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第103回 弁護士の思考方法(リーガルマインド養成講座)

H24.9.4 山下 和哉
  • はじめに

    皆さんは,何か困ったことが起こってしまい,弁護士に相談に行った際,弁護士に対して,事実関係,困ったことの内容,今後どうしたいか等を話すと,弁護士から,「それはだいたい〇〇円くらいの賠償金を請求できますね」などと回答されたことはありませんか。また,弁護士に相談したことなんて一度もない,という方でも,このようなやり取りは容易に想像できるかと思います。

    さて,このような法律相談の場面で,弁護士は頭の中で,どのようなことを考えているのか,今回は,弁護士の思考方法(リーガルマインド)を,簡単な事例をもとに,わかりやすくご説明いたします。

  • 弁護士の思考方法

    たとえば,あなたは,道路を自転車で横断しようとしたときに,自動車に追突されて右腕を骨折し,2か月間の通院が必要になったとしましょう。

    このとき,あなたは,加害者に対して,治療費,慰謝料,休業補償等を請求したい,と考えるでしょう。

    ただし,民法,その他の法律を見ても,直接的に,「交通事故に遭った場合には,治療費,慰謝料,休業補償を請求できる」とは書いていません。

    では,どのように考えれば,「〇〇円くらいの賠償金を請求できる」という回答に至るのでしょうか。このような場合には,弁護士は,通常,次のような思考方法によって,回答を導き出します。

    [1] 当事者の請求(生の主張)を特定
    [2] 請求を基礎付ける法的根拠(条文等)を特定
    [3] 法律要件へのあてはめ
    [4] 法律効果の発生
    [5] 具体的な請求(生の主張)権発生

    これを司法試験受験界では,「請求権パターン」と呼ぶこともあります。

    (1)  [1]当事者の請求(生の主張)を特定

    まず,当事者の請求を特定します。「生の主張」とも書きましたが,これは簡単にいえば,法律云々を抜きにして,あなたが加害者に対して何を言いたいか,ということです。
    たとえば,今回の事例でいえば,「金払え」です。他には,「物よこせ」,「建物を明け渡せ」,「その行為をやめろ」,などが考えられます。
    ここで,一点だけご留意いただきたいのが,名誉権の侵害など特殊なケースを除き,「迷惑かけたことを謝れ」ということは法律では強制できないということです。
    迷惑をかけたことは事実なので,謝罪文や反省文で誠意を示せ,というのは,道義的にはごもっともなのですが,法律ではそれを強制することはできません。

    (2)  [2]請求を基礎付ける法的根拠(条文等)を特定

    生の主張「金払え」というのを特定すると,次のステップとしては,この「金払え」という請求を基礎付ける法的根拠(条文等)を特定します。
    生の主張に法律のフィルターをかけることで,法的に請求できるレベルまで持ち上げるわけです。
    たとえば,「金払え」であれば,当事者間に何らかの契約関係がある場合には,成立した契約に基づく履行請求,債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条),瑕疵担保責任(民法570条)などが,また,契約関係がない場合には,事務管理(民法702条),不当利得(民法703条,704条),不法行為(民法709条,710条)などがあります。
    今回の事例では,あなたと加害者との間には,通常,契約関係はないので,後者のうちから選ぶことになり,各条文を読むと,不法行為(民法709条,710条)が適切であると判断することになります

    (3)  [3]法律要件へのあてはめ

    法的根拠を特定すると,次のステップは,法律要件(条文等)へのあてはめになります。
    関連する民法の条文として,以下のものが考えられます。

    (不法行為による損害賠償)
    第709条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

    (財産以外の損害の賠償)
    第710条  他人の身体,自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず,前条の規定により損害賠償の責任を負う者は,財産以外の損害に対しても,その賠償をしなければならない。

    この条文から,不法行為に基づく損害賠償請求の法律要件を抽出すると,以下のア〜エになります。

    ア 「故意」又は「過失」があること
    イ 「他人の権利」又は「法律上保護される利益」を「侵害」すること(行為の違法性)
    ウ その行為により「損害」が生じたこと
    エ 加害行為と損害発生との間に因果関係があること(「これによって」)

    そして,今回の事例の事実関係を,ア〜エの各要件にあてはめていきます。

    ア「過失」については,本件のような交通事故であれば,加害者は,自動車を運転していた際に,前方不注意などの「過失」が認められるのが通常です。

    イ「他人の権利」の「侵害」については,加害者の追突行為によって,あなたは骨折をしており,あなたの権利を侵害していることが認められます。

    ウ「損害」については,あなたは,2か月間の通院が必要になったので,その治療費,通院に要する交通費,自転車の修理代金,精神的な苦痛を負ったことに対する慰謝料,仕事を休む必要が出て,それにより減給になれば減額された分の給料などが損害に当たることになります。

    エ「因果関係」については,加害行為と損害との間に相当因果関係があること,つまり,加害行為によって,その損害が通常発生するであろうと認められることが必要です。ウで挙げた損害については,通常,相当因果関係が認められると思われますが,たとえば,通院期間中に風邪をひいたので,内科に通ったことにより発生した治療費などについては,相当因果関係が認められません。

    このように条文等から法律要件を抽出して,法律要件に事実をあてはめます。
    そして,もう一つ重要なことは,この法律要件の解釈の問題として,判例が極めて重要になるということです。
    たとえば,上記エ「因果関係」について,条文には「これによって生じた」としか規定されていません。ここで「相当因果関係」が必要とされるのは,まさに判例によって解釈され,それが実務上確立されているからです。
    このように,民法に関する判例の多くは,この法律要件の解釈の問題であると理解されると,判例もより読みやすいものになるでしょう(司法試験受験界でいわゆる「論点」というものもこの段階で登場するものがほとんどです。)。

    (4)  [2]法律効果の発生

    法律要件へ事実をあてはめた結果,必要な要件をすべて満たした場合には,法律効果が発生することになります。今回の事例でいえば,加害者が,不法行為責任に基づいて〇〇円の「損害を賠償する責任を負う」ことになります。

    ここで「[2]」法律効果の発生と書いているのがミソで,[1]⇒[2]⇒[3]と検討した後は,[2]⇒[1]と来た道を戻るだけなのです。

    (5)  [1]具体的な請求権発生

    [2]法律効果が発生すれば,当然,具体的な請求権が発生します。今回の事例でいえば,「金払え」という生の主張が法的に認められるわけです。訴状をご覧になったことがある方はぜひ訴状の内容を思い出していただきたいのですが,訴状の冒頭「請求の趣旨」の欄が,実はこの生の主張に当たるのです。

  • 最後に

    以上のように,弁護士の思考方法は,実は一定のルールに従っていることがおわかりいただけたのではないでしょうか。弁護士の思考方法が理解できれば,社会で起こる様々な法律問題が,より理解しやすくなるはずです。

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