暴力団排除条例
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最近、大物芸能人が突然芸能界を引退し、その引退の理由が「暴力団との密接な関係があることを会社から指摘されたから」というニュースが大きく報道されました。
そして、その後、会社がその芸能人を引退させたのは、本年10月1日から東京都において「暴力団排除条例」が施行されることにより、暴力団だけでなく、暴力団と関係のある企業に対する社会の目がより厳しくなることから、会社の看板芸能人が暴力団と交際していること自体が大きなリスクとなると判断したためだ、という旨の報道がありました。
そこで、今回は、企業活動とも関係する暴力団排除条例についてお話ししたいと思います。
平成22年4月1日、福岡県が全国に先駆けて暴力団排除条例を施行して以降、各公共団体において暴力団排除条例の制定および施行が進み、本年10月1日に東京都および沖縄県で施行されることにより、全ての都道府県において暴力団排除条例が施行されることになります。
これらの条例には、「公共団体」の責務とともに、「住民」や「事業者」の責務が併せて規定されていますが、企業が特に留意すべき責務として、概ね、どの条例でも規定されているのが、
(1) 暴力団に対する利益供与の禁止
(2) 不動産の譲渡または賃貸に関する規制
の2つですので、以下において、これらの規制について簡単に説明します。
まず、上記(1)の利益供与については、企業が、いわゆる「みかじめ料」や「用心棒代」として暴力団に利益を供与すること禁止するだけでなく、例えば、兵庫県暴力団排除条例(以下「兵庫県暴排条例」といいます。)第20条第2項が以下に規定するとおり、暴力団の活動を助長しまたは暴力団の運営に資することとなる取引を禁止する例が多く見られます。
【兵庫県暴排条例第20条第2項】
「何人も、(中略)、暴力団員又は暴力団員が指定した者に対し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなることを知って、利益の供与をしてはならない。(以下省略)」
すなわち、企業が暴力団の威力を積極的に利用する場合だけでなく(このようなケースは通常の企業では考えにくいところです。)、形式的には正常な取引においても、暴力団の活動を助長すること等を知っていた場合(ほぼ同様の規定のある福岡県暴力団排除条例の解説では、暴力団の襲名披露式と知ってホテルが宴会場を利用させることや、暴力団事務所と知って建物の建設や修繕をすること等が例として挙げられています。)には、当該取引は禁止されることになり、これに違反した場合には、勧告・公表の対象となります(兵庫県暴排条例第22条、27条)。
また、上記(2)の不動産の譲渡や賃貸の規制については、不動産の所有者や不動産業者は、暴力団事務所などのために使用されることを知って、不動産を譲渡または賃貸すること(不動産業者においてはこれを代理・媒介すること)を禁止するとともに、兵庫県暴排条例第15条第3項が以下に規定するとおり、各契約において、いわゆる「暴力団排除条項」を定めるよう求める規定が多く見られます(ただし、この点については努力義務に止まる例が多いようです。)。
【兵庫県暴排条例第15条第3項】
「不動産所有者等は、不動産の譲渡等に係る契約を締結するときは、当該契約において、次に掲げる事項を定めるよう努めなければならない。
(1)当該契約の相手方は、当該不動産を暴力団事務所等の用に供してはならないこと。
(2)不動産所有者等は、当該契約の相手方が当該不動産を暴力団事務所等の用に供することとし、又は供したことが判明したときは、催告をすることなく、当該契約を解除し、又は当該不動産の買戻しをすることができること。」
これらの条例は、昨年私が担当した東町セミナーや東町トピックスにおいてご説明した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(いわゆる「反社指針」)と軌を同一にするものであり、同指針において示されている「反社会的勢力との一切の関係遮断」という要請が、今後、一層加速することは明らかです。
各企業におかれましても、もう一度、自社における反社会的勢力に対する対応に関する体制を確認し、必要な措置を講じられることが肝要と考えますので、ご質問やご相談がありましたらお気軽にお問い合わせ下さい。
【ご参考】
・兵庫県暴力団排除条例について
http://www.police.pref.hyogo.jp/seikatu/boryoku/index4.htm
・東京都暴力団排除条例について
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/sotai/haijo_seitei.htm
・愛媛県暴力団排除条例について
http://www.police.pref.ehime.jp/sotaika/jourei/betten1_setumei.pdf