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労働者派遣契約の中途解除と派遣先の留意点
- はじめに
企業が他の企業から労働者を受け入れて就労させる形態としては、業務請負、労働者派遣、出向などがあります。業務請負は、労働者の指揮命令を含めすべて他企業に丸投げする点に特徴があり、他方、労働者派遣は受入企業(派遣先企業)が派遣労働者を自ら指揮命令する点に特徴があります。出向は、受入企業(出向先企業)が労働者を自ら指揮命令する点で労働者派遣と類似しますが、労働者派遣はあくまでも派遣元と派遣労働者の間でのみ労働契約関係が存在するのに対し、出向の場合は労働者と出向元・出向先双方との間に部分的な労働契約関係(2本立ての労働契約関係)が存在する点で、両者は区別されます。
先日、派遣規制を強化する労働者派遣法改正案の内容を政府が固めたとの新聞報道がありました(平成22年3月18日付け日本経済新聞)。改正案は、「通訳など政令で定める専門26業務を除き、登録型派遣を原則禁止する」「常用型派遣を除き、製造業派遣を禁止する」ことなどを骨子としています。そこで、今回は、労働者派遣について、取り上げてみたいと思います。
- 労働者派遣事業の種類
労働者派遣事業には、派遣労働者が派遣元に常時雇用されている「常用型派遣」と、労働者が派遣元に登録しておき、派遣の都度、派遣元との間で労働契約を結ぶ「登録型派遣」があります。登録型派遣のほうが一般になじみがありますが、派遣期間と労働契約期間が直結しており、派遣の終了が労働契約の終了に直結するため、雇用は不安定になります。上記の改正案は、このような登録型派遣を原則禁止とすることで、非正規労働者の雇用安定を図ることを狙いとするものです。
- 労働者派遣契約
労働者派遣契約は、派遣元企業が派遣先企業に対して労働者を派遣することを約する契約です。労働者派遣契約では、一般にユーザーである派遣先企業が優位に立つことに加え、今般の急速な景気悪化もあいまって、派遣期間中に労働者派遣契約が中途解除されるケースも多くあります(いわゆる「派遣切り」)。
- 派遣期間満了前の中途解除
労働者派遣契約においては、その約定において、派遣先の中途解除権が規定されていることが一般的です(解除事由としては、当事者の倒産や信用不安のほか、一定の予告期間を置くことによって当事者が一方的に解除できる旨などが規定されることもあります)。したがって、派遣期間途中であっても、派遣先企業は、かかる中途解除権の行使や派遣元との合意により、労働者派遣契約を解除することは可能です。
ただ、派遣先の責に帰すべき事由による期間満了前の中途解除については、厚生労働省から「派遣先が講ずべき措置に関する指針」(平成11年労働省告示第138号、最終改正平成21年厚生労働省告示第245号)が出されており、派遣先の講ずべき措置として、(1)派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること、(2)これができないときには派遣元に生じる損害の賠償を行わなければならないことなどが挙げられています。
かかる指針は、ただちに派遣先の法的義務となるものではありませんが、都道府県労働局からの指導監督の対象となります。
- 派遣先が留意すべき事項
登録型派遣において、派遣元と派遣労働者との間の労働契約関係は、前述のとおり、派遣期間に合わせて派遣元が派遣労働者と有期労働契約を締結していることが一般的です。労働者派遣契約が派遣期間途中で中途解除された場合、派遣元が派遣労働者をその労働契約期間中に解雇するためには「やむを得ない事由」が必要となりますが(労働契約法17条1項)、この点を巡り、派遣元において派遣労働者との間に解雇紛争が生じるリスクがあります。
かかる紛争リスクは、直接的には派遣元と派遣労働者の間の紛争ですが、それが派遣先を巻き込んだ労働組合の要請活動等に発展するおそれもあり、派遣先企業としても留意が必要です。
このような紛争リスクを回避するためには、派遣先企業としても、派遣元が派遣労働者との間の労働契約を円満に終了させることができるように、前述の指針にならい、中途解除によって生じる派遣元の経済的負担を補償するといった対応も必要になってこようかと思います。
※参考文献
平越格「労働者派遣契約の解消に伴う派遣先のリスクと対応」別冊ビジネス法務「不況下の労務リスク対応」70頁(中央経済社)