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第201回 自動運転化と法的責任

H29.3.9 脇山 泰朋
  • はじめに

    昨年5月に,米テスラモーターズ社の自動運転機能を搭載した自動車について発生した死亡事故は,記憶に新しいところです。

    また,東京海上日動火災保険(株)は,昨年12月,自動運転中の事故を対象にした自動車保険の特約を本年4月から無料で契約者に提供することを発表し,各メディアで報道されました。

    このように,最近では自動運転化にかかる話題が多く取り上げられていますが,以下では,自動運転化が交通事故の法的責任に与える影響等について言及したいと思います。

  • 自動運転のレベル

    まず,自動運転のレベルには段階があり,その定義については,今なお流動的ではありますが,米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)や官民ITS構想・ロードマップにおいて,一定の定義付けがなされています。

    ここでは,従来からの官民ITS構想・ロードマップの定義であり,昨年6月の一般社団法人日本損害保険協会(以下「損保協会」といいます。)の報告(以下「H28損保協会報告」といいます。)でも採用されている定義を紹介します。

    レベル1(単独型)
    加速・操舵・制動のいずれかの操作をシステムが行う状態

    レベル2(システムの複合化)
    加速・操舵・制動のうち複数の操作を一度にシステムが行う状態

    レベル3(システムの高度化)
    加速・操舵・制動を全てシステムが行い,システムが要請したときのみドライバーが対応する状態

    レベル4(完全自動走行)
    加速・操舵・制動を全てシステムが行い,ドライバーが全く関与しない状態

    日本では,早ければ2018年頃までにレベル2が実現すると言われています(一部メーカーからは,既にレベル2と同等の自動運転技術を搭載した自動車が発売されています。)。

  • 交通事故の法的責任に与える影響

    (1)  ドライバーの責任

    ア   上記レベル1及びレベル2については,システムによる自動運転が実現されるとはいえ,自動運転中であってもドライバーは常に,安全運転や事故回避など自動車の運転に関する刑事上の責任(以下「運転責任」といいます。)を負うとされています。そのため,交通事故の際にドライバーに対して民事上の責任追及をする場合は,現在の責任追及の考え方,すなわち,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」といいます。)3条,民法709条に基づく責任追及が可能であることに基本的に争いはありません。

    イ   しかし,レベル3については,加速・操舵・制動を全てシステムが行い,システム責任による自動運転となることから,道路交通法上もドライバーの運転責任が一定程度免除されることが想定されます。そのため,かようにドライバーの運転責任が免除された中で発生した事故の損害賠償責任の主体が問題となります。

    この点,システムの機能限界時などは,システムからドライバーに運転責任が移譲されること,自動運転中であっても,ドライバーはいつでも運転に介入できることから,自賠法3条の「運行供用者」充足性につき,ドライバーの「運行の支配」が認められ,また,ドライバーの過失も観念できることから,従来からの自賠法3条,民法709条に基づく責任追及が可能であるという整理がなされています(H28損保協会報告)。

    ウ   他方,レベル4については,ドライバーは運転に全く関与せず,すべてシステムによって運転されることから,従来の損害賠償責任追及が難しいと考えられています。そのため,自動車に関する法令等を抜本的に見直したうえで,今後議論・制度の整理を行う必要があります。

    (2)  責任主体の多様化と過失の複雑化

    自動運転中の事故の場合,単にドライバーの責任だけでなく,自動車の製造業者やソフト事業者などの責任も問題となり,責任関係が複雑化する可能性があります。

    今後,被害者は,ドライバーに対する自賠法,民法に基づく損害賠償責任追及に加えて,製造業者に対して製造物責任法に基づく損害賠償責任追及も行い,加害者同士の責任割合が問題となることも想定されます。

    (3)  事故原因の多様化と分析の困難性

    自動運転の事故においては,事故原因としても,システムの欠陥・故障,交通インフラの欠陥・故障,サイバー攻撃など,様々な原因が想定されるところ,事故分析がより困難となることから,ドライブレコーダーやイベント・データ・レコーダー等を使った精緻な事故分析が必要となると考えられます。

  • まとめ

    レベル4の完全自動走行時代も現実的となってきた昨今,法曹界や保険業界においても,その時代に対応した紛争解決・損害填補システムの構築が急務となっているところ,今後も国内外の自動運転にかかる動向に注視する必要があると考えます。

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