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第6回 シカゴにピアノの調律師は何人いるか?

H21.9.14 松宮 慎

最近ビジネス雑誌等で「地頭力」なる言葉をよく見かけます。「地頭が良い」というと,皆さんは,話の理解が早い人やパズルが得意な人などを想像するのではないでしょうか。近頃話題になっている「地頭力」は,こうした地頭の良さとは違って,ビジネスに必要とされる考える力という意味で用いられています。膨大な情報の中から問題解決のために必要な意味のある情報を選別して,結論に至るまでの思考過程を整理する能力,これがビジネスに必要な「地頭力」です。要は,物事を筋道立てて考える力のことです。
「地頭力」というと鍛えても伸びないイメージをお持ちかもしれませんがそんなことはありません。訓練すれば「地頭力」はいくらでも伸びます。

実は,このコラムのタイトルは「地頭力」を鍛えるためのある方法と関係しています。その方法とは,「フェルミ推定」といわれているものです。フェルミとは,フェルミ統計やβ崩壊の理論などで有名な理論物理学者の名前です(Enrico Fermi,1901.9.29〜1954.11.28)。
フェルミがシカゴ大学の教授をしていたころ,学生に対して,このコラムのタイトルにあるような質問を好んでしたそうです。どうして物理学者がピアノの調律師の数を知りたがるのか,と疑問に思われる方もいるかもしれませんが,フェルミはピアノの調律師の数を知りたかったわけではありません。シカゴのピアノの調律師の数のように,一見とらえどころのない数字を,既知の情報からどうやって推論するか,その思考過程を学生に学んでもらいたかったのです。
ちなみに,フェルミ推定を使ったこの種の問題は,コンサルティングファームやグーグルの入社試験などでも出題されているようです。

誤解してはならないことは,フェルミ推定は数値の正確性を担保するものではないということです。しかし,フェルミ推定には,それを上回る有用性があるため,これまで様々な分野でこの考え方が使われてきました。
例えば,Aさんが新規事業を立ち上げようとして,当該事業の売上・コストをフェルミ推定を使って予測したとします。その結果,毎月の売上約100万円に対し,コストは約300万円かかることがわかりました。この計算の前提に誤りがなければ,いくら正確な数字を使って計算し直したとしても,100万円の売上が300万円になることはありません。正確な数値を出すまでもなく,当該事業に採算性がないことは明らかです。
つまり,フェルミ推定によれば,求めたい数値のざっくりとした値を短時間で計算することができ,その結果,時間をかけて正確な数値を計算する必要があるかどうかを見極めることができるのです。
また,フェルミ推定を使って思考過程を整理しておけば,将来,何らかの問題が生じたときに(例:売上が減った),原因の所在がわからないというリスクも軽減できます。問題の発見が容易になり,改善までの時間を短縮することができるため,損害を最小限に抑えることができるというわけです。

さて,皆さんは,タイトルの質問について,どのように考えますか。「シカゴに行って電話帳で調べればええやん」という解答は残念ながらNGです。決まった考え方があるわけではありませんが,この種の問題は,ピアノの調律師の数を決めるパラメータは何か,パラメータにあてはめる数値は調査可能か,調査可能なパラメータのうちどのパラメータが重要か,という順番で検討していくと分かりやすいのではないかと思います。
この問題については,インターネット上で解説がなされており,考え方の一例も紹介されていますので,「地頭力」を鍛えたいという方は是非一度この問題を考えてみられてはいかがでしょうか。

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