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高年齢者雇用安定法をめぐる諸問題

H24.2.10 名倉 大貴
  • 高年齢者の雇用確保措置の概要

    平成18年の「高年齢者の雇用の安定等に関する法律」(以下「高年齢者雇用安定法」という。)の改正により,65歳未満の定年制をとっている企業について,労働者の65歳まで(経過措置により,平成25年3月31日までは64歳まで)の安定した雇用を確保するために,下記のいずれかの雇用確保措置を講ずることが義務づけられています(高年齢者雇用安定法9条1項)。

    (1)  定年の引上げ

    (2)  継続雇用制度
    (現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度)

    (3)  定年制の廃止

    このうち,(2)の継続雇用制度については,希望者全員を65歳まで継続雇用するのが原則ですが,各事業主の実情に応じて柔軟な対応がとれるよう,過半数労働組合または労働者の過半数代表者との労使協定によって継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め,当該基準に基づく制度を導入したときは,(2)の措置を講じたものとみなされることとされています(高年齢者雇用安定法9条2項)。この労使協定で定められる基準については,行政通達により,ア)意欲,能力などを具体的に測るものであること,イ)必要とされる能力などが客観的に示されており,該当可能性を予見することができるものであることが望ましいとされており,具体的な例については,厚生労働省のリーフレット(http://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/kourei2/dl/leaflet2.pdf)等で紹介されています。

    また,継続雇用制度を導入した場合でも,定年までの労働条件を維持することまで要求されておらず,継続雇用後は有期雇用としたり,賃金を一定程度減額したり,勤務日数を少なくしたりすることも,高年齢者雇用安定法上は可能であるとされています。

    厚生労働省の調査によれば,全国の常時雇用している労働者が31人以上の企業のうち,概ね8割の企業が上記(2)の継続雇用制度を採用し,そのうちの約半分の企業が,労使協定で定めた基準に基づく継続雇用制度を導入しているようです。特に,従業員数が301人以上の企業においては,労使協定で定めた基準に基づく継続雇用制度の採用率が高い(80%弱)ことが見てとれます(厚生労働省職業安定局高齢・障害者雇用対策本部「平成23年『高年齢者の雇用状況』集計結果」)。

  • 継続雇用制度をめぐる裁判例

    (1) 近時,上記の継続雇用制度をめぐって,労働者から多くの訴訟が提起されており,裁判例が蓄積されてきています。これらの訴訟において問題とされている点は,概ね以下のように類型化できると思われます。

    ア そもそも継続雇用の対象者基準に関する労使協定が締結されていないことが問題とされた事例
    イ 労使協定において継続雇用の対象者基準が定められている場合に,労使協定の締結手続の不当性が問題とされた事例
    ウ 労使協定において継続雇用の対象者基準が定められている場合に,当該基準自体の不当性が問題とされた事例
    エ 労使協定において継続雇用の対象者基準が定められている場合に,当該基準の運用の不当性が問題とされた事例
    オ 継続雇用後の労働条件(雇用期間,賃金等)が問題とされた事例
    カ 有期雇用形態で継続雇用した場合に,継続雇用後の雇止めの効力が問題とされた事例

    (2) 上記の各訴訟に関する最高裁判例は出ておらず,異なる判断を示すものもあるものの,裁判例の傾向は,以下のようにまとめられると考えます。

    [1] 高年齢者雇用安定法9条1項に定められた義務は,公法上の義務にとどまるため,同条項に違反するからといって,企業に個々の労働者を65歳まで雇用する私法上の義務があるとまではいえない。

    [2] 労使協定によって策定された継続雇用の対象者基準については,その内容が公序良俗に反するようなものでない限り,高年齢者雇用安定法に違反することを理由としてその効力を否定することはできない。ただし,過半数労働組合の要件を満たさない組合と労使協定を結ぶなど,労使協定締結の手続に不備があった場合には,対象者基準自体が無効となる可能性もある。

    [3] 継続雇用を希望した労働者が労使協定に定められた基準を満たしているにもかかわらず,企業側が再雇用拒否や雇止めを行った場合には,解雇権濫用法理を類推適用すべきであって,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当でない限りは,権利濫用にあたりうる。

  • 今後の動向について

    厚生労働省は,現行の9条2項に定める措置を廃止して,希望者全員の65歳までの雇用確保義務を企業に課すことを骨子とする高年齢者雇用安定法の改正案を次期通常国会に提出し,平成25年度からの施行を目指す方針であることを明らかにしています。この改正案の背景にあるのは,年金支給開始年齢の段階的引上げ(定額部分について平成25年度には65歳まで引上げが完了する予定)とのバランスをとるという考え方ですが,9条2項に定める継続雇用の対象者基準を撤廃することについては,結果的に若年層の労働条件の切下げにつながりかねないという懸念もあり,経済界は強く反発しています(このような意見を考慮して,経過措置を設けることも検討されています)。

    今後の動向を予測するのは現状では難しいと言わざるをえません。しかし,上記2で述べたように,継続雇用制度をめぐって紛争が頻発していることを考慮すれば,労使協定で対象者基準を定めている企業においては,できうる限り基準の具体化・明確化をはかるとともに,基準の内容について労働者に対して十分な説明を行うこと,基準の運用について労使委員会や第三者委員会を設けたり,苦情処理機関を設けることなどの施策の導入を検討する必要があると思われます。

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