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製作物供給契約という契約

H24.1.17 平良 夏紀

契約当事者の一方が,もっぱら,または主として自己の供する材料によって,相手方の注文する物を製作し,供給する契約を製作物供給契約といいます。たとえば,自分の身体にぴったりフィットするように作られたオーダーメイドのスーツや,特別な誰かのために自らデザインを考えて注文したケーキなどは,製作物供給契約であるといえるでしょう。このように考えると,製作物供給契約という契約類型に分類される契約は,世の中には意外と多いことに気づかされます。

もっとも,民法には,製作物供給契約という類型の契約は定められていません。製作物供給契約という契約類型は,学説上認められている契約類型であり,一般的に売買契約と請負契約の両方の性質を有する契約類型であると考えられています。先ほどの例ですと,オーダーメイドのスーツは,店が製作されたスーツを客に渡すという面をとらえると売買ですが,店が客の身体に合ったものをその客のために製作するという面をとらえれば請負であるともいえます。ケーキの例でも同じように,店が製作されたケーキを客に渡すという面をとらえると売買ですが,客から渡されたデザインの注文をもとにケーキを製作するという面をとらえると請負であるともいえます。

それでは,製作物供給契約が民法に定められた契約類型ではないということは,何を意味するのでしょう。製作物供給契約に当たると思われる契約をめぐる訴訟などの場面においては,その契約に,売買の条文が適用されるのか,それとも請負の条文が適用されるのか,それとも両方か,ということが問題になります。

具体的には,たとえば,製作物供給契約に売買の条文が適用されるとなると,商人間の取引であれば,商法526条の検品義務の規定が適用されることになります。商法526条の検品義務とは,商人間の売買において,買主は売主から目的物を受け取った際には,ただちに目的物を検品する義務があり,その義務を怠ると,のちに発見された瑕疵に基づいて売主に責任追及をすることができなくなるという買主の義務です。そうすると,仮に,買主が売主に対して,目的物に欠陥があったことを理由の損害賠償請求をしたとしても,買主が目的物の検品義務を怠っていた場合には,売り主は買主の検品義務違反を主張して,損害賠償請求を拒むことができることになります。これは,請負契約の場合には主張できないことです。

また,たとえば,請負の条文が適用されるとなると,民法641条の注文者解除の規定が適用されることになります。民法641条の注文者解除とは,請負契約において,目的物が完成される前は,注文者はいつでも請負人に損害賠償をして,請負契約を解除できるという注文者に認められた権利です。そうすると,注文者は,請負人が目的物を製作している途中にその目的物が不要になれば,いつでも損害賠償をした上で,契約を解除することができます。これは,売買契約の場合には主張できません。

このように,製作物供給契約といわれている契約には,売買の条文が適用されるのか請負の条文が適用されるのかということは,とても大きな問題になってきます。

学説上は,(1)製作物供給契約は,売買か請負かに必ず分類できるので,いずれかの条文のみが適用されるというものと,(2)製作物供給契約は,売買と請負の混合契約であるので,その製作物供給契約の性質によって,両方の条文が適用されるという2説があります。

判例上は,(1)(2)のいずれの説によったものと認められるものも存在するので,立場が定まっているとはいえない状況です。

(1)説によれば,製作物供給契約は売買か請負かという問題はそのまま問題になりますが,(2)説によれば,製作物供給契約は売買か請負かという問題は生じにくいでしょう。ただし,判例上も学説上も(1)説か(2)説か,立場がはっきりしない状況では,仮に紛争になった場合には,どちらの立場によって判断されるかは不明のままです。

したがって,製作物供給契約であると思われる契約を締結する場合には,万が一紛争になった場合の予測可能性をもたせるために,契約書を作成する段階で,たとえば,買主に検品義務を課したり,注文者の注文者解除権の行使を制限するなどの条項を入れておくことが望ましいでしょう。

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