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第202回 限定承認の実務(2)
〜限定承認手続申立て前後において注意すべきこと〜

H29.4.7 村尾 卓哉

第185回コラムでは,どのような視点で限定承認手続を選択すべきかについて,お話をしました。今回のコラムでは,具体的にどのように限定承認手続を進めるかについてお話しいたします。

  • 熟慮期間の伸長の申請の検討

    (1)  熟慮期間とは,相続放棄をするのか,限定承認手続きをするのかを決めるための期間です。「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」に相続放棄をするのか,限定承認手続きをするのか,それともいずれの手続もしない(単純承認する)のかを決めることになります。熟慮期間という名前の割には,3か月と極めて短い期間で決断をする必要があり,特に煩雑な手続きが待ち受ける限定承認手続の利用をこの期間で決めるのは中々勇気がいることです。

    (2)  そこで,3か月以内にどの手続を選択するか決められない場合には,熟慮期間の伸長を被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して申し立てることとなります。熟慮期間の伸長の申立ては,比較的緩やかに認められている手続きであり,またどれだけの期間伸長できるかについても,特に決まりはなく,ある程度柔軟に判断してくれます。もちろん,伸長を申し立てる理由,伸長された期間中に予定している調査内容,伸長を求める期間の合理性をある程度具体的に申立書に書く必要があります。

    また,厳格な判断がなされる手続ではないものの,伸長が認められない可能性もゼロではありませんので,ある程度余裕をもって申し立てをし,時間的余裕がない場合には,申立前に裁判所と協議をしておくことが無難だと思います。

  • 限定承認の申立て

    熟慮期間中にある程度,財産調査が完了し,少なくとも財産を超える明らかな負債はなく,他方で隠れた保証債務の可能性がある等,単純承認できない事情がある場合,いよいよ限定承認の申立てをしていくことになります。

    (1)  限定承認の申立ても熟慮期間の伸長と同様に被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行うことになります。

    (2)  限定承認の申立てには,家事審判申立書だけでなく,遺産目録,負債目録を提出する必要があります。もちろん,申立段階で全ての遺産,負債が判明していないことが通常ですから,申立時点で判明している範囲で記載したもので構いません。

    (3)  相続人が1人しかいない場合には特に問題となりませんが,複数の相続人がいる場合には,限定承認の手続と同時に家庭裁判所により,相続人のうち1人が相続財産管理人に選任されます。家事審判申立書(又は上申書)の中に選任を希望する相続人を明記しておけば,基本的にその相続人が相続財産管理人として選任されることになります。そのため,限定承認を申立てる前に相続人間でよく話し合って誰が相続財産管理人を務めるかを決めておく必要があります。

  • 限定承認の申立てが受理された後にすべきこと

    家庭裁判所に限定承認の申立て(正確には「申述」といいます。)が受理された後は,限定承認者(相続人が1人の場合),相続財産管理人(相続人が複数人の場合)は,すぐに相続財産の清算に着手することになります。

    (1)  まず,最初にすべきなのは,受理審判後5日(相続財産管理人の場合は,10日)以内に,限定承認をしたことと債権者及び受遺者は2カ月以内に請求の申出をすべき旨を記載した官報公告をすることです。各地にある官報販売所に対し,掲載する文案を送り,掲載の依頼をすれば,簡単に手続き自体は完了しますが,受理審判後すぐに掲載する必要がありますから,限定承認の受理審判前に文案を準備して,すぐに申し込みができるようにしておいた方が良いでしょう。官報の掲載料は,行数によって異なりますので,掲載料も確認しておく必要があります。

    (2)  申立受理の時点で判明している債権者に対しては,官報公告をするだけではなく,限定承認をしたことと債権者及び受遺者は,2カ月以内に請求の申出をすべきことを記載した催告書を個別に送付する必要があります。請求の申出を受ける際には,あわせて債権の存在,内容がわかる書面の提出を求めるとより安全です。

    (3)  次に遺産を集約するための銀行口座を開設します。「被相続人東町太郎 限定承認者 村尾卓哉」「被相続人東町太郎 相続財産管理人 村尾卓哉」というように限定承認のための口座であることが客観的にわかりやすい口座名にすることが望ましいです。既に開設している口座を流用しないのは,2つ大きな理由があります。まず1つは,単純承認とみなされるリスクを避けるためです。例えば,既に開設している口座に遺産を集約したところ,うっかり相続人自身の引き落としがなされてしまった場合,限定承認手続が終了していないにもかかわらず,相続人が遺産に手を付けたとして単純承認とみなされるリスクがあります。もう1つの理由は,遺産と相続人固有財産が混同してしまう恐れがあるからです。遺産と相続人固有財産が混同してしまうと,最終的に被相続人の純粋な遺産の金額が曖昧となってしまい,「相続財産が責任の上限額である(相続財産の範囲で債務を弁済すれば良い)」という限定承認の最大の恩恵を受けられない可能性があるのです。

    そのため,面倒であっても,必ず限定承認のためだけに使用する銀行口座を開設すべきです。

次回は,いよいよ限定承認手続の肝である換価手続について,解説していきたいと思います。

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