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第101回 破産して免責を受けても『自然債務』が残る!?

H24.8.9 小野 法隆
  • 設問

    甲さんは,友人である乙さんに100万円を貸しましたが,返してもらえないまま乙さんが自己破産し,その後,免責(※)許可決定がなされました。

    その後,乙さんは再起のうえ新たな事業で成功し,返済できるだけのお金が出来たので,甲さんへの感謝の気持ちから,免責を受けた借入金100万円を全額弁済したいと考えました。

    【設問(1)】
    このような弁済は,有効なのでしょうか。

    【設問(2)】
    乙さんは,一旦100万円を弁済したものの,新しい事業で資金繰りに窮したため,甲さんに対し,「100万円の借金はチャラになっているはずだから,やっぱり100万円返せ」と主張しました。このような乙さんの主張は,認められるのでしょうか。

    ※ 破産手続終了後に残っている債務をそのままとしたのでは,破産者(個人)にとって大きな負担となり,その経済生活再生の妨げとなることから,係る残債務について,破産者の責任(債務)を免除するのが,免責と呼ばれる制度です。一般に,「破産したら借金チャラ」と言いますが,この借金を「チャラ」にする制度が免責制度です。なお,破産者が法人の場合は,破産手続終了により法人格が消滅すれば債務も消滅するとされており,免責制度の適用はありません。

  • 免責の法的性質

    一般に,破産し免責されれば,債務自体は消えて無くなるもの(「破産したら借金はチャラ」)と考えられているかと思いますが,免責の法的性質については以下のような争いがあるとされており,(2)の説が判例・通説であるとされております。

    (1)  債務消滅説

    債務そのものが消滅するという説

    (2)  自然債務説

    責任(※)が消滅するのであって,自然債務として残存するという説

    ※ 責任とは,「債務と責任」というときの責任であり,この場合の「責任」とは,債務が履行されない場合のために一定の財産(原則として債務者の総財産)が引当て(担保)となっていることを意味するとされています。

    そうすると,判例・通説である自然債務説によるときは,自己破産し免責されても,破産者の方は,自然債務という債務を負担していることになります。

    「破産しても債務を負っている」というのは,一般的な感覚からすると違和感を覚えるかと思いますが,これは,どのような意味を有するのでしょうか。

  • 自然債務

    自然債務とは,「裁判上請求できないが,任意に履行されればそれによって得られた利得を保持でき,返還する必要がない」債務とされております(なお,債務の効力のうち,「裁判上請求できるという効力」のことを「訴求力」,「任意に履行されればそれによって得られた利得を保持でき,返還する必要がないという効力」のことを「給付保持力」といいます。)

    要するに,お金の貸し借りに限定していえば,借金返せとの裁判をすることはできないが,借主が任意に返済した場合には,貸主は,その返済金を受け取ることができ,返済を受け取った後に,借主から,「気が変わったからやっぱり返してくれ」と言われても,返す必要がないというのが,「自然債務」ということになります。

    なお,この自然債務という概念は,ローマ法に起源を持ち,日本でも,明治時代の旧民法(明治23年公布。ただし,施行されないまま明治31年廃止)においては規定されていた概念ですが,現行民法(明治31年施行)では,自然債務という概念そのものがまるごと削除されており,現行民法の条文には存在しない概念となっております。

  • なぜ自然債務説なのか

    では,なぜ,免責の法的性質について,判例・通説が自然債務説を採用しているのでしょうか。

    この点について,債務消滅説の根拠としては,自然債務説によるときは,免責されてしまった債権者が,自然債務の存在を口実にして,その債権の取立てを継続する危険があり,破産者の再生を妨げることになりかねないことから,端的に,免責=債務の消滅とするのが妥当であるという点があげられております。

    これに対し,自然債務説は,免責を受けた破産者が,真に自発的な意思で,道義的理由から,免責の効力を受けた債務について支払を申し出ることがあり,その弁済が社会的にも肯定しうる場合があるところ,債務消滅説からは,その弁済を後に無効であるとして不当利得返還請求権を認めることとなるが,これは,かえって破産者の弁済を受けた債権者の間の衡平を害し,免責制度の理念に反する結果をもたらすという点を根拠にしており,現状では,係る根拠その他の理由から,自然債務説が,判例・通説であるとされているようです。

  • まとめ

    結局,自然債務説をとると,「破産して免責を受けても『自然債務』が残る」ということになりますが,それは,あくまで,設問のような事例で,【設問(1)】については,「弁済は有効」,【設問(2)】については,「乙の主張は認められない」という結論を得るための法的な説明に過ぎません。「自然債務」と聞くと,おどろおどろしい感じがしますが,「自然債務,恐るるに足らず」というところでしょうか(※)。

    ※ なお,債務消滅説からは,前記の自然債務説からの批判に対し,非債弁済(※※)の適用により,弁済後の不当利得返還請求が否定される場合が多いので,実際上の問題がないとの考え方が示されており,他方,自然債務説からは,係る債務消滅説からの反論について,非債弁済の規定をもって律するのは,あまりにも実態からかけ離れているとの指摘をしております。

    ※※債務がないのに弁済をした場合,これにより給付されたものは不当利得となり,返還請求できるのが一般原則となっていますが,自分からわざわざ損失を招いた者に法的な保護を与える必要はないという趣旨から,弁済者が自分に債務のないことを知りながら給付をしたときには返還請求できないとしました。これを非債弁済(民法705条)といいます。

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