民事再生と会社分割
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- はじめに
近時、濫用的会社分割について、裁判所から厳しい判断が相次いでおり(福岡地裁平成22年1月14日、東京地裁平成22年5月27日、その控訴審である東京高裁平成22年10月27日等)、債権者に何らの説明もなく、また、債権者の同意を得ることもなく、会社分割により事業再生を実現する手法はもはや採り得ない状況となっており、私的整理においても、全(主要)債権者に説明のうえ同意を得て会社分割を実施する方向となっているところです。
会社分割には、一般に、(1)包括承継であるため、契約上の地位や債務について、債権者や契約の相手方の同意を得る必要がない、(2)偶発債務や簿外債務を遮断できる、(3)分割会社の許認可を承継できる場合がある、(4)債務免除益対策をとりやすい等のメリットがあるとされており、法的倒産手続においても、事業再生の手法として、会社分割が利用されることもありますので、今回は、民事再生手続と会社分割というトピックをとりあげたいと思います。
- 民事再生法には会社分割を前提とした規定がない
民事再生法(以下「法」といいます。)上、事業譲渡を前提とした規定が存在しており(法第42条、第43条)、営業等の譲渡の許可および事業の譲渡に関する株主総会の決議による承認に代わる許可により、または再生計画において事業譲渡を行うことができる制度が整っております。
これに対し、民事再生法上、会社分割についての規定はなく、その手続を裁判所の許可や再生計画によってすることはできないため、会社法所定の株主総会の特別決議や債権者保護手続を履行しなければならず、手続的には、事業譲渡に比べ、使い勝手がよいものとはなっておりません。
しかし、事業譲渡の場合、会社分割と同様、偶発債務や簿外債務を遮断できるとされているものの、そのデメリットとして、債務や契約上の地位の承継について同意を得なければならない、許認可の承継が不可能または困難である、資産移転に伴う税が多額になる等の点が指摘されており、かかるデメリットを回避するため、会社法所定の株主総会の特別決議や債権者保護手続の履行というハードルを超えてでも、民事再生法において会社分割を利用するという選択をする場合もあるところです。
- 民事再生手続における会社分割の利用パターン
民事再生手続において会社分割を利用する場合のパターンとしては、以下の4つになります(木内道祥監修、軸丸欣哉ほか著『民事再生実践マニュアル』272頁以下(青林書院、2010))。
(1) 再生手続認可確定後に会社分割と株式譲渡を行うパターン
(2) 再生手続開始申立後に会社分割を行い、再生計画認可確定前に株式譲渡を行うパターン
(3) 会社分割を再生手続開始申立前に行い、株式譲渡は再生手続開始後に行うパターン
(4) 会社分割と株式譲渡を再生手続開始申立前に行うパターン
基本的には、再生計画案(または補足説明書)に会社分割および株式譲渡を行うことが明記されることとなる上記(1)のパターンが、債権者へのアナウンス、手続の透明性という観点からは望ましいといえます。
しかし、具体的な再生の場面では、スポンサーの意向、事業の劣化が進んでいる等の理由から、時間のかかる上記(1)のパターンをとることができず、上記(2)から(4)のパターンを選択する場面もありうるところです。
これら(2)から(4)のパターンを選択する際には、いずれも債権者保護手続を省略する(分割計画書等に設立会社ないし承継会社に承継された債務については分割会社が重畳的債務引受をすることとする)手続をとる場合が大半となりますが、この場合であっても、法第42条に準じて債権者の意向聴取を実施することにより、事業譲渡に準じて債権者の意向聴取等を実施することが望ましいとされており、また、株式譲渡の譲渡対価の相当性については、会計士等の協力を得て可能な限り合理的な価格算定の経過および結果を準備する等、できうる限りの手当をすべきとされております。
- 債権者の対応方法
民事再生手続おいて会社分割が利用されるパターンをご紹介いたしましたが、いずれの場合も、事業譲渡と異なり、法において予定されている手続ではありませんので、債権者としては、通常の再生手続と比較して、より一層、再生債務者代理人・監督委員との接触が必要となります。手続の進行状況を監視し、疑問や意見があれば、債権者説明会や個別の問い合わせによりその疑問等を提示し、説明を尽くさせるべきであると考えます。
また、パターン次第ではありますが、債権者が依頼した会計士等による株式譲渡価格の再鑑定による株式譲渡価格の増額を求める意見を提示したり、事案によっては、否認権の行使や対抗スポンサーの紹介等の積極的な介入も必要になる場合がありうるかと存じます。
- 最後に
民事再生手続が会社分割についての特別の規定を置いていないことから、再生債務者、申立代理人、監督委員等の関係者は、裁判所との協議を経つつ慎重に手続を進めているのが実情ですので、民事再生手続において会社分割が利用される場面に遭遇した場合には、上記3のパターンを参考にしつつ、前記の協議の経過および結果について、より積極的に情報収集を行うことが必須であると思料します。