第97回 著作権法改正〜違法ダウンロードの刑事罰適用
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2012年6月20日,著作権法の一部を改正する法律が国会で可決成立しました。この著作権法の改正により,違法ダウンロードに対し刑事罰が科されることになりました。違法ダウンロードは著作物の私的使用に関する問題で,今回は,改正著作権法で私的使用がどのよう変更されたのかに絞ってお話したいと思います。
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著作権法第30条は,著作物の私的使用のための複製について規定しています。すなわち,同条では,著作物の複製(コピー)について,個人的に,または,家庭内その他これに準ずる限られた範囲内においても使用することを目的とする場合は,原則,合法であるとし,例外的に,私的な使用であっても,特定の場合には違法になると規定しています。
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まず,私的使用が違法となる場合として,改正前著作権法では,著作権者が著作物を保護するために採った技術的保護手段を回避して複製する行為が違法とされていました。
これは,例えば,映画コンテンツであるビデオテープにコピーガードなされている場合に,通常は映画コンテンツを他のビデオテープやパソコンのHDDにコピーしようとしてもコピーできないのだけれども,特殊なソフトウェアを使用してコピーガードが効かないようにしてコピーすることです。
ところで,映像等のコンテンツを自由に視聴できないようにする方法としては,上記のコピーそのものができないようにするコピーガードの他に,コピーそのものは禁止しないけれどもコピーされたコンテンツを自由に視聴できないようにする方法があります。後者の方法は,アクセスコントロールと呼ばれており,映画などの市販のDVDではこの方法が使われています。しかしながら,改正前の著作権法では,違法なのはコピーガードを回避してコピーすることだけでしたので,レンタルビデオ店で,借りてきた映画DVDを,特殊なソフトウェアを使用してパソコンのHDDにコピーしパソコンで視聴できるようにしても,著作権法違反にはなりませんでした。
このように権利者に映像等のコンテンツを自由に視聴できないようにしたいとの意図がある点は同じであるけれども,その方法が異なるだけで,違法行為でなかったり,違法行為であったりするのはいかにも不相当です。そこで,今回の改正著作権法では,アクセスコントロールも技術的保護手段として位置づけ,アクセスコントロールを効かなくするようなコピーを著作権法違反であるとしました。
ただし,違法となるのは前提としてコピーガードやアクセスコントロールが施されているものに限られることになりますので,一般的にコピーガードやアクセスコントロールが施されていない音楽CDをパソコンのHDDに取り込むことは,改正著作権法でも違反とはならないとされています。
また,後述のとおり刑事罰が科されることになったのは,違法ダウンロード行為のみであり,改正前の著作権法でも違法であったコピーガードを回避してコピーする行為,改正著作権法で違法とされたアクセスコントロールが効かないようにコピーする行為は,いずれも違反の効果としては,民事上の責任に止まり,刑事上の責任を問われることはありません。
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次に,私的使用が違法になる場合として,権利者の許諾を得ずに違法にアップロードされた音楽や映像であることを知りながら権利者に無断でその音楽や映像をダウンロードすることが2009年の著作権法の改正で規定され,当該違反行為について民事上の責任が問われることとなっていましたが,今回の改正著作権法では,当該違反行為に対し,2年以下の懲役または200万円以下の罰金,もしくはその両方の刑が科されることとなりました。ただし,親告罪とされていますので,被害者である制作会社などからの告訴がない限り処罰されません。
この刑罰化については,日本弁護士連合会は,2011年12月,違法ダウンロードが規制されることになった2009年の改正で犯罪としては軽微であるとして刑罰化が見送られてからあまり期間が経過していないのではないか,私的領域におけるコンテンツのダウンロードの場合に行為者である私人に違法かどうかの判断を求めるのが酷である場合が多いのではないか,刑事罰を科したとしても抑止的効果が期待できないのではないかなどを理由として反対意見を出しており,警察による恣意的な運用の危険性があることも加え問題があると思われます。
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以上の私的使用に関する改正部分は,2012年10月1日から施行されます。違法ダウンロードは,誰しもやってしまいがちな行為だけに注意が必要です。