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第185回 限定承認の実務(1) 〜手続選択の視点〜

H28.2.10 村尾 卓哉
  • 相続方法の種類

    法定相続人が法律上,取りうる相続方法としては,単純承認,限定承認,相続放棄の3つが挙げられます。そのうち単純承認及び相続放棄については,一般的に活用されている制度であり,財産が負債より多ければ,単純承認,負債が財産より多ければ,相続放棄が選択されることが通常です。ただし,被相続人が会社経営者で会社の債務について保証人となっている可能性がある場合など,相続放棄を行うかどうかを決める熟慮期間(原則,3か月。申立てによって,伸長が可能です)の間に財産と負債を正確に把握することが困難なことがあります。そのような場合のために,限定承認という手続きが用意されています。

  • 限定承認とは?

    限定承認とは,「相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して,相続の承認をする」ものです。これはどういうことかというと,仮に相続財産を超える負債が発覚した場合でも,相続財産を原資として返済すれば足り,相続人個人の財産から弁済する必要はないということで,相続人個人として負債を負うリスクを回避しながら,財産を相続することができます。これだけ見れば,極めて有用な手続きであるように思えます。しかしながら,限定承認が実際に利用されることは少なく,平成26年度の死亡者数127万3020人(厚生労働省・人口動態統計)に対し,限定承認が利用されたのは,770件(平成26年度司法統計)に留まっています。

  • 限定承認が利用されない理由

    なぜ一見有用な限定承認が利用されないのでしょうか。

    (1)  まず限定承認を選択するためには,相続人全員による申立てが必要であることが理由として挙げられます。複数名の相続人がいる場合で,そのうち一人でも相続放棄,単純承認を選択するのであれば,限定承認を選択することはできません。

    (2)  次に税務上,「みなし譲渡所得課税」という特殊な課税方法が取られていることも相続人にとって大きな負担となります。「みなし譲渡所得課税」とは,相続財産の中に不動産や株式のような価格上昇利益の発生が見込まれる財産については,相続開始時点で譲渡を行ったものとみなし,譲渡所得税を課税する制度です。つまり,通常の単純承認であれば,将来,相続財産を処分した際に課税される税金が前倒しで課税されることになります。相続人は,このような課税に先立って,相続の開始を知った日の翌日から4カ月以内に被相続人の財産について,確定申告(準確定申告といいます)を行う必要があります。

    (3)  最後に最も根本的な問題として,限定承認の手続きが煩雑であり,専門家に頼らざるを得ないにもかかわらず,具体的な処理方法を知っている専門家が少ないということがあります。限定承認は,まず相続財産と負債の把握を早急に行ったうえで,最終的に負債に対する配当を行い,残余財産を相続人が相続するという破産の場合の破産管財人と類似したプロセスを経るため,法律知識がない方が行うには煩雑に過ぎるということがあります。一方で,第2項で述べた通り,限定承認の利用者は極めて少なく,実務でもノウハウが蓄積されておりませんから,税理士や弁護士といった専門家もその処理方法をよく分かっておらず,積極的に利用を勧めない,という実態があるのではないかと思います。

  • 限定承認の有用性

    これまで述べてきたとおり,限定承認は,煩雑な手続きであるうえ,専門的知識が要求されることから,お世辞にも使い勝手の良い制度とは言えません。しかしながら,明らかに財産があるにもかかわらず,あるかどうかわからない負債のために相続放棄を選択するというのは,非常にもったいないことで,うまく限定承認を利用すれば,負債の負担リスクを避けながら,相続財産を相続することができます。少なくとも(1)相続人全員の同意を得ることができ,(2)ある程度の財産があることは確実であり,(3)他方で保証債務のように明らかになっていない負債が存在する可能性がある場合には,一度,限定承認も視野に入れ,弁護士にご相談いただいた方がよろしいかと思います。

次回以降,当事務所が処理した限定承認の知見をもとに,具体的な限定承認手続について,解説したいと思います。

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