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第89回 任意後見,あるとき,ないとき

H24.5.7 山下 和哉
  • はじめに

    平均寿命が年々延びている昨今において,今は元気だけど,将来認知症になってしまったときが不安,という方があなたの身の回りにいらっしゃいませんか。そのような不安を抱えてらっしゃる方のための制度が「任意後見」です。第68回「成年後見」のコラムでも少し触れていますが,今回は,この「任意後見」について,お話しようと思います。

  • どんなときに使うの?

    たとえば,今は元気だけど,将来,認知症になったときに,兄弟の中で一番しっかりしている次男や,もしくは専門家の弁護士等に財産管理を任せたい,とお考えの方には,「任意後見」がピッタリです。

    もし,「任意後見」制度を利用せずに,認知症になってしまった場合,大事な財産の管理がうまくできなくなったり,また,自分の意図しない人が家庭裁判所より財産管理人(成年後見人等)に選任されてしまうといった事態になることがあります。

    そこで,そのような事態を避け,そして,不安を解消するためには,「任意後見」の制度を活用することが有益です。

  • 任意後見って何?

    任意後見とは,本人が判断能力のある元気なうちに,将来の判断能力の低下に備えて,あらかじめ自分が選んだ支援者に,自分の生活・療養看護や財産管理について委任する契約を結び,実際に判断能力が不十分になったときに,家庭裁判所が選任する後見監督人のもとで支援を受ける制度です。

    「自分の後見のあり方を自らの意思で決定する」という自己決定の尊重の理念を最大限に生かすための制度と言われています。

    法定後見(成年後見,保佐,補助)との違いは,法定後見の場合,すでに判断能力が不十分になっている方だけが対象者であり,成年後見人等の支援者は最終的には家庭裁判所により選任されるという点にあります。

  • 任意後見の具体的な手続きは?

    任意後見制度の利用は次の手続きによります。

    (1) 本人と支援者の話合いにより,委任内容を具体的に決める。
    (2) 本人と支援者が公証役場にて任意後見契約書を公正証書で作成する。
    (3) 公証人から東京法務局に任意後見契約の登記委嘱が行われる。
    (4) 本人の判断能力が不十分になったら,本人や配偶者などから家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てをする(本人による意思表示が不能の場合を除き,本人の同意が必要)。
    (5) 家庭裁判所での任意後見監督人の審判・確定によって,家庭裁判所から東京法務局へ本人,任意後見人,任意後見監督人の登記委嘱が行われる。
    (6) 登記完了をもって任意後見契約が効力を発する。
  • 任意後見契約で何をお願いできるの?

    任意後見契約によって委任できる一般的な事項として,次のようなものが挙げられます。

    (1) 財産の保存や管理
    (2) 預貯金の預入れや払出し
    (3) 定期的な収入の受領,定期的な支出の支払い
    (4) 生活費の送金,生活に必要な財産の購入
    (5) 居住用不動産の修繕
    (6) 保険の契約に関すること
    (7) 介護保険やその他の福祉サービスの利用契約
    (8) 公的介護保険の要介護認定の申請
    (9) 医療契約や入院契約
    (10) 相続人となった場合の遺産分割など相続に関すること

    なお,任意後見契約が発効しても,本人に意思能力があれば,本人自身で法律行為を行うことができ,任意後見人には本人が行った法律行為についての取消権はありません。

  • 任意後見契約が発効する前や,死後についても不安な場合は?

    任意後見契約が効力をもつ期間は,本人の判断能力が衰えて任意後見監督人が選任されてから,本人が亡くなるまでの間です。よって,その前後の期間は,任意後見契約では対応できません。そこで,別途,次のような契約を締結しておけば,より安心です。

    (1) 見守り契約
    支援者が定期的に本人とコンタクトを取ることを契約し(見守り契約),急な対応が必要となる場合に備えることができます。

    (2) 財産管理等委任契約
    寝たきりになって銀行預金の取引ができなくなっても,意思がはっきりしているなら,任意後見契約発効の手続きができません。そこで,財産管理等委任契約を締結しておけば,そのような場合でも支援者に対応してもらえます。

    (3) 死後の事務委任契約
    死後のことは,任意後見契約の代理権の範囲外ですので,葬儀・埋葬・医療費の支払い等の死後の事務についての委任契約を締結しておくことがあります。

  • 最後に

    任意後見が素晴らしい制度であるということを少しはわかっていただけたかと思いますが,たとえば,延命治療拒絶の意思表示の代理等任意後見契約によってもできないこともありますので,任意後見でできないことはエンディングノート等により,ご自身の意思を残す必要があります。

    将来のご自身のライフプランを具体的にお持ちの方は,任意後見のご利用をご検討されてはいかがでしょうか。ご不明な点等ございましたら,当事務所までお気軽にお尋ねくださいませ。

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