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第129回 仲裁手続が公序に反するとして、仲裁決定が取り消された事例

H25.5.8 麦 志明
  • 事案の概要

    日本における特許(以下「本件特許」)を有する米国法人(以下「X」)は、本件特許を利用した製品を日本国内で製造・販売に関して日本法人(以下「Y」)と合弁事業を行っていました。

    上記合弁事業について、XとYとの間で紛争が生じたため、XがYに対して、上記合弁事業に関して締結された契約をもとに、技術ライセンス料として技術サービス料の支払い等を求め、Yはこの主張を争いましたが、仲裁廷は、技術ライセンス料は上記合弁事業から得られる利益の分配であり、これはXY間で争いがないものとして、Xの請求を認める裁決を行いました。

    これに対して、YがXを相手方として、上記仲裁決定の取り消しを申し立てた事件が本件事案となります。

  • 裁判所の判断の概要

    裁判所は、上記の点について、

    (1)  仲裁制度は、当事者間の自律的意思を本質として、当事者の合意に基礎を置く紛争処理制度であるため、裁判所が過度にこれに介入することは許されないとしつつ、例外的に、仲裁決定の内容が日本における基本的法秩序(公序)に違反する場合には、当該仲裁決定に「確定判決と同一の効力」という強制的紛争解決の効力を認めるのは相当でないことから、これを取消事由として裁判所による介入を認めたものである。

    (2)  仲裁手続の準拠法がいずれであれ、仲裁手続が日本の手続的公序に反する場合、これは、日本における基本的法秩序に反するので、当該仲裁における仲裁決定には、「確定判決と同一の効力」という強制的紛争解決の効力を認めることはできない。

    (3)  本件事案では、仲裁手続において当事者間で争いがあった事実について、仲裁廷が当事者の主張に反して、争いがないと認定した点において、日本の手続的公序に反し、仲裁法44条1項8号(日本における手続的公序違反)の取消事由に該当する。

    と判断し、本件仲裁決定を取り消す旨の判決を言い渡しました。

  • 解説と留意点

    仲裁手続において当事者間で争いがあった事実について、仲裁廷が当該事実には争いがないとする仲裁決定を行った場合、当該仲裁決定は仲裁法44条1項8号(日本における手続的公序違反)に該当し、取り消されると判断したものです。

    ご高尚のとおり、仲裁法44条1項各号は、仲裁決定の種々の取消事由について定めており、仲裁決定が同号の各事由に該当する場合、当事者は、同条が定める一定の条件のもと、裁判所に対して仲裁決定の取り消しを求めることができるとされています。

    本件事案では、

    (1)  仲裁法44条1項8号の「日本における公の秩序又は善良な風俗」に、手続的な公序が含まれるか。

    (2)  (上記(1)が認められるとして、)仲裁手続中において当事者間で争いがあった事実について、仲裁廷が当該事実には争いがないとする仲裁決定を行った場合、これは仲裁法44条1項8号に該当し、無効となるか。

    という2点について、裁判所はいずれも肯定的判断を示し、上記の結論に至っています。

    本件事案において仲裁手続を行った仲裁機関は日本商事仲裁協会であり、外国の仲裁機関ではありませんでしたが、それでも、仲裁法上の仲裁決定の取消事由に該当しうるという点には十分な注意が必要です。

    今後、渉外契約において、日本側当事者と外国側当事者の公平という観点から、(あまりメジャーでない)第三国の仲裁機関を指定し、その仲裁機関の仲裁規則に従って仲裁を行うような仲裁合意を行うような場合、当該仲裁機関の仲裁規則に、両当事者の所属国の手続的公序に違反するような条項がないか、あらかじめ確認しておくような注意も必要かもしれません。

※なお、本件事案についてはXより即時抗告がなされており、その結果については目下、刊行物に掲載がないため、調査できておりませんが、本件事案は、先例としての意義を有すると思われますので、本コラムにて紹介させていただいた次第です。

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