だけではイメージしにくいかと考えますので,以下,具体的な場面をいくつか記載します。

  • 具体的場面

    たとえば,

    (1) 再生債務者が法人である場合に,その役員に対し損害賠償責任を追及すべきときに,損害賠償の査定等の申立等(法第143条等)を行うこと,

    (2) 申立前になされた偏頗行為,財産隠匿,粉飾決算など再生債務者またはその経営陣にかかる職務上知り得る秘密について,再生債務者代理人は,手続開始後再生債務者本人の意思に反してでも監督委員や裁判所にこれを告知すべきか,

    (3) 再生債務者が自主再建を希望しているが,スポンサーへの事業譲渡による一括弁済の可能性もある場合に(なお,いずれの計画案も清算配当率を上回っている),どのような再生計画を立案すべきか,

    (4) 再生計画案に記載された弁済率よりも明らかに高額の弁済が可能と思われる場合でも,再生計画案の弁済率が清算配当率を上回ってさえいれば問題ないとするのか,

    等といった具体的場面で,上記1のような問題を検討する必要が生じることとなります。

  • 解決策

    結局,弁護士が再生債務者代理人として事件を受任する際に,どこまで再生債務者本人に対して,かかる公平誠実義務を具体的に説明し,上記3に記載するような事態になった場合には,かならずしも再生債務者本人の意向にだけ沿うような活動はできないことについて,了解を得ておけるかどうかにつきると思われます。

    そのうえで,再生債務者本人も,代理人同様に,再生債務者の意向はかかる公平誠実義務により制約されうるものであるとの共通認識をもってもらったうえで,上記3のような各具体的場面について,複数の案を策定したうえで,各案が公平誠実義務に違反しないかどうかを個別具体的に判断していくことになろうかと存じます。

    当事務所でも,役員の損害賠償の査定の申立をした事案や,粉飾決算後の申立の事案を経験しておりますが,かかる申立前には,上記3のような問題点があることをすべて開示し,再生債務者本人の了解をえたうえで再生手続の申立をなしたことから,その後の各手続は,比較的スムーズに処理することができ,再生債務者本人や債権者から,特にクレーム等なく事件を処理することができました。

  • 債権者の立場から

    本稿をお読みいただいている顧問先の皆様は,通常,債権者として再生債務者に接する機会があるかと存じますが,再生債務者(代理人)と交渉する際には,かかる公平誠実義務は,抽象的な義務ではあるものの,有効な説得(交渉)材料になりうるものと考えます。

    たとえば,上記3の(1)のような場合には,公平誠実義務を根拠として,再生債務者(代理人)や監督委員に対し,(受け入れられるかどうかは,種々の要素に影響されると思われますが)スポンサー型を選択するように求めることも可能であると考えられますし,上記3の(4)のような場合には,公平誠実義務を根拠として,弁済率の増加を主張することも可能であり,文献によっては,かかる主張がなされた場合には,再生債務者は,現状の弁済率が合理的である旨の検証結果を裁判所および監督委員に提出しなければならないとする立場も存在するところです。

  • 結語

    以上のとおり,かなり実務的な,かつ,あまり表側にでることのない点について記載しておりますが,再生債務者もその代理人も,かかる困難な立場のもとで手続をすすめていることをご理解いただければ,再生債務者の行動を理解する(または,論理的に反論する)一助となるのではないかと考え,本稿をまとめました。

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