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補償状(Letter of Indemnity)の文言と機能

H23.3.3 田中 庸介

昨年10月、国際PIグループは、B/Lとの引き換えなしに貨物を引き渡す際に、船主が傭船者から徴収する補償状(Letter of Indemnity)の文言とその取扱いについて、新たな指針を公表しました。
これは、2008年11月にロンドンの裁判所が判示した判決(「Bremen Max」号事件([2009] 1 Lloyd’s Rep 81))がきっかけとなったものです。

上記の事件では、船主は、B/Lとの引き換えなしに、傭船者からLOIを徴収して、貨物を引き渡したのですが、後に、船主は、真のB/L所有者から、貨物の引渡請求を受け、かつ、本船がオーストラリアの裁判所により差押えられたため、船主は、左の裁判所に担保としての書面(Letter of Guarantee)を交付して、本船の解放を得ました。
そこで、船主は、本件の補償状に基づき、傭船者に対して、上記の担保を代わりに差し出すこと等を求めて、ロンドンの裁判所に提訴しました。

上記のロンドンの裁判所では、(1)既に船主が差押えの解放のための担保を出した場合、傭船者は、改めて、左の担保を差し出す義務を負うか、(2)本件補償状は、そこに記載された者へ貨物が引き渡されたことを条件とするか、が問題となりました。
裁判所は、(1)について、傭船者は自己の義務として、担保を差し出す義務を負う、と判示しましたが、(2)については、補償状に記載された者に対して貨物が引き渡されることが、その効力の前提条件となるとし、本件においては左の者に対して貨物が引き渡されたことは証拠上明らかでない、として、結局、船主の請求を否定しました。
また、(1)についても、本件では、船主が、自ら裁判所に対して担保を差し出す前に、傭船者に対して、担保の提供を請求していたことが指摘され、そのような事情がない場合には、別の結論もありうる、と判示しています。

以上の判決を受けて、国際PIグループは、次の事項を推奨しました。

1.   補償状においては、B/Lの提示なしに貨物を引渡す相手先を明記するのみならず、以下の文言を加えること。
“to X(筆者注:引渡相手先の社名) or to such party as you believe to be or to represent X or to be acting on behalf of X”

2.   補償状による貨物の引渡後、真のB/L所持人(と称する者)から担保の請求が来た場合には、直ちに、次の事項を補償状発行者に通知すること。

(1)クレーム発生の通知があったこと。
(2)担保の請求を受けたこと。
(3)補償状発行者に対して、補償を要求すること。

上記の推奨事項の「(1)」は、上記の判決では、明記された先に貨物が引き渡されたことが証明できなかったために船主が敗訴したことを念頭においたものといえます。また、「(2)」は、上記の判決では、船主が、自己が担保を積む前に、傭船者に対してその請求をしていたことが重視された結果をいえます。

しかしながら、引渡先の者について「… to such party as you believe to be …」などの文言を追加することは、いかなる事情をもって船主はその者であると「信じた」のか、証拠の事前の徴収・確保を行ったか否かなど、新たな問題を生起させる可能性があるように思います。
さらに、まず、船主が先に、補償状発行者へ補償の履行を要求したか否か、という点は、通常の補償状フォームの文言には含まれていません。

以上からすれば、今回の国際PIグループの推奨事項をもっても、B/Lと引き換えなしでの貨物の引渡しは、依然、危険な行為と言わざるを得ません。

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